中国には、大学や国立の研究機関を中心として、多くのライフサイエンス関係の研究機関が存在している。ここでは、いくつかの指標で分析し、その上で重要と考えられる大学や研究機関を取り上げて詳述する。

1. 国務院関係

 このHPで取り上げる予定の研究機関のうち、国務院にある機関を図示したのが下図である。

国務院のライフサイエンス研究関連部局
国務院のライフサイエンス研究関連部局

(1)大学

 中国のライフサイエンス関係の研究機関で、最も活発に研究活動を実施しているのは大学である。大学の分類としては、医学(薬学や看護学を含む)、農学、生命科学を中心とした理学が重要であり、ここでは、いくつかの指標をもとに、大学の研究能力を比較し、次の大学を選定した。大学の中には、国務院の所管でない大学もあるが、便宜上国務院のところに記述する。

 これらの詳細な内容について、順次公開する予定である。既に公開している記事は、大学名が青字になっているものであり、これをクリックすると記事に飛ぶ。

 ①医学系主要大学

北京大学医学部
北京協和医学院
○上海交通大学医学院
○復旦大学上海医学院
○四川大学華西医学中心
○華中科技大学同済医学院
○浙江大学医学院
○中山大学医学院
○首都医科大学(教育省所管ではないが、ここで取り上げる)
○南京医科大学

 ②農学系主要大学

中国農業大学
○華中農業大学
○南京農業大学
○西北農林科技大学
○浙江大学農学院

 ③生命科学系主要大学

北京大学
清華大学
中国科学技術大学

(2)中国科学院のライフサイエンス関連研究機関

 国務院に属する中国科学院は、傘下に100以上の研究所を擁し、2021年末で職員数が約7万名、支出額が約831億元(約1.7兆円)と世界的に見ても巨大な研究機関である。さらに中国科学院は、傘下の研究機関に大学院生を受け入れ、彼らに学位を授与することができる。このため、正規の職員以外に中国科学院全体で約8.4万人(2021年末)の大学院生がおり、彼らも正規の職員とともに研究活動を行っている。

 元々は、ソ連(現ロシア)の科学アカデミーを模範として設立された。ライフサイエンス研究としては、基礎生物学、動植物学、基礎医学などの研究を実施している。中国科学院において、約7万名の職員のうち約1.1万名(16%)が、約831億元の支出のうち約118億元(14%)が、ライフサイエンス研究に充当されている。

 ライフサイエンス研究に関し、中国科学院の弱点と言える点は、附属病院を有していないところであり、臨床研究を行う場合には他の大学や研究機関との連携をとる必要がある。

 本HPの他のコーナーで、現在存在する104か所の付属研究機関の中で、重要な位置にあると思われる26か所の研究機関を選び、順次取り上げている。この研究機関の選定については、個々の研究機関の規模、研究能力、研究成果についての中国科学院内での順位によりランク付けし、その上で中国国内での地理的なバランスや、研究機関の所掌研究領域を考慮して決定した(選定については、こちらを参照されたい)。
 ここでは、この26か所の研究機関のうち、ライフサイエンスに関係の深い研究機関を4つ取り上げ、記事が掲載された後に、以下の研究所名にリンクする。
○生物物理研究所
○武漢ウィルス研究所
○昆明動物研究所
○微生物研究所

(3)中国科学院以外の国務院のライフサイエンス研究機関

 ①国家衛生健康委員会

 国家衛生健康委員会は国務院に設置された行政部局で、国民の健康、医療、疾病対策などを業務としており、日本の旧厚生省に当たる。

 国家衛生健康委員会の直属組織で、ライフサイエンス研究に係わる重要な組織に、中国医学科学院・北京協和医学院と、中国疾病予防制御センターがある。
○中国医学科学院
○中国疾病予防制御センター

 ②国家中医薬管理局

 国家中医薬管理局は、国務院にある独立した機関であるが、他の部や委員会の監督を受ける機関の一つであり、上記の国家衛生健康委員会の監督を受ける。

 同局は、中国医学や漢方薬による治療・予防・健康管理、中国医学と西洋医学の統合、中国医学や漢方薬の科学的な解明などを行っており、そのための研究機関として、同局の傘下に中国中医科学院がある。
○中国中医科学院

 ③農業農村部

 農業農村部は国務院に属する行政部門であり、日本の農林水産省に概ね相当する。農業、畜産、漁業に係る行政を所管している。

 農業農村部は、傘下に農業生物学、飼料・肥料・種子、農薬、農機、獣医学、水産生物学などの研究開発を行う研究機関として、次の3つの組織を有している。
○中国農業科学院
○中国水産科学研究院
○中国熱帯農業科学院

 ④国家林業・草原局

 国家林業・草原局は、国務院にある独立した機関で、自然資源部の監督を受ける。国家林業・草原局は林業に係る業務を所管する部局であり、日本の林野庁に相当する。自然資源部は、土地利用政策、資源政策を管轄する国務院の部局である。

 国家林業・草原局の傘下に、林業の基礎研究、応用・技術開発研究を行う中国林業科学研究院が設置されている。
○中国林業科学研究院

2. 人民解放軍関係

 このHPで取り上げる予定の研究機関のうち、人民解放軍関係の機関を図示したのが下図である。

中国人民解放軍ののライフサイエンス研究関連部局

(1)軍医大学 

 軍医大学は、人民解放軍の軍医などを教育するための機関である。中国共産党成立以来、軍事医療整備を目的として徐々に発展してきた。軍事、漢方、薬局、看護、健康管理、伝染病予防、医療検査、口腔病学、放射線治療、医用電子工学などの教育訓練を行っている。

 人民解放軍の3つの軍に、それぞれ軍医大学が設置されている。
○陸軍軍医大学(第三軍医大学)
○海軍軍医大学(第二軍医大学)
○空軍軍医大学(第四軍医大学)

(2)軍事科学院

 軍事医学科学院は、主に軍事医学、基礎医学、バイオテクノロジー、健康機器及び薬物研究業務を実施するために、中央軍事委員会に直属する軍事科学院の傘下の研究機関として設置された。
○軍事医学研究院

(3)総医院

 中央軍事委員会に直属する後勤保障部の中に、人民解放軍の部隊、将校、兵士などの医療、前線での困難な病気の診断・治療の開発・習熟などを目的に、人民解放軍総医院が設置されている。この総医院は、教育機能も併せて有しており、教育機能の部分は解放軍医学院と呼ばれている。
人民解放軍総医院・解放軍医学院

3. その他

 大学、国務院、人民解放軍以外で、中国のライフサイエンス研究機関として重要なものは、地方政府関連と民間企業関連のものがある。

(1)地方政府

 中国の地方政府は、中央政府と協力しつつも独立してライフサイエンス研究の振興政策を実施している。とりわけ北京市、上海市、深圳市、あるいは広東省、江蘇省などの比較的豊かな市や省は、自らの地域の特性を生かして中央政府に匹敵するような研究開発や施設への投資を実施している。

 ここでは、その代表的な例として、北京市が設置運営している北京生命科学研究所を取り上げる。
○北京生命科学研究所

(2)民間企業

 各国のライフサイエンス研究開発に関する民間企業として製薬メーカーが重要であり、メガファーマーと呼ばれる巨大製薬メーカーは非常に大きな売上高を誇るとともに、活発な研究開発活動を実施している。米国のファイザー、メルク、ジョンソン・エンド・ジョンソン、英国のグラクソ・スミスクライン、アストラゼネカ、フランスのサノフィ、スイスのノバルティス、ロシュなどが挙げられる。

 一方米国IQVIAレポートによれば、中国の医薬品市場の規模は2018年で米国の約5000億ドルに次いで世界第二位の約1300億ドルに達しており、日本の約900億ドルを凌駕している。この大きな市場を獲得するため、外国の医薬品メーカーや国内のメーカーが競っている状況にある。

 中国の代表的な国内メーカーとして、国薬集団(シノファーム)という巨大国有企業がある。2019年のフォーチュン500の194位で、米国のメガファーマーであるファイザー198位より上位になっている。しかし、この国薬集団を含め中国国内メーカーはそれほど高い研究開発能力を有しておらず、輸入医薬品や後発医薬品(ジェネリック)を中心に製造販売しているのが現状である。