はじめに

 国家自然科学基金委員会(NSFC)は、大学や研究機関に対して基礎研究などの助成を行うとともに、若手や傑出した科学人材の発掘・育成を行っている。米国のNSFを範としている。

国家自然科学基金委員会の写真
国家自然科学基金委員会

1. 名称

〇中国語:国家自然科学基金委员会 略称:自然科学基金委 中国でもNSFCと呼ばれる場合が多い。
〇日本語:国家自然科学基金委員会 略称:日本でも英語の略称であるNSFCを使用
〇英語:National Natural Science Foundation of China 略称:NSFC

2. 所在地

 国家自然科学基金委員会は、北京市海淀区双清路83号にある。中関村とオリンピック村の間にある。NSFCを監督する国務院科学技術部も同じ海淀区にあるが、同部はNSFCから南南西に10キロメートルほど行ったところにある。

3. 沿革

(1)中国科学院での競争的資金の試み

 1981年5月、中国科学院の学部委員(現在の中国科学院院士)89名が連名で国務院に書簡を出し、基礎研究に競争的な資金援助することを目的に、中国科学院に科学基金を設立するよう提案した。
 それまで中国では、平等主義の徹底から国立の研究機関や大学では研究者数に応じて平等に研究費を配分することが中心であったが、米国などの例に倣い意欲のある優れた研究者に研究費を重点配分していく制度を導入すべきであるとしたものである。

この提案は中国共産党中央と国務院の承認を得た後、1982年3月には中国科学院の内部組織として科学基金委員会が設立された。

 1982年から申請を受け付け、1986年には計4,424の課題に資金援助し、総額は1億7,200万元に達した。このうち中国科学院のプロジェクトは14.6%で、大学などの高等教育機関が74.8%と大半を占め、残りは民間など他の研究機関であった。

(2)国家自然科学基金委員会の設立

 このように当初は中国科学院の内部資金配分システムであったが、資金配分を受けた研究者は中国科学院以外が大半であった。

 そこで、中国共産党中央は中国科学院での対応ではなく中国全体で対応すべきと考え、1985年3月に発出した「科学技術体制の改革に関する決定」において、「基礎研究および一部の応用研究事業に対し、科学基金制を徐々に試行する」との方針を記載した。

 この決定を受けて1986年2月に、国務院は中国科学院と同格となる直属事業単位として、国家自然科学基金委員会を設立した。
 米国の国立科学財団(NSF:National Science Foundation)をモデルとして設立されたこともあり、同委員会は「NSFC:National Natural Science Foundation of China」と略称されている。

(3)直属事業単位から科学技術部の傘下へ

 国家自然科学基金委員会は、2018年の競争的資金改革の一環で科学技術部の傘下の組織として再編された。

4. 任務 

 国家自然科学基金委員会は、国の科学技術発展の方針・政策に基づき、基礎研究および一部の応用研究を国の資金で助成する組織である。

 主な業務は次の通りである。

〇研究助成:国家の政策や計画に基づき、自然科学分野における基礎研究、応用研究、プロジェクト研究などの助成を行う。

〇科学技術人材育成:国家の政策や計画に基づき、若手や傑出人材を発掘し、資金助成を行う。

〇国の政策や計画立案の補助:科学技術部などと協力し、国家の科学技術政策や計画の企画立案を補助する。

〇国際協力:外国の科学技術管理部門、資金助成機関および学術組織との国際協力を実施する。米国の米国科学財団(NSF)、日本学術振興会、ドイツ研究振興協会(DFG)などと協力している。

5. 組織

 国家自然科学基金委員会は、設立当初は国務院に直属する組織であったが、現在は科学技術部の傘下にある。同委員会のヘッドは主任で、副主任が6名である。2025年6月現在の主任は窦賢康(窦贤康)で、科学技術部の共産党組織構成員(党組成員)を兼ねている。

 国家自然科学基金委員会の内部組織は、人事・財務・国際協力などの管理的な組織と分野別の組織とに分かれている。下記に分野別の組織を列記する。
・数学物理科学部
・化学科学部
・生命科学部
・生命科学部
・地球科学部
・工学・材料科学部(工程与材料科学部)
・情報科学部(信息科学部)
・管理科学部
・医学科学部
・融合科学部(交叉科学) 

6. 予算

(1)NSFCの全体予算の推移

 国家自然科学基金委員会の全体予算について、2000年から2022年までの推移を示したのが下図である。2005年の35.2億元から2022年の328.2億元と、急激に増加している。

国家自然科学基金委員会の予算推移
NSFCの予算の推移 アジア・太平洋総合研究センターの「中国科学技術概況2023」より引用

(2)一般プロジェクト(面上項目)2022年予算内訳

 一般プロジェクト(面上項目)は、日本の科研費に近く、基礎研究助成資金である。2022年は約108.8億元で全体の33%である。助成期間は4年間である。分野別としては、医学科学分野、工学・材料科学分野、生命科学分野、情報科学分野が大きくなっている。

NSFC一般プロ内訳の表
NSFC2022年度予算の一般プロジェクト内訳 アジア・太平洋総合研究センターの「中国科学技術概況2023」より引用

(3)青年科学基金プロジェクト(青年科学基金項目)2022年予算内訳

 青年科学基金プロジェクト(青年科学基金項目)は、国内若手研究者(男性35歳以下、女性40歳以下)の育成を目的とした研究助成資金である。2022年は約66.3億元で、全体の20%である。助成期間は3年間であり、2022年に約2.2万件が採択された。各分野のバランスをとって助成されているが、医学科学分野、工学・材料科学分野、生命科学分野が比較的多い。

NSFC青年科学基金2022の表
NSFC2022年度予算の青年科学基金プロジェクト内訳 アジア・太平洋総合研究センターの「中国科学技術概況2023」より引用

(4)重点プロジェクト(重点項目)2022年予算内訳

 重点プロジェクト(重点項目)は、一件当たり5年間で約300万元を重点的に拠出する資金で、2022年は約20.5億元で、全体の6%である。

NSFC2022年度予算の重点プロジェクト内訳 アジア・太平洋総合研究センターの「中国科学技術概況2023」より引用

参考資料

・国家自然科学基金委員会HP  http://www.nsfc.gov.cn/