はじめに

 これまで、人工衛星を用いた通信放送や、航行測位を見てきたが、このほかの重要な人工衛星の用途として地球観測がある。気象観測は地球表面の大気の状況を観測しているものであり広い意味での地球観測に入るが、日本でも天気予報などに気象衛星が活躍していることもあり、項目を起こして取り上げる。

1.地球観測とリモートセンシング

(1)地球観測とは

 人工衛星の利用として重要な分野に地球観測がある。地球観測とは、電波、可視光、赤外線などの各種センサにより、大気、植生、地形、海洋など地球表面の状態を観測するもので、得られたデータは地図作成、災害状況把握、資源探査、森林監視、気候変動緩和など幅広い目的に利用される。

 有史以来人類は、生存に不可欠である大地、大気、海洋の状態を、様々な手段を用いて把握しようとしてきた。一定の地点で継続反復的に観察する定点観測や、観測器を持って歩きながら観測する歩行調査などがあり、これにより地図などが作成されてきた。車両などに観測機器を搭載して測定することも行われたが、このような方法では、広大な地域を観測するためには時間と費用がかかり、また、地形によっては近づけないところもあった。

(2)リモートセンシング

 このような原始的な地球観測を大きく変えたのが、リモートセンシング (Remote Sensing) 技術であり、対象から離れて測定する技術である。地上から離れ気球、ヘリコプター、飛行機などに観測機器を搭載するリモートセンシング技術の開発により、観測範囲などが画期的に増大した。1957年にスプートニク1号が人類初の人工衛星となったことにより、リモートセンシングはさらに大きな進歩を遂げることになる。

 最初に米ソによって争われたのが、人工衛星による軍事目的の地球観測である。比較的攻撃を受けにくい宇宙空間から、地上・海上を見下ろして敵部隊や基地などの戦略目標の動きや活動状況・位置を画像情報として入手し、主に戦略計画に役立てることが目的となり、そのような任務の衛星は偵察衛星と呼ばれた。米ソ冷戦下の1959年に、米国により偵察衛星コロナが打ち上げられ、米ソを中心とした国々で軍事目的での衛星の開発と打ち上げが続いた。
 民生的な目的のリモートセンシングも軍事目的と並行して進められ、1960年には世界初の気象衛星タイロス1号が米国により打ち上げられた。その後、資源探査、地図作成、大気観測などを目的としたリモートセンシング用の人工衛星の開発が次々と進められている。

 リモートセンシングは、すでに述べたように人工衛星によるものだけを指す言葉ではなかったが、現在は人工衛星を用いた地球観測を指すのが一般的である。

2.中国の地球観測

(1)回収式衛星

 元々中国の宇宙開発は、毛沢東の両弾一星政策から始まっていることや、開発を担う組織は人民解放軍の関係機関が中心であったことなどにより、1970年4月の東方紅1号打ち上げ成功以降においても、衛星利用は軍事優先あるいは軍民両用が基本的であり、地球観測もその方向で進められた。

 1975年に中国は、初めての回収式衛星FSW-0号の打ち上げに成功した。衛星寿命は5~15日であり、近地球楕円軌道を周回する。衛星にはカメラを搭載しており、その衛星のカプセルを地上で回収し、撮影したフィルムを取り出すものであった。写真を撮り終えた後、カプセルは軌道から離脱し、レトロエンジン(逆推進ロケットエンジン)により減速して大気圏に入り、最終的にはパラシュートで地上に戻るというシステムである。FSWシリーズの衛星は、その後1992年までに合計15機打ち上げられている。

 この回収式衛星の地球への帰還システムは、有人飛行の際の「神舟」回収技術取得に重要な役割を果たしている。

(2)遥感シリーズ

 中国では、軍事目的を中心にした回収式衛星を多く打ち上げてきたが、2006年には地球観測衛星シリーズとして、遥感シリーズを開始した。遥感は中国語でリモートセンシングを意味し、科学実験、国土資源調査、作物収量評価、災害モニタリングなどに使用される。また、軍事目的の利用もこのシリーズが担っているといわれている。搭載センサとしては、光学センサ、合成開口レーダ、高精度電波測定の3種類がある。

 衛星の開発は、光学センサを搭載する衛星は中国空間技術研究院(CAST)が行い、合成開口レーダを搭載する衛星は上海航天技術研究院(SAST)が行っている。両研究院とも、中国航天工業集団有限公司(CASC)に所属している。一方、リモートセンシングの技術開発は国務院科学技術部の国家リモートセンシング・センターや中国科学院のリモートセンシング・デジタル地球学研究所などが、災害モニタリングは国務院民政部の国家減災センターが、それぞれ実施している。 

(3)CBERSと資源シリーズ

 中伯地球資源衛星(China-Brazil Earth Resources Satellite:CBERS)は、中国とブラジルが共同で開発し、中国から打ち上げられた地球資源探査のための衛星である。中国の中国空間技術研究院(CAST)とブラジルの国立宇宙研究所が共同で衛星の開発を担当し、1999年10月に初号機であるCBERS-01号が、太原衛星発射センターから長征4Bロケットにより打ち上げられた。その後、2003年にCBERS-02号が、2007年にCBERS-02B号が、2011年にCBERS-04号が打ち上げられている。

 中国独自の地球資源衛星資源(ZY)シリーズも打ち上げられているが、最初の衛星(ZY-1C)に搭載されている観測センサはCBERSと共通点が多い。その後、資源2号(ZY-2)が3機、資源3号(ZY-3)が2機打ち上げられている。資源3号は、マルチスペクトルCCDカメラや高解像度カメラ、赤外線分光計などの高性能センサを搭載していて、5万分の1の地図作成が可能となった。

(4)海洋シリーズ

 海洋の海水の色や温度の測定により、海洋生物の生態調査と資源利用、海洋汚染の監視・予防・回復、海洋の科学研究などを実施するため、中国は海洋シリーズの人工衛星を打ち上げている。衛星の運用は、国務院自然資源部の国家海洋局(SOA)が行っている。

(5)環境シリーズ

 中国は、環境と災害監視を目的に、現在までに環境(HJ)シリーズとして、2機の光学センサ搭載衛星(HJ―1A、HJ―1B)、1機のレーダ衛星(HJ-1C)を打ち上げている。運用を担当しているのは、国務院の環境保護部(MEP)にある衛星環境応用センター(SEC)である。

(6)高分シリーズ

 地球観測衛星のセンサ精度をこれまでより向上させ、資源管理、農業支援、環境保護、災害対策、都市計画および交通計画などより広範囲で多分野に応用することを目的とし、国務院の国防科学技術工業局(SASTIND)が中心となって開発されているのが高分(GF)シリーズである。高分は高分解能を意味している。2006年から開発がスタートし、2013年に初号機である高分1号が打ち上げられた。光学センサ搭載衛星とレーダ搭載衛星がある。

(7)天絵シリーズ

 国土資源の全面調査、立体的な地図の測量と製図などを任務とするのは、天絵シリーズの衛星である。2010年以降3機が打ち上げられ、国務院自然資源部の国家測絵地理情報局(NASG)が運用している。

(8)その他

 中国では、広大な国土と急激な経済発展をバックに、上記以外にも地球観測衛星の開発が進められている。具体的には、二酸化炭素を測定する「炭素」、吉林省が中心で開発を進める「吉林」、民間リモートセンシング企業が開発する「高景」などである。

3. 気象観測

 気象観測は地球観測の一種であるが、日本でも天気予報などに気象衛星が活躍していることもあり、衛星による気象観測をここで取り上げる。

(1)衛星による気象観測の歴史

気象衛星とは

 人工衛星による気象観測とは、衛星軌道上から広域の気象状況を把握することである。初期の技術として、雲を可視光線用のカメラで撮影することから始まったが、その後赤外線カメラにより雲を夜間に撮影することや、赤外線吸収カメラにより水蒸気を観測すること、マイクロ波散乱計などを用いて海上風や降雨量を測定することなどが追加されてきた。広域観測が可能であり、洋上監視も比較的容易であることから、通常の気象観測のみならず、台風観測に際しては有力な観測手段となっている。

 気象衛星は、軌道の違いにより大別して静止衛星と極軌道衛星に分けられる。静止衛星では、常に同じ半球面を対象として可視光線や赤外線のセンサを用いた気象観測を継続して実施することができる。一方、北極と南極の両極を通過する極軌道を周回する衛星では、地球上のあらゆる場所を観測対象にでき、さらに1日に2度、同一の地点を観測できる。また、静止衛星では観測が困難な両極付近の観測を行うことができる。

米国での開発

 世界初の気象衛星は、米国により1960年に打ち上げられたタイロス1号である。タイロス1号は低軌道の地球周回衛星であり、可視光カメラを搭載し撮影写真は電送により地上へ送られた。夜間撮影はできなかったが、各種の有益な観測データをもたらした。タイロスシリーズは、米国NASAと米国大気海洋局(NOAA)が主体となって開発が進められ、その後6年間に打ち上げられた10機の衛星により、様々な観測実験が行われた。1966年には静止気象衛星ATS-1が米国により打ち上げられ、世界で最初の本格的な気象衛星となった。

WMOのネットワーク構想

 米国のタイロスシリーズによる気象観測の成功は、世界各国で気象学の発展や天気予報の改善を目指そうという気運を高めることとなり、世界気象機関(WMO)により全世界をカバーする気象衛星観測ネットワーク構想である「世界気象監視計画(World Weather Watch:WWW)」が、1963年からスタートした。この構想を受け各国が気象衛星を打ち上げ、1980年代初めまでに5機の静止気象衛星と2機の極軌道衛星により地球全体を隈なく覆う観測網が確立された。

日本の気象衛星ひまわり

 日本は、WMOのWWWに参画すべく気象衛星の開発を行った国の一つであり、日本で初めての静止気象衛星となる「ひまわり」は1977年に米国ケープカナベラル空軍基地から打ち上げられた。日本はこのひまわりを用い、1978年からWWWの観測網において、アジア、オセアニアおよび西太平洋地域の観測を担った。

 ひまわりシリーズは、現在までに合計9機が打ち上げられ、2014年打ち上げのひまわり8号と、2016年打ち上げのひまわり9号が現在軌道上で運用され、2029年まで継続して気象観測を実施する予定である。

(2)中国の気象衛星

 中国での気象衛星の開発は、他の衛星利用分野に比較して比較的早く、国務院の中国気象局(CMA)傘下にある国家衛星気象センター(NSMC)が中心となって、文化大革命が終了直後の1977年に開始している。中国の気象観測衛星は「風雲」と呼ばれており、技術発展のステージごとに1~4号までシリーズ化されている。

風雲1号シリーズ

 風雲1号シリーズは、中国で最初に開発された気象衛星シリーズである。極軌道の気象観測衛星として1988年から2002年にかけて4機の衛星が打ち上げられ、2012年まで運用された。

 なお、風雲1号シリーズの3号機で1999年5月に打ち上げられた風雲1号C (FY-1C)は、2004年に機能を終え宇宙軌道上にあったが、2007年1月衛星破壊実験の標的となり、観測可能なものだけで2,841個以上という大量のスペースデブリを発生させた。

風雲2号シリーズ

 風雲2号シリーズは、静止軌道による気象衛星である。1997年6月に1機目となる衛星が打ち上げられた後、2014年までに7機が打ち上げられ、うち4機が運用中である。設計寿命は3年である。

風雲3号シリーズ

 風雲3号シリーズは、風雲1号シリーズの後継となる極軌道気象衛星である。2008年、2010年、2013年、2017年に合計4機が打ち上げられ、うち3機が運用中である。設計寿命は5年である。

風雲4号シリーズ

 風雲4号シリーズは、風雲2号シリーズの後継となる静止気象衛星である。2016年12月に1機目が打ち上げられ、2018年以降5機の打ち上げが計画されている。設計寿命は7年である。

国際貢献

 1963年にスタートしたWMOのWWWには当初より日本が参画し、「ひまわり」を用いて1978年以降、アジア、オセアニアおよび西太平洋地域の観測を担っているが、中国も静止衛星や極軌道衛星による風雲システムが構築されたことを受けて、2000年からWMOに対してデータ提供を行っている。具体的に中国は、風雲2号シリーズの2つの静止衛星によりインド洋の東経36度から108度の地域の観測を、インドおよび欧州とともに分担している。また、極軌道についても中国は風雲3号シリーズの衛星を用い、米国、欧州、ロシアとともに観測を分担している。

 さらにWMOとは別に、中国はこの風雲シリーズで得られた情報を近隣諸国に積極的に提供しており、具体的にはバングラデシュ、インドネシア、イラン、モンゴル、パキスタン、タイ、ペルー、北朝鮮、キルギスタン、ラオス、マレーシア、ミャンマー、ネパール、フィリピン、スリランカ、タジキスタン、ウズベキスタンなどの国々に衛星データの受信局を無償提供し、利用のための研修も行なっている。このような協力は、現在習近平政権が進める一帯一路政策の趣旨にも合致しており、協力国の増加や協力内容の拡大が今後図られていくと考えられる。 

4.国際的な比較(2019年時点で)

以下の記述は、2019年の時点でのものである。したがって、2023年現在では少し変化していると想定されるが、参考としてそのまま掲載する。

 JST報告書では地球観測衛星に関し、ミッションの多様性、センサ技術、公共利用の多様性、衛星製造販売と衛星画像販売、国際貢献の5つの要素により技術評価を行っている。

 まずミッションの多様性であるが、気象観測、大気観測、海洋観測、陸域観測の4つの分野のいずれにおいても中国は力を入れており、米国や欧州と並ぶ技術力を示している。

 地球観測衛星のセンサの種類と性能は、米国と欧州が各種のセンサをほぼ網羅して開発している。日本は、予算規模から欧米と同じ範囲のミッションをすべて保有することはできないが、研究のレベルで網羅的に実施する努力はなされている。また衛星開発に着手したものは、世界唯一あるいは世界最高性能の地位を確保している。ロシアは、早期警戒衛星や地震予知を目指した電磁波観測衛星で一部進んでいるものの、観測センサのバリエーションや技術の近代化で停滞している。中国では、欧州との協力などによる多くのセンサ開発の成果が出つつありハードの開発能力を得たが、観測したデータの校正検証・応用利用はまだ発展途上である。

 公共利用の多様性とは、気候、生物多様性、災害、エネルギー・資源、食料・農業、インフラ交通、公衆衛生、都市開発、水資源、総合システムなどの分野での利用の多さである。現時点では、すべての分野で満足できる利用を行っている国はないが、米国と欧州は一通りの技術開発に着手している。それに続くのが日本であり、中国とロシアは、水資源や総合システムの利用で後れを取っている。

 地球観測衛星の製造販売は欧州が先行している。米国は実質的に韓国の「KOMPSAT-1」 を製作し、日本向けには気象衛星センサの輸出を行っている。中国はブラジルと衛星の共同開発を行っており、2014年までに4機打ち上げた。またベネズエラの小型地球観測衛星を受注し打ち上げた実績がある。衛星画像ビジネスでは、欧米の企業が受信権の販売や画像販売で先行している。ロシアは受信権の販売は行っていないが、これまでの気球観測衛星の打ち上げ実績をもとに画像販売を欧米並みに行っている。日本や中国は、画像販売を行っているがその規模はまだ小さい。

 衛星による地球観測システムでは、国際協力を組織し自国の観測要求に対する不足分を賄い、他国に余剰の観測結果を与える仕組みをどのように作るかが重要である。欧州は国際災害チャータを運営管理をしていることなどから貢献度が高く、米国や日本は実際に利用された衛星の頻度で中国やロシアより貢献度が高くなっている。一方地域協力では、日本がアジア・太平洋地域宇宙機関フォーラム(APRSAF)を主導し、中国がアジア太平洋宇宙協力機構(APSCO)を主導しており、その主要協力テーマの一つが地球観測であるため、日本と中国の貢献度が高くなっている。欧州においては、ESAが欧州地域における国際協力機関の中核となっている。

 以上の各要素の評価を総合したものが、次表である。この結果は、欧州と米国がほぼ互角で強く、続いて日本と中国が続いており、ロシアは最下位となっている。中国は、軍事目的での地球観測は古くから開発運用してきているが、民生的な地球観測は比較的新しい。しかし、21世紀に入ってからの経済発展を受け、観測対象を絞った地球観測衛星を多数打ち上げる状況が続いており、これまでの弱点であったセンサ技術や公共利用の多様性などで急激に発展する可能性を秘めており、欧州や米国に近づいてくると思われる。

表 地球観測 評価結果(2015年版)

評価項目満点中国米国ロシア欧州日本
ミッションの多様性1010106.5109
センサ技術1041047.55
公共利用の多様性103.56.53.56.55
衛星製造販売・衛星画像販売524251
国際貢献52.520.554
合計402232.516.53424
(出典)『世界の宇宙技術力比較(2015年度)』を基に作成