概要

 南方科技大学は、特色ある大学制度とハイレベル人材養成を実現することを目標に、2012年に広東省深圳市政府により建学された新しい大学であり、経済特区としての深圳市の特色産業である第三世代半導体研究や熱電材料研究などの研究や人材養成に重点を置いている。

南方科技大学の写真
南方科技大学  同大学のHPより引用

1. 名称と所管

(1)名称

・中国語表記 南方科技大学   略称 南科大
  「科技」は科学技術と同義語で、中国では科学技術の略語だけでなく科技が独立して使用される。 
・日本語表記 南方科技大学  
・英語表記 Southern University of Science and Technology 略称 SUSTech

(2)所管

 広東省深圳市人民政府が所管する公立大学である。

2. 本部の所在地

 南方科技大学の本部は、広東省深圳市南山区桃源街道学苑大道1088号である。

 深圳市は、中国広東省の南東部に位置する。深圳市の南に香港、北に東莞市が隣接し、海を隔てて広州市、中山市、珠海市、マカオが位置する。1980年に、時の最高指導者・鄧小平の改革開放政策の一環として、深圳、珠海、厦門、汕東の4地区が経済特区に指定されたことにより、深圳市の発展が始まった。さらに1985年には、中国初のハイテク産業開発区が、中国科学院と深圳市により深圳市内に設けられた。

国家ハイテク産業開発区
国家ハイテク産業開発区の一つ 深圳市 百度HPより引用

 現在深圳の人口は約1,800万人、中国のシリコンバレーと呼ばれ技術開発が盛んな都市である。経済的にも、北京市、上海市、広州市と並び、中国で最も豊かな都市となっている。

3. 沿革

 南方科技大学は、中国の主力大学の中では近年新しく設置された大学であり、特色ある大学制度とハイレベル人材育成方式を実現することを目標に建学された。

 広東省深圳市政府は2007年に、香港の有力大学である香港科技大学をモデルに南方科技大学を設置することとし、準備事務局を設置した。

 2009年には、深圳市政府が準備事務局の作成した計画実施法案を了承し、初代学長に朱清時(朱清时、1946年~)を選任した。朱清時は四川省成都生まれで、中国科学技術大学の近代物理学科を卒業し、中国科学院の研究者となった後、母校の中国科学技術大学の学長を務めた。

朱清時の写真
朱清時  百度HPより引用

 2010年には、天津を本部とする南開大学が2002年に設立した深圳金融工程学院が深圳市政府に接収され、その敷地が新しく設置される南方科技大学のキャンパスとなった。

 2011年3月には、45名よりなる「南方科技大学教育改革実験班」が設立され、翌2012年4月教育部の承認を得て南方科技大学が正式に設立された。

4. 規模

(1)規模のデータ

 南方科技大学は、中国の主要大学の中では比較的小ぶりである。具体的な数値で見たのが下表である。

 南方科技大学中国第1位の大学 
学部学生数4,000名(127位)鄭州大学 47,000名詳細データ
大学院生数4,000名(38位)中国科学院大学 57,375名詳細データ
専任教師数547名(ー位)吉林大学 6,506名詳細データ
総予算ー(100位以下)清華大学 362.11億元詳細データ
留学生数50名(43位)北京大学 6,857名詳細データ

(2)キャンパス

 南方科技大学は、本部のある南山区のキャンパスだけである。

(3)学部

 南方科技大学は、理学院、工学院、商学院、生命科学学院、人文社会学院を中心とした比較的小規模な大学となっている。学院は、日本の大学の学部に相当する。

(4)双一流学科建設

 中国は2017年に、国内の大学とその学科を21世紀半ばまでに世界一流とすることを目標とする政策(双一流政策)を開始した。2022年に改訂された双一流学科建設において、南方科技大学は1学科が選定されている。
  ○理学系(1) 数学

(5)附属医院

○直属附属医院

南方科技大学第一附属医院(深圳市人民医院)
南方科技大学第二附属医院(深圳市第三人民医院)
南方科技大学第三附属医院(南方科技大学医院)
南方科技大学深圳医院(建設中)

○合作共建医院

南方科技大学盐田医院(深圳市盐田区人民医院)

○非直属附属医院

南方科技大学附属精神衛生中心(深圳市康宁医院)

○臨床教学医院

南方科技大学臨床教学医院(深圳市妇幼保健院)
南方科技大学臨床教学医院(北京大学深圳医院)
南方科技大学教学医院(深圳市儿童医院)
南方科技大学臨床教学医院(中国医学科学院肿瘤医院深圳医院)

5. 研究開発力

(1)研究開発力のデータ表

 南方科技大学の研究開発力を、データとして示したのが下表である。
 このうち、SCI論文数とはラリベートアナリティックス社のデータによる論文数、Nature Indexとは世界トップクラスの科学誌・学会誌掲載の論文数による指標、NSFCの面上項目予算の獲得額である。
 これで見ると、南方科技大学はNature Indexで15位と健闘しており、大学の規模は小さいが、トップクラスの研究者を擁していると考えられる。

 南方科技大学中国第1位の大学 
SCI論文数51位中国科学院大学詳細データ
Nature Index15位中国科学技術大学詳細データ
国家重点実験室数0(ランク外)清華大学 13か所詳細データ
双一流学科建設数1学科(44位)北京大学詳細データ
NSFC面上項目予算56位上海交通大学詳細データ

6. 国内および国際的な評価

 中国の国内と国際的な評価を示したのが下表である。国内では国務院教育部と中国校友会、国際では英国のQS(Quacquarelli Symonds Limited)とTHE(Times Higher Education)のランキングを示した。また、卒業生の中での傑出科学技術人材数の校友会ランキングも、併せて示した。
 これで見ると南方科技大学は、中国国内ランキングでは順位があるが、国際的なランキングでは順位がなく無名の状況にある。

 南方科技大学中国第1位の大学 
軟科ランキング32位清華大学詳細データ
校友会ランキング56位北京大学詳細データ
QSランキングランキング外北京大学詳細データ
THEランキングランキング外清華大学詳細データ
校友会傑出人材ランキング外北京大学詳細データ

7. 特記事項

(1)粤港澳大湾区(大湾区)

 「粤港澳大湾区(Guangdong-Hong Kong-Macao Greater Bay Area、略称:大湾区)」は、2016年決定の第13次五か年計画(中华人民共和国国民经济和社会发展第十三个五年规划纲要)で提示された経済発展プロジェクト実施地域の名称であり、広東省(粤)内の珠江デルタ地域の9都市、香港(港)、マカオ(澳)を指す。広東省の9都市は、広州市、深圳市、東莞市、仏山市、恵州市、江門市、肇慶市、清遠市、中山市、珠海市である。

大湾区を示す地図
大湾区の地図 百度HPより引用

 南方科技大学は、深圳市人民政府と協力しつつ、大湾区プロジェクトを教育や研究の面からバックアップする役割を担っている。

(2)現在の学長・薛其坤は優れた科学者

 2020年から、この南方科技大学の学長を務めているのが薛其坤(Qikun Xue、1962年~)である。薛其坤学長は、量子異常ホール効果を実験で確認するなど物理学で成果を挙げた研究者であり、国家自然科学一等賞や未来科学大賞などを受賞している。日本の東北大学金属材料研究所に留学し、文部教官を務めたこともあって、日本との関係も深い。

薛其坤との写真
薛其坤(中央)、筆者林(左から二人目)

参考資料

・南方科技大学HP https://sustech.edu.cn/
・南方科技大学医学院HP https://med.sustech.edu.cn/Home/Default/IndexYxy