1.国務院

(1)国務院全体

 中国においても宇宙開発は、他の国と同様に国家の事業という色彩が強い。その中では、日本の内閣にあたる国務院が重要であり、国務院の組織を示したのが下図である。

 図の中で、部・委員会とあるのが日本でいう政府省庁であり、この中では工業・情報化部が重要である。また、部・委員会が管理するものの独立的な色彩の強い部局として、工業・情報化部が監督する国家国防科技工業局がある。さらに研究開発などを担当する中国科学院や気象衛星を担当する中国気象局は直属事業単位である。

図 国務院の組織図

(2)国務院の宇宙関連部局

 国務院の宇宙関連組織だけを取り出して図示したのが下図である。

図 国務院内の宇宙関連組織

(3)工業・情報化部

 工業・情報化部(工业和信息化部、Ministry of Industry and Information Technology:MIIT)は、主として工業、情報通信、新材料、航空、宇宙などに関する産業を主管する国務院の一部局である。政府部門のIT化の推進も担当している。日本の省庁では、経済産業省と総務省の一部に相当する。また北京航空航天大学、北京理工大学、ハルビン工業大学、西北工業大学、ハルビン工程大学、南京航空航天大学、南京理工大学の7大学を傘下に有している。

 工業・情報化部の2023年1月現在の部長(日本の大臣)は金壮竜(金壮龙)である。

(4)国家国防科技工業局

 国家国防科技工業局(国家国防科技工业局、State Administration of Science, Technology and Industry for National Defense:SASTIND)は、国務院に直属する部局である。国務院の部局にはいくつかの類型があるが、この国家国防科技工業局は「部委員会が管理する部局」の一つであり、独立した組織であるものの前記の工業・情報化部の管理下にある。歴史は古く、1952年に設置された人民解放軍国防科学技術委員会が母体となり、数度の改編を経て現在に至っている。

 国家国防科技工業局は、原子力、航空、宇宙、通常兵器、船舶、電子などの国防先端技術産業を所管している。具体的には、後述する「中国航天科技集団有限公司」、「中国航天科工集団有限公司」のほか、「中国航空工業集団有限公司」、「中国船舶重工集団有限公司」、「中国核工業集団有限公司」、「中国兵器工業集団有限公司」、「中国電子子科技集団有限公司」などの巨大な国営企業を傘下に有している。

 国家国防科技工業局は、北京市の西北部に位置する海淀区阜成路にある中国航天ビル内にある。ここには同局の他、後述する国家航天局や中国航天科工集団有限公司があり、さらに隣接して中国航天科技集団有限公司のビルがある。

 2023年1月現在、国家国防科技工業局の局長は張克倹であり、共産党支部の書記を兼ねている。また張局長は、工業・情報化部の副部長および後述する国家航天局局長を兼務している。工業・情報化部での序列は第2位である。

 張克倹局長は、1961年江蘇省の昆山生まれで、人民解放軍直轄大学で湖南省長沙市にある国防科学技術大学応用物理学科で高エネルギー物理学を専攻し、安徽省合肥にある中国科学技術大学で爆発力学を専攻して修士号を取得している。その後中国工程物理研究院に研究員として配属となり、2007年同院の党委員会書記となった。2015年には国家国防科技工業局副局長となり、2018年5月に同局の局長に就いている。 

(5)国家航天局

 国家航天局(China National Space Administration:NSA)は、中国の宇宙活動全般を統括し、中国を代表して外国や国際機関との協力・調整を行う国務院の機関である。数年ごとに作成される中国の宇宙白書を刊行している組織である。

 1993年に航空航天工業部が改編され、その一部が独立して国家航天局となった。発足当初は前記の国家国防科技工業局と同様の「部委員会が管理する部局」であり、工業・情報化部の監督を受けつつも独立した部局であったが、現在は工業・情報化部の完全な傘下組織となっている。
 ただし、トップが国家国防科技工業局のトップである張克倹局長が兼務しており、同局の所在地も国家国防科技工業局と同じであることから、実態は国家国防科技工業局の内部組織に近いと考えられる。国際的な面については、現在も国家航天局が中国を代表している。

 なお、月探査計画を所管する「探月・航天工程センター」は、従来国家国防科技工業局の傘下組織であったが、近年この国家航天局の傘下組織となった。

(6)中国科学院

 中国科学院(Chinese Academy of Science : CAS)は、研究者を中心とした職員数で約6.5万名、予算額で約8,500億円と世界最大級の研究開発機関であり、傘下に100以上の研究所を中国全土に有している。中国の宇宙開発は両弾一星政策に始まるが、弾道ミサイルや人工衛星の開発そのものは国防部、人民解放軍、宇宙開発機関が中心であったものの、中国科学院は基礎的な科学技術知識の供与、関連人材の供給、関連装置等の開発において多大な貢献を果たしている。現在においても、中国科学院の多くの研究所で搭載機器の開発などが進められている。

 ここでは直接的に宇宙関連の業務を担う機関を簡単に紹介する。

 国家宇宙科学センター(国家空間科学中心:NSSC)は、中国の宇宙科学、人工衛星工学などの全般的な科学技術研究の基盤的組織であり、1958年に北京に設置され、中国の人工衛星第一号である東天紅1号の設計・開発業務、有人宇宙飛行プロジェクト、嫦娥計画などの中国の主要宇宙プロジェクトに関与している。以前は国家宇宙科学・応用研究センター(CSSAR)と呼ばれていたが、2011年に現在の名称となった。

 宇宙利用工学技術センター(空間応用工程与技術中心:CSU)は、有人宇宙飛行における科学利用に関し、計画、実施、普及利用などの業務を行っている機関である。1993年にこの組織の全身(GESSA)が設置され、2011年に現在の名称となった。

 リモートセンシング・デジタル地球学研究所(遥感与数字地球研究所:RADI)は、人工衛星や航空機を用いたリモートセンシングによる地球観測技術の開発や、リモートセンシングなどで得られるデジタル情報を用いた地球学の研究を行う研究所である。

 力学研究所(IM)は、1956年創立の由緒ある研究所であり、中国宇宙開発の父と称される銭学森博士が、1984年までの18年間にわたり初代所長を務めている。現在所内に国家微小重力実験室を設置しており、高さ100メートルの落下実験塔などの実験施設により、地上での微小重力実験を行って、宇宙での微小重力実験の準備をしている。

 国家天文台(NAOC)は中国天文学の総本山であり、LAMOST、FASTといった巨大望遠鏡やその他の先進的な施設を有している。前身は1958年に設立された北京天文台であり、2001年に他のいくつかの天文台や観測センターを統合して現在の名称となった。傘下に雲南天文台、南京天文光学技術研究所、新疆天文台、長春人工衛星観測所を有している。中国科学院傘下には、このほか紫金山天文台、上海天文台があり、この国家天文台と緊密な関係を有している。 

(7)その他の国務院の機関

 科学技術部は科学技術政策立案とトップダウン的な研究資金を配分する機関であるが、その傘下に国家リモートセンシング・センター(国家遥感中心:NRSCC)を擁している。同センターは1981年に設立され、リモートセンシング、測地、航行測位などの研究開発を行うとともに、これらの技術の実用化の促進を進めている。

 環境保護部は日本の環境省に相当する部局で、その傘下の衛星環境応用センター(衛星環境応用中心:SEC)は、主にリモートセンシング技術の環境領域での応用や研究開発を行っている。

 民政部は日本の旧自治省(現総務省)に近い国務院の部局であり、その傘下にある国家減災センター(国家減災中心:NDRCC)は、災害の被害を減少させることを目的として、衛星などから得られるデータ・情報の管理を行っている。

 自然資源部は2018年3月に国土資源部の再編に伴い発足した部で、自然資源の開発、利用、保護などを担当している。
 自然資源部の業務の一つに測量、地図作成、地質調査があり、部内にあってこの業務を担当しているのが国家図絵地理情報局(国家測絵地理信息局:NASG)である。この国家図絵地理情報局では、高分解能の人工衛星による画像を基に、中国の地図作成業務も行われている。衛星からのデータに基づいて作成された精密な地図は、すでに作成された地図の更新、土地利用計画の立案や都市基盤の整備、農業・水産・林業の振興、環境・防災対策など、これまで以上に幅広い分野での利用が期待できる。
 自然資源部のもう一つの宇宙関連機関として、国家海洋局(SOA)がある。国家海洋局は独立した国務院の機関であったが、2018年の組織再編に伴い、自然資源部の一組織となった。同局の業務は、海域使用管理、海洋生態環境保護、海洋観測・予報および災害警報などであり、地球観測衛星「海洋」シリーズなどを管理・運用している。

 中国気象局の傘下にある国家衛星気象センター(国家衛星気象中心:NSMC)は、中国の気象衛星の開発とその運用を行っている機関である。

2.人民解放軍

 中国の人民解放軍は、中国の宇宙開発当初よりその重要な担い手として関与してきた。軍事機密もあるため詳しい情報は公開されていないが、以下に中国の検索HPなどで公開されている情報を中心に記述する。

(1)中央軍事委員会と人民解放軍

 中央軍事委員会は、人民解放軍を指導する機関である。メンバーは主席、副主席、委員により構成され、2023年現在、総数7名である。中国には、中国共産党中央軍事委員会と国家中央軍事委員会が形式上あるが、共産党中央軍事委員会は共産党中央委員会によりメンバーが選出され、そのメンバーがそのまま全国人民代表大会(全人代)によって国家中央軍事委員会のメンバーとして選出されるため、実態は同一である。現在の中央軍事委員会の主席は、共産党総書記で国家主席である習近平が兼務している。

 中国の憲法に「中国共産党が国家を領導する」と明記され、中国国防法にも「中華人民共和国の武力は中国共産党の領導を受ける」と定められていることから、人民解放軍は事実上の国軍とされ、中国共産党中央軍事委員会は最高軍事指導機関と位置づけられている。

 中央軍事委員会の下に人民解放軍がある。人民解放軍の中には、陸、海、空、ロケットの4軍と戦略支援部隊などがあり、このうちで、戦略支援部隊が中国の宇宙開発に深く関与している。以前は、人民解放軍の総装備部が宇宙関連業務を担当していたが、軍事組織の改革が近年行われ、総装備部は装備発展部に改組されるとともに、宇宙開発業務は新たに設置された戦略支援部隊の担当に変更された。

図 中央軍事委員会・人民解放軍の組織図

(2)人民解放軍・戦略支援部隊

 2015年12月人民解放軍は、軍事組織の改革の一環として、「ロケット軍」、「戦略支援部隊」などを創設した。「戦略支援部隊」について詳細は明らかにされていないが、国家の安全を守る新しいタイプの作戦組織であり、人民解放軍の中で下支えの性質が強い機能を調整するために創設されたといわれている。宇宙、サイバー空間、無人機など、現代戦に不可欠な分野の後方支援部隊と考えられている。

戦略支援部隊の腕章 百度HPより引用

 初代の司令官には、軍事科学院の院長であった高津中将(当時)が任命された。高津現上将は、1959年江蘇省生まれで、1978年に人民解放軍に入隊し、2011年第2砲兵部隊参謀長、2014年人民解放軍総参謀長補佐などを歴任している生粋の軍人である。

図 人民解放軍戦略支援部隊の組織図

(3)航天系統部

 人民解放軍の中に戦略支援部隊が創設されたのに伴い、総装備部が従来担っていた宇宙開発の業務が、2016年に戦略支援部隊内の組織として設置された航天系統部に移管された。現在、航天系統部が所管している宇宙開発業務は、ロケットの打ち上げ、衛星等の追跡管制、宇宙関連研究開発、宇宙飛行士の養成訓練が主なものである。

 現在、航天系統部のヘッド(司令員)は、尚宏中将である。尚宏中将は、1960年山東省生まれで、1982年太原機械学院(現西北大学)を卒業し、酒泉衛星発射センター主任や、総装備部参謀長などを務めた後、戦略支援部隊航天系統部発足とともに、司令員に任命された。なお、戦略支援部隊の副司令員も兼務している。

 航天系統部のロケット打ち上げ業務を担う組織として、酒泉、太原、西昌の3つの衛星発射センターがあり、西昌センターの下部組織として文昌航天発射場がある。
 衛星等の追跡管制業務を担う組織として、中国西安衛星管制センター、北京航天飛行管制センター、中国衛星海上管制部が、さらに宇宙関連研究開発業務を担う組織として、中国空気動力研究・発展センター、北京追跡・通信技術研究所、航天研発センターなどが、この航天系統部の下部組織として設置されている。

(4)人民解放軍航天員大隊

 航天系統部の下部組織ではなく、戦略支援部隊直轄の組織として人民解放軍航天員大隊がある。航天員とは、中国語で宇宙飛行士のことである。元々中央軍事委員会総装備部の傘下にあったが、2017年に戦略支援部隊の傘下に再編された。

 中国の有人飛行計画である神舟計画が1992年にスタートした後、1995年には中央軍事委員会より空軍のパイロットから宇宙飛行士候補者を選定するように指示が出され、適性条件などの検討に入った。その後、宇宙飛行士候補者の選定作業が行われ、14名の隊員よりなる隊として人民解放軍航天員大隊が1998年1月に発足した。その後2003年10月には、楊利偉宇宙飛行士が神舟5号により中国で初めての有人宇宙飛行に成功した。 

3.中国航天科技集団有限公司

(1)概要

 国家国防科技工業局(SASTIND)は、中国航天科技集団有限公司(China Aerospace Science and Technology Corporation:CASC)と中国航天科工集団有限公司(CASIC)という、二つの巨大な宇宙関連国有企業を所管している。元々は政府の部局であったが、1999年7月の組織改革により2つの公司として独立した。

 まず、中国航天科技集団有限公司であるが、同社は中国の宇宙開発計画における中心企業であり、打ち上げロケット、人工衛星、宇宙船などの設計・開発および製造を行うとともに、ミサイルシステム、地上機器などの国防関連機器の設計・開発および製造も行っている。さらに、機械、化学工業、電気通信機器、輸送手段、コンピューターなどの民需産業において、多くの高品質な製品を生産している。また国際市場において商用衛星発射のサービスも提供している。

 中国航天科技集団有限公司は、本部が北京市海淀区阜成路16号にあり、国家国防科技工業局や国家航天局などが所在する中国航天ビルに隣接している。同社は傘下に、8つの科学研究・生産連合体(研究院と呼ぶ)、10の事業会社、7つの直属組織、12の民需上場企業を有しており、総資産額は2,940億元(2013年末)、職員数は17万人に達する。中国の2016年版の大企業500社リストの第80位にある。

 中国航天科技集団有限公司の現在のトップは、雷凡培董事長である。雷凡培董事長は、1963年陝西省生まれで、1987年に西北工業大学を卒業後、同社の前身である中国航天工業総公司傘下の研究所で設計などの業務に携わり、工学博士も取得している。2005年に中国航天科技集団有限公司副総経理、2013年に総経理、2014年より董事長を務めている。

 中国航天科技集団有限公司の組織図は次のとおりである。このうちで、主だった組織を簡単に紹介する。

図 中国航天科技集団有限公司の組織図

(出典)中国航天科技集団有限公司HPに基づき筆者作成

(2)中国運載火箭技術研究院

 中国運載火箭技術研究院(China Academy of Launch Vehicle Technology:CALT)は、ミサイルの研究、開発、設計、試作などを目的として1957年に国防部に設置された第五研究院を起源とする組織である。初代の院長は銭学森博士である。

 この研究院の名称にある「運載」とは運搬を、「火箭」とはロケットを、それぞれ意味している。同研究院は、液体燃料によるミサイルやロケットの研究開発を一貫して担う組織であり、長征シリーズの開発、製造の主体である。2015年末で職員数は3.16万人に上り、うち博士取得者は千人、修士取得者は5.5千人に達する。本部は北京市豊台区東高地南街で、中心部である天安門広場の約10キロメートル南に位置する。

(3)航天動力技術研究院

 航天動力技術研究院は、1962年国防部第五研究院(現中国運載火箭技術研究院)内に設置された固体エンジン研究所が前身である。当初は北京にあったが、現在は陝西省西安にある。固体燃料ロケット・エンジンの研究・開発を行っており、ロケットとミサイルに使用される70余種の固体エンジンを開発している。傘下に6つの研究所、2つの生産工場、18の会社を持ち、職員数は1.2万人に上る。

(4)中国空間技術研究院

 中国空間技術研究院(China Academy of Space Technology:CAST)は、宇宙技術開発や人工衛星などの宇宙装置の設計開発を目的として、1968年に設置された。1970年に中国初の人工衛星である東方紅1号の設計開発を行って以来、現在までに200機に上る人工衛星や宇宙船を開発製造してきている。有人宇宙船の神舟を始めとして、航行測位衛星の北斗シリーズ、月探査機の嫦娥シリーズなどが、この研究院で製作されている。

 2015年末で、職員数は2.7万人に上る。本部は北京にあり、さらに北京、天津、陝西省西安、陝西省蘭州、山東省煙台、広東省深圳、内モンゴルなどに製造基地を持っており、システム設計から機器部品等の生産、組立て、環境試験などを行っている。

(5)航天推進技術研究院

 航天推進技術研究院は、1965年に設立された第七機械工業部の067基地を前身としており、当初は陝西省鳳県に置かれたが、1995年に西安市に移動した。大型液体燃料ロケット・エンジンの研究から開発・生産、試験までを行い、これまで50余のエンジンを開発している。

(6)上海航天技術研究院

 上海航天技術研究院(Shanhai Academy of Spaceflight Technology:SAST)は1961年8月に上海市第二機電工業局として設立された宇宙機関であり、第八研究院、八院とも呼ばれる。同研究院はロケットや人工衛星の開発、特に長征6号シリーズの開発を行っている。2015年末で職員数は1.9万人である。

(7)中国衛星通信集団有限公司

 中国衛星通信集団有限公司(China Satellite Communications Co. Ltd.:China Satcom) は2001年12月に設立され、それまでの実用通信衛星のシリーズ「中星」の運用を引き継ぎ中国の6大通信企業の1つに数えられていたが、工業情報化部(MIIT)の再編方針に基づき、2009年に通信企業が3社(中国電信、中国移動、中国聯通)に統合化された際、同社の基礎電気通信部門は中国電信に吸収され、衛星通信部門は中国航天科技集団有限公司の子会社となって存続した。
 同社は、現在15個の静止通信衛星を所有し、中国全土、オーストラリア、東南アジア、中東、欧州、アフリカなどをサービスエリアとして、固定局間通信、移動体衛星通信、テレビ放送などを行っている。

(8)中国長城工業集団有限公司

 中国長城工業集団有限公司(China Great Wall Industry Corporation:CGWIC)は、中国の商用衛星打ち上げサービスへの参入を目指し、対外交渉・契約に当たる組織として1980年に設立された。中国運載火箭技術研究院、中国空間技術研究院、上海航天技術研究院などをパートナーとして、外国との契約交渉に当たっている。

中国航天科工集団有限公司

(1)概要

 中国航天科工集団有限公司(China Aerospace Scienceand Industry Corporation:CASIC)は、1999年の組織改革で中国航天科技集団有限公司とともに国家国防科技工業局の傘下に設立された国有企業であり、当初は中国航天機電集団公司という名称であったが、2001年に現在の名称となった。

 中国航天科工集団有限公司は、「科学技術により軍を強化し、宇宙開発により国に報いる(科技強軍、航天報国)」を使命とし、国防産業の科学技術の中核として、国防ミサイルシステム、固体ロケット、宇宙関連装備品の開発を行う企業である。

 中国航天科工集団有限公司は、本部が北京市海淀区阜成路甲8号にあり、国家国防科技工業局および国家航天局と同じ中国航天ビル内にある。また、前記の中国航天科技集団有限公司の本部と隣り合っている。

北京市海淀区阜成路にある
中国航天科工集団有限公司の中国航天ビル

 同社の傘下に6つの科学研究・生産連合体(研究院と呼ぶ)、10の事業会社、2つの直属組織、7つの上場企業を有しており、職員数は14万人に達する。中国の2016年版の大企業500社リストの第91位にある。

 中国航天科工集団有限公司の現在のトップは、高紅衛董事長である。高紅衛董事長は、1956年湖北省生まれで、1980年に清華大学を卒業後、2005年に中国航天科技集団有限公司副総経理、2013年に総経理、2014年より董事長を務めている。

 中国航天科技集団有限公司の組織図は次のとおりである。このうちで、主だった組織を簡単に紹介する。

図 中国航天科工集団有限公司の組織図

(出典)中国航天科工集団有限公司HPに基づき筆者作成

(2)中国航天科工信息技術研究院

 小型衛星や衛星の応用技術、特にGPS(全地球測位システム)応用技術の高度化と産業化を主要任務とする。

(3)中国航天科工防御技術研究院

 中国長峰機電技術研究院設計院とも称し、宇宙飛行物体のコントロール、制御、追跡関連設備、その他測量、地上設備等の研究・開発を行っている。

(4)中国航天科工飛行技術研究院

 中国海鷹機電技術研究院とも称し、ミサイルの研究・設計・製造等を行っている。ミサイルについては20種類ほどを製作しているという。

(5)中国航天科工動力技術研究院

 航天科工集団有限公司第 6 研究院、あるいは中国河西化工機械公司とも称し、50種類の戦略・戦術ミサイルやロケットの固体燃料エンジンを製造している。

5.宇宙開発資金の国際比較

 組織は立派であっても、それを運用する資金がなければ、宇宙開発は順調に進まない。ここで、宇宙開発主要国がどの程度の予算を有しているかを見たい。少し古いが、2014年に日本の内閣府が作成したデータでは、次のとおりとなっている。

①米国 NASAと国防総省を合わせ約4.5兆円
②欧州 ESA だけで約7,000億円
③ロシア 約3,000億円(推計)
④日本 約3,000億円
⑤中国 約2,000億円(推計)

 このように、米国が圧倒的であり、欧州、ロシア、日本、中国と続いている。しかし、中国の場合には軍事目的のものが入っていない可能性が高く、また人民解放軍が担当している打ち上げ業務、追跡管制業務、有人飛行業務などは他の宇宙主要国と違ってコストに算定されていない。現在の中国の宇宙活動の活発さを見れば、米国には劣るものの欧州を超えた資金が宇宙開発に投入されていると考えるのが妥当であろう。