はじめに

 ノーベル賞の科学三賞(生理学・医学、物理学、化学)の2023年の受賞者は、10月初旬に順次公表されたが、残念ながら日本と中国からの受賞者はなかった。
 本コーナーは受賞者公表前に予想として作成したものであるが、日本人と中国系科学者のノーベル賞受賞候補者の分析を行うことにより、両国の科学技術事情の相違を読み取ることが出来るため、引き続き本コーナーを残すこととした。したがって、下記の記述は2023年9月時点のものである。

 本コーナーでの候補者の選定は、クラリベートアナリティックス社の引用栄誉賞と著名な賞でノーベル賞受賞に近いと目される国際賞に着目した。選定の方法はこちらを参照されたい。

 結果は、中国系の科学者が28名、日本人科学者が57名となった。詳しくは下記に述べる。

 このデータから読み取れる、日中間の科学技術比較の要点は、次の通りである。これも詳しくは下記に述べる。
○候補者の人数は日本人が多く、中国系のおよそ2倍である。
○候補者の年齢について、中国系の方が日本人より相対的に若い。
○候補者の性別について、中国系の方が日本人より女性が多い。
○出身地について、中国系の場合には香港や台湾が人口比率を超えて多い。
○国籍について、中国系の場合には米国やカナダ国籍への転籍が圧倒的に多いが、日本人はほとんどが日本国籍を維持している。
○高等教育の場所について、日本人はほとんどが国内の大学で学士や博士の学位を取得しているが、中国系の場合には学士を中国国内の大学で取得する例が多いものの、博士は全て米国等の外国の大学で取得していた。
○引用栄誉賞や著名な国際賞の受賞対象となる研究開発の場所であるが、日本人はほとんどが国内の大学や研究機関であるが、中国系の場合にはほとんどが米国等の大学や研究機関であった。

1. 中国系のノーベル賞候補リスト(28名)

 現時点で、ノーベル賞受賞の可能性のある中国系科学者は、次の28名となった。青色および赤色の太字となっている名前をクリックすると、本HP内の詳しい紹介記事が開く。赤色は女性科学者である。

盧煜明(デニス・ロー、1963年~)香港中文大学教授  (香港籍)

チン・W・タン(鄧青雲、1947年~)香港科技大学教授  (米国籍)

ユェワイ・カン(簡悦威、1936年~)カリフォルニア大学サンフランシスコ校教授 (米国籍)

バージニア・リー(李文渝、1945年~) ペンシルベニア大学教授  (米国籍)
ユアン・チャン(張遠、1959年~)ピッツバーグ大学教授 (米国籍)
フェン・チャン(張鋒、1981年~)MIT教授  (米国籍)
ロバート・チャン(錢澤南、1949年~)カリフォルニア大学バークレー校教授 (米国籍)

ジージャン・チェン(陳志堅、1966年~) テキサス大学教授 (米国籍)
アンドリュー・チーチー・ヤオ(姚期智、1946年~)清華大学教授 元プリンストン大学教授 (米国籍から中国籍に転籍)
シャオドン・ワン(王暁東、1963年~) 北京生命科学研究所長 元テキサス大学教授  (米国籍)
タクワー・マク(麦德華、1945年~) トロント大学教授 (カナダ国籍)

ゼナン・バオ(鲍哲南、1970年~) スタンフォード大学教授 (米国籍)
ホンジェ・ダイ(戴宏傑、1966年~) スタンフォード大学教授 (米国籍)
ゾンリン・ワン(王中林、1961年~)ジョージア工科大学教授 (米国籍)
ペイドン・ヤン(楊培東、1971年~)カリフォルニア大学バークレー校教授 (米国籍)

チュアン・へ(何川、1972年~) シカゴ大学教授  (米国籍)
ジャッキー・イン(1966年~)シンガポールA*STAR研究員  (米国籍)
ジュン・イェ(葉軍、1967年~)米国国立標準技術研究所(NIST)フェロー  (米国籍)
シャオウェイ・チュアン(庄小威、1972年~) ハーバード大学教授   (米国籍)
シャオガン・ウェン(文小剛、1961年~) MIT教授  (米国籍)
シュー・チェン(銭煦、1931年~) カリフォルニア大学サンディエゴ校教授  (米国籍)
チーフェイ・ウォン(翁啓恵、1948年~) スクリップス研究所、台湾中央研究院 (米国籍と台湾籍)
メン・スー(蘇萌、1984年~) 香港大学副教授、ハーバード大学 (中国籍)
ホークァン・マオ(毛河光、1941年~) 米国カーネギー研究所  (米国籍と台湾籍)
パトリック・リー(李雅達、1946年~) MIT教授 (米国籍) 
ウェンシン・リー(李文雄、1942年~) シカゴ大学教授 (米国籍と台湾籍)
ラップチー・ツィ(徐立之、1950年~) トロント大学教授・トロント小児病院、香港大学元学長 (香港籍とカナダ国籍)
ジェリー・ワン(王学荆、1937年~) カルガリー大学教授、香港科技大学名誉教授 (香港籍)

(註1)中国系科学者の定義は、中国本土、香港、台湾で生まれた人とした。これらの中には幼少期に米国などに渡った人もいる。

(註2)外国での研究成果により候補者となった科学者は、カタカタ名をメインとし、漢字名はサブとした。中国での研究成果により候補者となった科学者は、盧煜明・香港中文大学教授ただ一人であり、彼は漢字名をメインとした。

2. 日本人のノーベル賞候補リスト(57名)

 現時点で、ノーベル賞受賞の可能性のある日本人科学者は、次の57名となった。

・岸本忠三(1939年~) 元大阪大学総長    
・森 和俊(1958年~) 京都大学教授 

・坂口志文(1951年~) 大阪大学栄誉教授 

・竹市雅俊(1943年~) 京都大学名誉教授  
・平野俊夫(1947年~) 元大阪大学総長  
・審良静男(1953年~) 大阪大学特任教授
・小川誠二(1934年~) 元ベル研究所主任研究員  
・飯島澄男(1939年~) 名城大学終身教授 

・遠藤 章(1933年~) 東京農工大学栄誉教授   

・柳沢正史(1960年~) テキサス大学教授     (米国籍) 
・中沢正隆(1952年~) 東北大学特任研究員  
・藤田 誠(1957年~) 東京大学教授  
・澤本光男(1951年~) 京都大学名誉教授  
・細野秀雄(1953年~) 東京工業大学名誉教授  
・藤嶋 昭(1942年~) 東京大学特別栄誉教授 

・金森博雄(1936年~) カリフォルニア工科大学名誉教授 
・岩崎俊一(1926年~) 東北大学名誉教授 
・増井禎夫(1931年~) トロント大学名誉教授 (カナダ国籍)

・片岡一則(1950年~) 東京大学 名誉教授
・長谷川成人(1961年~) 東京都医学総合研究所分野長 
・谷口 尚(1959年~) 物質・材料研究機構センター長 
・渡邊賢司(1962年~) 物質・材料研究機構特命研究員 
・中村祐輔(1952年~) 東京大学医科学研究所教授
・金久 實(1948年~) 京都大学名誉教授 
・宮坂 力(1953年~) 桐蔭横浜大学大学院工学研究科教授 元富士写真フイルム 
・松村保広(1955年~) 国立がん研究センター分野長
・十倉好紀(1954年~) 東京大学特別栄誉教授
・水島 昇(1966年~) 東京大学教授 
・大野英男(1954年~) 東北大学総長 
・北川 進(1951年~) 京都大学特別教授
・新海征治(1944年~) 九州大学名誉教授 

・菅 裕明(1963年~) 東京大学教授  
・松波弘之(1939年~) 京都大学名誉教授  
・萩本和男(1955年~) 元NTT先端技術総合研究所所長 
・柳町隆造(1928年~) ハワイ大学名誉教授 
・香取秀俊(1964年~) 東京大学教授
・伊賀健一(1940年~) 元東京工業大学学長 
・岡本佳男(1941年~) 名古屋大学名誉教授  
・檜山爲次郎(1946年~) 京都大学名誉教授 
・三村高志(1944年~) 富士通研究所研究員  
・金出武雄(1945年~) 元カーネギーメロン大学教授  
・国武豊喜(1936年~) 九州大学名誉教授  
太田朋子(1933年~) 国立遺伝学研究所名誉教授  
・末松安晴(1932年~) 元東京工業大学学長
・西 美緒(1941年~) ソニー中央研究所研究員
・吉良満夫(1943年~) 東北大学名誉教授
・佐川眞人(1943年~) 大同特殊鋼顧問
・河岡義裕(1955年~) 東京大学 名誉教授
・関口 章(1952年~) 筑波大学教授
・三田一郎(1944年~) 名古屋大学名誉教授
・久城育夫(1934年~) 東京大学名誉教授
・玉尾皓平(1942年~) 京都大学名誉教授
・吉川弘之(1933年~) 元東京大学総長
・嶋 正利(1943年~) インテル研究員
・藤原哲朗(1931年~) 岩手医科大学名誉教授
・長田重一(1949年~) 大阪大学教授
・谷口維紹(1948年~) 東京大学先端科学技術研究センター・フェロー

(註)上記にある柳町隆造氏は、2023年9月27日に95歳で逝去された。

3. 日中両国の比較分析

 上記1および2のリストを元に、いくつかの観点での日中比較分析を行う。

(1)候補者数

 候補者の人数は日本人が多く、中国系のおよそ2倍である。

 近年論文数や引用数で、日本が中国に大差を付けられているとの記事を多く目にするが、ノーベル賞クラスの研究者では、依然として日本が中国を圧倒している。

 なお、日本の場合、日本国際賞や京都賞の受賞者が多く含まれ、これにより日本が中国を圧倒しているのではとの議論もあり得るが、過去にはこの2つの賞の受賞者から日本人・外国人を問わずノーベル賞受賞者が出ていることから、この受賞者をノーベル賞候補として問題ないと考える。
 念のため、上記57名のうち日本国際賞や京都賞だけの受賞科学者をカウントすると、日本国際賞で5名、京都賞で5名であり、これらを外すと日本人候補者数は47名となる。その場合でも、日中間の差は大きい。

(2)年齢

 候補者の年齢では、日中間に差があり、相対的に中国系が若い。

 中国系の科学者28名の生年を見ると、1930年代が3名、1940年代が9名、1950年代が2名、1960年代が8名、1970年代が4名、1980年代が2名となっている。
 日本の候補者57名の生年を見ると、1920年代が2名、1930年代が13名、1940年代が18名、1950年代が18名、1960年代が6名となっている。

 中国系の場合には半数の14名が1960年以降の生まれであるのに対し、日本人の場合には約1割の6名が1960年代生まれである。また、中国系では1970年以降が6名いるのに対し、日本人はゼロである。

 従って日本の場合、抜本的に若手登用を目指さないと、じり貧となる恐れが強い。

 なお、中国系では1950年代が2名と、前後の世代に比して少ない。またこの2名のうち、一人は香港出身のラップチー・ツィで、もう一人は台湾出身で幼年期に米国に移住したユァン・チャンであり、大陸出身者は一人もいない。
 これには理由がある。知識人蔑視と教育・研究の破壊が全国的に行われた文化大革命の影響である。
 文化大革命は、1966年に紅衛兵らの破壊活動が開始され、大学共通入試・高考が停止された。その後、少し落ち着きを取り戻したものの高考は停止されたままで推移し、復活するのは1977年の鄧小平による大号令を待たなければならなかった。
 高考の停止年である1966年に18歳以上であったのは1948年生まれ以前であり、1977年に18歳であったのは1959年生まれである。従って、大陸生まれの中国人は、この時代に完全に高等教育へのアクセスが奪われていたのである。 

(3)女性研究者

 候補者の性別について、中国系の方が日本人より女性が多い。

 中国系の科学者では、28名中以下の5名が女性である。具体的には、バージニア・リー、ユアン・チャン、ゼナン・バオ、ジャッキー・イン、シャオウェイ・チュアンである。
 これに対し日本人は57名中、太田朋子の1名のみであった。

 中華人民共和国建国以来、中国では労働力不足もあって女性の社会進出が進んでおり、大陸からのノーベル賞初受賞も屠呦呦(2015年、ノーベル生理学・医学賞)という女性研究者であった。日本では、他の分野と同様あるいはそれ以上に、科学技術分野への女性進出が遅れている。

 女性科学者の進出は、世界において大いに進んでいる。
 ノーベル賞科学三賞に限っても、2020年からの3年間に受賞した科学者26名中、女性は4名に達している。具体的にはアンドレア・ゲズ(米国人、2020年物理学賞受賞)、エマニュエル・シャルパンティエ(フランス人、2020年化学賞受賞)、ジェニファー・ダウドナ(米国人、2020年化学賞受賞)、キャロライン・ベルトッツィ(米国人、2021年化学賞受賞)である。

 したがって、日本も中国に見習って女性の科学者の進出を大いに促進すべきである。

(4)出身地

 出身地について、中国系の場合には香港や台湾が人口比率を超えて多い。

 中国の場合には歴史的な経緯や現在の政治体制などの理由で、出身地が大きな意味を有する。
 中国系候補者28名のうち、本土出身が18名である。それ以外で、盧煜明、チン・W・タン、ユェワイ・カン、ロバート・チャンの4名が香港出身、ユアン・チャン、ジャッキー・イン、チーフェイ・ウォン、ホークァン・マオ、ウェンシン・リー、ジェリー・ワン(推定)の6名が台湾出身である。
 さらに本土出身とした18名のうち、バージニア・リー、タクワー・マク、ラップチー・ツィ、パトリック・リーの4名が香港に、アンドリュー・チー・チー・ヤオが台湾に、幼い頃移住して基礎教育を受けている。
 したがって、純然たる中国本土出身者は13名となり、香港や台湾出身の比率が非常に多い。

 このことの意味であるが、香港が一国二制度であったこと、また台湾が民主主義的な政体にあることが、基礎教育、高等教育、研究開発に大きな影響を及ぼしている可能性がある。そうすると、将来香港で一国二制度が形骸化の度合いを強め中国本土並みとなると、香港での教育や研究面での優位性が減少する恐れがある。
 ただ、これを断言するためにはもう少し詳細なデータとその分析が必要と考えられる。

 一方日本の場合には、政治経済体制は全国一律であり、基礎教育や高等教育も均一的であるので、出身地を考慮する必要はあまりない。

(5)国籍

 国籍について、中国系の場合には米国やカナダ国籍への転籍が圧倒的に多いが、日本人はほとんどが日本国籍を維持している。

 中国系の場合、中華人民共和国国籍を有するのは、アンドリュー・チーチー・ヤオとメン・スーの2名のみである。このうち、アンドリュー・チーチー・ヤオは台湾出身で長い間米国籍であったが、近年中国とのきずなを強めるため、ノーベル賞受賞者である楊振寧と共に中華人民共和国国籍となったものである。
 また、一国二制度が適用されている香港籍を有するのは、盧煜明、ラップチー・ツィ、ジェリー・ワンの3名であるが、このうちラップチー・ツィはカナダ国籍も有している。
 チーフェイ・ウォン、ホークァン・マオ、ウェンシン・リーの3名は米国籍と台湾籍の双方を有している。
 残りの20名のうち、カナダ国籍のタクワー・マクを除き、19名が米国籍となっている。

 一方、日本人研究者で日本以外の国籍となっているのは、柳沢正史(米国籍)、増井禎夫(カナダ国籍)の2名のみであり、残りの55名は全て日本国籍を保持している。 

(6)学歴(学位)

 高等教育の場所について、日本人はほとんどが国内の大学で学士や博士の学位を取得しているが、中国系の場合には学士を中国国内の大学で取得する例が多いものの、博士は全て米国等の外国の大学で取得していた。

 学士学位をどこで取得したかであるが、中国系の場合には、盧煜明(ケンブリッジ大学)、チン・W・タン(ブリティッシュ・コロンビア大学)、ユアン・チャン(ユタ大学)、フェン・チャン(ハーバード大学)、ロバート・チャン(カリフォルニア大学バークレー校)、バージニア・リー(ロンドン大学)、ジャッキー・イン(クーパー・ユニオン)、タクワー・マク(ウィスコンシン大学)の8名が、海外の大学で学士の学位を取得している。それ以外の19名は中国本土、香港、台湾での取得であり、残り1名のゼナン・バオは、学士を取得せず飛び級的に大学院に入学している。
 日本の場合には、三田一郎(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校)を除いて全てが日本の大学である。

 一方、博士学位をどこで取得したかであるが、中国の場合には、中国本土、香港、台湾の大学での博士学位取得はなく、全ての人が米国、英国、カナダの大学で取得している。
 日本の場合で学位を有している人は、小川誠二(スタンフォード大学)、太田朋子(ノースカロライナ州立大学)、谷口維紹(チューリッヒ大学)、菅裕明(MIT)、三田一郎(プリンストン大学)の5名を除いて、全て日本の大学での取得である。なお、博士の学位を有していない人もいた。

 中国ではノーベル賞受賞に結びつくような科学者の高等教育は十分ではなく、早い場合には学部段階で留学する人もあり、博士課程になると中国の大学は全く不十分であると言うことになる。中国で学位制度が確立したのは、文化大革命の終了後に学位条例が施行されてからであり、ほぼ50年近くの歴史があるが、未だ米国や欧州の大学に優れた博士育成を頼っていることになる。
 一方、日本では博士号取得も日本国内の大学で何ら問題なくなっていることが、これらのデータが示している。

(7)研究場所

 引用栄誉賞や著名な国際賞の受賞対象となる研究開発の場所であるが、日本人はほとんどが国内の大学や研究機関であるが、中国系の場合にはほとんどが米国等の大学や研究機関であった。

 中国系の場合には盧煜明(香港大学病院)1名を除き、それ以外の27名は米国やカナダの大学や研究所である。

 一方日本人の場合は、小川誠二(ベル研究所)、柳沢正史(テキサス大学)、金森博雄(カリフォルニア工科大学)、増井禎夫(トロント大学)、柳町隆造(ハワイ大学)、金出武雄(カーネギーメロン大学)、嶋正利(インテル株式会社)の6名を除き、それ以外の51名は日本国内の大学や研究機関での研究が、引用栄誉賞や著名な国際賞受賞につながっている。

 日本の大学や研究機関の研究現場は欧米の研究現場と同等の状況となっていることを示している。一方、中国の研究現場は欧米や日本にまだ追いついていないことを意味する。
 ただ、近年の中国の研究現場の充実ぶりは急激であり、今後期待される。

まとめ

 今回、28名の中国系科学者と57名の日本人科学者を、ノーベル賞受賞候補としてリストアップしたが、この中から今後ノーベル賞受賞者がでることを心より期待するものである。

 今回の受賞候補から、日中における科学技術の状況を比較分析したが、これで見えてきたことは、近年論文数や引用数で、日本が中国に大差を付けられているとのマスコミなどの論調と違い、ノーベル賞クラスの研究者では、依然として日本が中国を圧倒していることである。
 論文数や引用数などの数量的な分析は、手軽で分かりやすい面があるが、その表すところは一面のみであり、必ずしも実態を表すものではない。とりわけ、巨大なポテンシャルを有する中国が国際的な研究世界に乗り出したため、従来の欧米や日本とで了解されていた常識、例えば引用数の高い論文は科学的に重要で価値があるといったこと、が単純に通用しなくなっている。

 今回の分析で、日中の違いが浮き彫りになった。若手や女性の進出については、中国に軍配が上がり、日本も見習う必要があろう。一方、基礎教育から高等教育の充実、研究現場の充実は、現時点で日本が優れている。

 ただし、気になるのは中国系研究者が、外国に積極的に出ているのに対し、日本人が内向きになっている状況も垣間見える。この辺が今後の課題であろう。