Method of Selection

 海外で評価の高い科学者の大まかな考え方として、ここではノーベル賞受賞者あるいはノーベル賞受賞候補者をメインに考え選定した。数学、建築、農学などノーベル賞に該当しない分野については、それぞれの分野で著名な国際賞を受賞した人をベースに選定した。

1. クラリベート・アナリティクス引用栄誉賞受賞者  Clarivate Citation Laureates  

 データとしてまず注目したのが、クラリベート・アナリティクス社が毎年ノーベル賞発表の直前に公表する「クラリベート・アナリティクス引用栄誉賞(引用栄誉賞)」である。

 引用栄誉賞は、クラリベート・アナリティクス社が自社のデータベース(Web of Science)を用いて論文・被引用回数の分析を行い、毎年秋のノーベル賞受賞者発表に先立ち同賞の受賞者クラスと目される研究者を公表しているもので、2002年から公表されている。かつてはトムソンロイター引用栄誉賞と呼ばれていたが、トムソンロイター社の業務再編に伴って論文データベース業務を継承したクラリベート・アナリティクス社が、この引用栄誉賞も引き継いだ。

 引用栄誉賞は、過去 20 年以上にわたる論文の被引用回数に基づき、各分野の上位 0.1%にランクインする論文を作成した科学者の中から選ばれている。ただ、定量的な被引用回数をベースとしているものの、科学的な発見の重要性や科学者自身の調査は当然として、他の国際賞の受賞歴や各国の科学アカデミー会員への選出履歴なども考慮して候補者を選別している。

 この引用栄誉賞を受賞している中国系科学者は、2023年までで11名である。
 中国系科学者の定義は、中国本土、香港、台湾で生まれた人とした。これらの中には幼少期に米国に渡った人もいる。ただし、両親が中国本土などの出身者で米国に移住した後に生まれた人はカウントしなかった。11名のうち1名は死亡しており、ここで取り上げる科学者は10名である。

2. 著名な国際賞受賞者  Notable International Award Winners

 もう一つデータとして着目したのが、著名な国際賞である。著名な国際賞として考慮した賞のリストはこちらに掲載した。数学、建築、農学などノーベル賞に該当しない分野についても、それぞれの分野で著名な国際賞をリストアップしている。
 一般的に国際賞は、論文数や引用数などの物理的なデータではなく、関連する学会などでのピアレビューを元に受賞者が選定されている。ノーベル賞も同様のプロセスで受賞者を決定していると思われる。
 この国際賞受賞者の中で、1993年以降の中国系科学者は延べ52名、重複を除いて39名であった。39名のうち7名は既に亡くなっており、生存の科学者は32名である。

3. 選定方法  Concrete Selection

 引用栄誉賞受賞者(10名)と著名な国際賞受賞者(32名)について、受賞数の多い順に並べたものが下記である。ここでは、はじめの方の科学者ほどノーベル賞受賞が期待されると考えられる。なお、既にノーベル賞を受賞している屠呦呦や、数学や建築などノーベル賞の受賞が期待できない分野の国際賞受賞者も含まれているが、これらの科学者も国際的に極めて優れた人達である。

 引用栄誉賞と著名な国際賞の両方を受賞している科学者が6名いるため、全体で36名となる。

(1)受賞数4(2名)

・盧煜明(デニス・ロー)2022年ラスカー賞、2022年ブレイクスルー賞、2016年引用栄誉賞・化学、2014年キングファイサル賞
・シン=トゥン・ヤウ(丘成桐)2023年ショウ賞、2010年ウルフ賞、1994年クラフォード賞、1982年フィールズ賞

(2)受賞数3(2名)

・チン・W・タン(鄧青雲)2019年京都賞、2014年引用栄誉賞・化学、2011年ウルフ賞
・ユェワイ・カン(簡悦威)2004年ショウ賞、1991年ラスカー賞、1984年ガードナー国際賞

(3)受賞数2(1つが引用栄誉賞、1つが国際賞)(4名)

・バージニア・リー(李文渝)2022年引用栄誉賞・生理学医学、2020年ブレークスルー賞
・ユアン・チャン(張遠)2017年引用栄誉賞・生理学医学、1998年ロベルトコッホ賞
・フェン・チャン(張鋒)2016年引用栄誉賞・化学、2016年ガードナー国際賞
・ロバート・チャン(銭沢南)2014年引用栄誉賞・生理学医学、1999年ルイザ・グロス・ホロウィッツ賞

(4)受賞数2(国際賞のみ)(6名)

・アンドリュー・チーチー・ヤオ(姚期智)2021年京都賞、2000年チューリング賞
・シャオドン・ワン(王暁東)2020年キングファイサル賞、2006年ショウ賞
・屠呦呦 2015年ノーベル生理学・医学賞、2011年ラスカー賞 
・シャンファ・テン(滕尚華)2015年ゲーデル賞、2008年ゲーデル賞
・イータン・チャン(張益唐)2014年コール賞、2014年ショック賞
・タクワー・マク(麦徳華)1995年キングファイサル国際賞、1989年ガードナー国際賞

(5)受賞数1(引用栄誉賞)(4名)

・ゼナン・バオ(鲍哲南)2022年引用栄誉賞・化学 
・ホンジェ・ダイ(戴宏傑)2020年引用栄誉賞・物理学
・ゾンリン・ワン(王中林)2015年引用栄誉賞・物理学
・ペイドン・ヤン(楊培東)2014年引用栄誉賞・物理学

(6)受賞数1(国際賞)(18名)

・ジャッキー・イン(Jackie Yi-Ru Ying)2023年キングファイサル賞
・チュアン・へ(何川)2023年ウルフ賞
・ジュン・イェ(葉軍)2022年ブレークスルー賞
・チェンヤン・シュー(許晨陽)2021年コール賞  
・ジンイ-・カイ(蔡進一)2021年ゲーデル賞 
・シー・チェン(陳汐)2021年ゲーデル賞
・シャオウェイ・チュアン(庄小威)2019年ブレークスルー賞
・ジージャン・チェン(陳志堅)2019年ブレークスルー賞
・シャオガン・ウェン(文小剛)2018年ディラック賞
・シュー・チェン(銭煦)2016年ベンジャミンフランクリンメダル
・チーフェイ・ウォン(翁啓恵、1948年~)2014年ウルフ賞
・メン・スー(蘇萌、1984年~)2014年ブルーノロッシ賞
・王 澍(1963年~)2012年プリツカー賞
・ホークァン・マオ(毛河光、1941年~)2005年バルザン賞
・パトリック・リー(李雅達)2005年ディラック賞
・ウェンシン・リー(李文雄、1942年~)2003年バルザン賞
・ラップチー・ツィ(徐立之)1990年ガードナー国際賞
・ジェリー・ワン(王学荆)1981年ガードナー国際賞