Nationwide Unified Examination for Admissions to Universities in China (Gaokao)

1. 受験生  Examinee

(1)重点高校

 大学生の学生生活を述べる前に、高校(中国では高級中学あるいは中学と呼ぶ)生活についても少し触れる。有力大学を目指して高校時代に必死に勉強するのは、他の国と同様である。中国の場合、高校がランク付けされており、北京大学や清華大学を目指す生徒は、まず各省や各市にある重点高校に入学をし、そこで必死に勉強する。

 重点高校に入るため、受験生を抱える親はその学区に引っ越すことも辞さない。昔の孟母三遷である。日本でも高校の入学試験が小学区制であった際、「寄留」と呼ぶ慣行が横行したことがあった。これは、入りたい高校の学区に住んでいる親戚や友人に受験生を預けるもので(住民表だけ移す例もあった)、受験戦争の弊害とも言われた。その後、日本では公立高校が大学区制を採用するところが多くなり、また、学区に係らない有名私立受験高校が増加したため、現在は余り社会問題となっていない。中国の場合、単に受験生だけではなく、家族みんなで移り住むというから大変である。

 写真は、北京市内にある中国人民大学付属中学の建物である。中国人民大学自身も文科系の大学としては超難関校であるが、やはり北京大学や清華大学には及ばない。逆に北京大学や清華大学も付属中学を有しているが、受験で中国人民大学付属中学に及ばない。

中国人民大学付属中学の校舎

(2)ひたすら受験勉強

 昔は進学率が非常に低く、トップエリートしか大学には進学しなかったが、現在はおおよそ3割の生徒が大学を目指すため、例えば北京大学や清華大学など一流大学は、大変な激戦である。一流大学を目指す生徒は、重点高校に入り、後述する「高考」での高得点を目指し、ひたすら勉強に励む。日本で活発に行われているクラブ活動や、韓国でフェリー沈没事故に巻き込まれてしまった修学旅行なども中国ではほとんどなく、正規の授業と夜や土日に行われる補充授業に精を出す。

2. 高考 Nationwide Unified Examination (Gaokao)

(1)高考とは

 大学入学を目指す高校生は、「(ガオ)(カオ)」を受験し、その結果に基づいて希望する大学の学部を決めて大学側との調整をし、最終的に合格が決まる。高考とは、「普通高等学校招生全国統一考試」の通称で、全国大学入試統一テストである。ここで、「普通高等学校」というのは日本でいう4年制大学の総称である。前にも述べたが、個々の大学名としては北京大学や清華大学など「大学」と称するが、大学全体の総称は「高校」ないしは「高等学校」となっている。

 歴代中国王朝における高級官吏登用試験として科挙制度があり、唐の時代に始まり清まで1300年にわたって続いてきたが、1905年にこれが廃止された。
 その後、中国においても人材養成機関として大学の設立が続いたが、入学試験は各大学でばらばらに実施されていた。
 中国共産党による中華人民共和国後の1952年に、公平性の確保の観点から「全国統一高等学校招生制度」が実施されたのが、この高考の前身である。当時の大学生は極めて少数のため大変なエリートであり、また、大学への入学は高級官吏への出発点とも考えられたため、この招生制度はかつての科挙の後継制度と見なされることとなった。
 文革が始まった1965年に中断され、鄧小平の号令により1977年に大学入試が再開されたが、その際の名称が「普通高等学校招生全国統一考試」であり、略称として「高考」と呼ばれるようになった。

 現在の高考は、教育部(日本の文部科学省に相当)入試センターと各省・直轄市(最高位にある都市で省と同格の行政区画であり、具体的には北京市、天津市、上海市、重慶市の4市)の入試委員会が共同で管理運営しており、毎年6月に実施される。

 21世紀に入ってからの経済発展に伴い、大学への進学率は飛躍的に向上しており、現在は1,000万人を超える生徒が高考を受験するため、一種の国民的な行事となっている。試験科目は省・直轄市によって若干異なるが、基本的に国語、数学、外国語の3 科目が必須科目で、文科総合あるいは理科総合のいずれかを選択する。したがって、大学に入学したい高校生は、まず理科系か文科系かを決めて、高考の試験科目に従って勉強する。

(2)志望校や学科の選定

 高考の試験結果が受験生に通知されると、受験生は予め公表されている各大学の学科の合格最低点と自分の成績を付き合わせ、希望校をリストアップしていく。この場合、大学が大きくランク付けされており、例えば北京大学、清華大学、上海交通大学など国内トップレベル大学をいくつか順位をつけて選ぶ。次にその次のランクの大学をいくつか順位をつけて選ぶ。この場合、最初のトップ大学から例えば北京大学と清華大学の両方を順位を付けて選ぶことが出来るが、大学側は面子から自分の大学を他の大学の後に選択した受験生を合格させることはほとんどないため、結果としてトップレベル大学は一校しか意味がない。その次のランクも同様である。

 また、同じ北京大学でも学科によって合格最低点が違っているため、例えば物理学科には入れないが、化学科には入れるといったことがありうる。この場合、受験生は入りたい学科を変更して北京大学に入るか、物理学科にこだわって他の大学に入るかの選択を迫られることになる。高考を経験した中国人に聞くと、ほとんどの受験生は高校時代にはそれ程明確に志望する学科は持たず、どの大学に入るかで決めているという。

 さらに、受験生の出身地でも違ってくる。中国では農村戸籍と都市戸籍を峻別しており、このため北京市にある北京大学や清華大学は、都市戸籍を持つ受験生にはやや甘く、農村戸籍となる地方の出身者には厳しくなっており、それぞれの出身省・特別市ごとに合格最低点が違う。上海や杭州でも同様である。これも考慮して、希望の学部学科を決定する必要がある。

(3)大学側からの働きかけ

 日本では考えられないシステムとして、大学側からの強力な勧誘がある。高考の結果が出ると、大学側では各省・直轄市ごとにそれぞれ職員数名からなるチームを作り、一般には公開されないが大学側には通知される各省・直轄市の受験結果リストを元に、電話による勧誘活動を行う。つまり、電話で本人に例えば「あなたの成績であれば、○○大学電気工学科で入学を許可できる」といった形で勧誘するのである。これによって希望校や希望学科の変更となる受験生も出る。高考で良い点数を取った生徒を他の大学より少しでも多く取ることが自分の大学の将来を決めるということで、各大学とも必死なのである。

(4)現役優先

 日本では、特定の大学や特定の学科に入学するため、1年や2年の浪人生活を送る受験生も多い。中国でも高考が一発試験であるということから、病気であったり調子が悪かったりして、志望する大学に入れない受験生も出てくる。

 しかし、その後の浪人生活は日本とだいぶ違う。日本では予備校に入り受験勉強をして次の年の受験を目指すが、中国では予備校がほとんど存在せず、浪人する場合には高校に戻って受験勉強をする。高校4年生の扱いである。受験生全体の2割程度は浪人生であるという。

 もう一つ違うことは、高考での浪人生の扱いである。現役の高校生に比べて、ペナルティが課せられ、例えば北京大学のある学科の合格最低点が600点とすると、浪人生は610点が最低点となる。受験勉強を一年余計にしているのであるから、ペナルティは当然ということであろうか。

(5)大学独自の選抜

 以上は高考による選抜システムであるが、中国のトップレベル大学では、高考以外のシステムで入学が許可される生徒が存在する。例えば、清華大学では、入学する生徒の80%が高考による選抜で、20%が高考以外の選抜による。

 日本の推薦入学に当たる制度が「保送生」の制度である。どのような基準で保送生を選び、各大学がその基準で誰を入学させたかが、一覧表としてHP上に公表されている。基準としては、各省・直轄市の中から選定した指定高校で極めて優秀な成績の生徒、国際科学オリンピックで優秀な成績を上げた生徒、語学関係の高校で優秀な成績の生徒となっている。各大学は、高考が実施される前年の11月に、各高校からこの基準に合致する生徒の申請を受け付け、12月には面接などを実施して合否を決定する。

 保送生として入学できなくても、大学の自主選抜という制度により、高考前に合格が決定する生徒もいる。高考の前の3月に、各大学は独自のテストと面接により合格者を決定する。自分の所属する高校が保送生の指定高校ではなく、それでも自分が優秀であると考えた場合には、この制度を利用することになる。もちろん指定高校の生徒でも受験資格はある。また、夏に全国から高校生を集めて有料でサマースクールを開く大学もあり、このサマースクールで優秀な成績を収めた生徒は、自主選抜の受験資格を得ることが出来る。一流大学では、全国から優秀な生徒をサマースクールに集め、そのうちのさらなる成績優秀者に翌年の自主選抜の受験資格を与えている。

 高考で優秀な成績を収めた生徒を出来るだけ多く取ることが、大学側として重要であるが、他方一発勝負のため高考当日に十分に実力が発揮できなかった優秀な生徒もいると考え、高考以外の選抜にも力を入れ始めているといえよう。

(6)北京大学と清華大学への極端な偏り

 高考での選抜は、優秀な学生がどうしても有力校に偏る。少し古いが、次表は2013年の各省・直轄市の高考で各試験科目の首席となった生徒が、最終的にどの大学に入学したかを示すものである。タイトルに「状元」とあるが、状元というのは、かつての科挙の最終試験で第一等の成績を収めた者に与えられる称号で、これを高考に転用している。なお現代の高考状元は毎年数百人単位で出るが、かつての科挙ではおよそ1,300年間に状元となった者はわずかに約550名であった。

順位大学名状元数
1北京大学482
2清華大学403
3香港大学42
4復旦大学20
5香港中文大学13
6香港科技大学10
7中国人民大学6
8上海交通大学5
2013年高考状元入学者数の大学ランキング(出典)中国校友会HP

 この表を見ると、いかに北京大学と清華大学が突出しているかが分かる。香港の3大学が健闘しているが、それでも一番多い香港大学で、両大学と比較して10分の1程度である。また、香港の場合には、この時代に一国二制度が依然として維持されており、中国本土の大学とは違っていたと考えるべきである。なお、この表には8位までしか掲載されていないが、それ以降の大学数は状元数1名という大学も含めても11校しかない。

3. 進学率 University Admission Rate in China

 UNESCOの統計によれば、中国の大学進学率は2020年で58.42%である。これは、日本の64.10%とほぼ同等である。中国や日本と比較して大学進学率が高いのは、韓国の98.54%、米国の87.89%、ドイツの73.52%などである。高等教育の普及に関する国際的な基準では、一般に大学進学率が15%以下の場合は「エリート教育段階」、15%から50%では「大衆化教育段階」、50%を超えると「普及段階」とされる。中国の高等教育は、「大衆化教育」から「普及段階」に移行したとされる。

 下図は、2019年までの中国の大学入学者数と進学率の推移である。

中国の大学進学率の推移
中国の大学入学者数と進学率の推移 アジア・太平洋総合研究センターの「中国科学技術概況2021」より引用

 また下図は、中国の大学を含む高等教育機関における女性の比率推移である。女性の進出が増加しており、博士課程学生を除いて全て女性の方が比率が高い。

中国の女性の進学率の推移
中国の高等教育機関における女性の比率の推移 アジア・太平洋総合研究センターの「中国科学技術概況2021」より引用