はじめに

 宇宙開発では冷戦下での米ソによる激しい競争が有名であり、現在でも宇宙大国である米国、ロシア、中国などは軍事利用を中心にしのぎを削っている。他方、地球近傍の限られた空間における宇宙の平和利用や、月や太陽系惑星などの科学探査においては、従来から積極的に国際協力が進められてきた。
 ここでは、中国も参加する国際協力の枠組みを中心に世界的な動きを見たうえで、中国が主体となっている国際協力を述べる。

1.国際連合での宇宙国際協力

 スプートニクが打ち上げられた直後の1958年に、国際連合の暫定的な組織として「国際連合宇宙空間平和利用委員(United Nations Committee on the Peaceful Uses of Outer Space:COPUOS)」が設置され、翌年の国連決議により常設委員会となった。この委員会の任務は、「宇宙空間の研究に対する援助、情報の交換、宇宙空間の平和利用のための実際的方法および法律問題の検討を行い、これらの活動の報告を国連総会に提出すること」であり、傘下に科学技術小委員会と法律小委員会が設置されている。

 COPUOSの業務を支える実務機関として、1958年国際連合内に、国連宇宙局(United Nations Office for Outer Space Affairs:UNOOSA)が設置され、国連総会およびCOPUOSの決議に則り、宇宙開発に関する国際的な法的業務の実施や発展途上国の宇宙開発技術の支援を行っている。現在、本部はオーストリアのウィーンに所在している。

2.宇宙関連の国際条約・協定

(1)概要

 COPUOSは、以下の5つの条約および協定を監督している。

・宇宙条約
・宇宙救助返還協定
・宇宙損害責任条約
・宇宙物体登録条約
・月協定。

 このうち月協定を除いた他の条約・協定には、米国、ロシア、欧州主要国、中国、日本など宇宙活動を行っている主要国はすべて加盟している。以下、これらの条約・協定を簡単に説明する。

(2)宇宙条約

 正式名称は、「月その他の天体を含む宇宙空間の探査および利用における国家活動を律する原則に関する条約」である。各国の宇宙活動の基礎となる条約であり、宇宙空間における探査と利用の自由、宇宙空間の領有の禁止、宇宙平和利用の原則、国家への責任集中原則などが定められている。1967年10月に発効している。

(3)宇宙救助返還協定

 正式名称は、「宇宙飛行士の救助および送還並びに宇宙空間に打ち上げられた物体の返還に関する協定」で、宇宙条約の規定を具体化したものである。1968年12月に発効しており、宇宙飛行士が事故等により自国以外の場所に着陸をした場合における宇宙飛行士の救助、宇宙飛行士の打ち上げ国への安全かつ迅速な送還、宇宙船等の宇宙物体の打ち上げ国への返還などを定めている。

(4)宇宙損害責任条約

 正式名称は、「宇宙物体により引き起こされる損害についての国際的責任に関する条約」であり、宇宙条約の規定を具体化したものである。1972年9月に発効しており、打ち上げ国が宇宙物体によって何らかの損害を引き起こした場合、打ち上げ国は無限で無過失の責任を負うことを定めている。

(5)宇宙物体登録条約

 正式名称は、「宇宙空間に打ち上げられた物体の登録に関する条約」である。1975年9月に発効しており、宇宙物体の打ち上げ国に対し登録簿への記載、国際連合事務総長への情報提供を義務づけている。

(6)月協定

 正式名称は、「月その他の天体における国家活動を律する協定」である。月や惑星などの天体の探査に対する報告の義務付けや、個人や企業も含めて土地・資源の所有権の否定などを定めている。1984年に発効しているが、米国、ロシア、中国、日本などの主要宇宙開発国が批准しておらず、死文化しているといわれている。

3.中国の宇宙国際協力

(1)基本的な立場

 中国にとって、宇宙開発を進めるにあたり、国際協力は極めて重要な手段であった。これは、元々初期の米ソによる宇宙開発の時期が、大躍進政策や文化大革命などの混乱期であったことから、世界的な宇宙競争参入が大きく遅れたことにある。両弾一星政策は毛沢東による国の威信をかけた重要な政策であったが、この政策も米ソ冷戦構造下でのソ連の技術的な援助なしには成し得なかった。

 米国との国交正常化を成し遂げ文化大革命が終了した時点では、米国のアポロ計画による人間の月着陸もすでに終了しており、米ソの宇宙大国からは相当の距離があった。そこから中国の宇宙大国への挑戦が始まるのであるが、基本的には米ソなどへのキャッチアップが中心であり、宇宙開発先進国との協力は必要不可欠なものであった。

 中国は、国際連合による宇宙協力に積極的に参加するとともに、主要国が加盟している宇宙関連条約や協定にも積極的に参加している。また、かつてはソ連(ロシア)、現在ではそれに加えて欧州、アジア、アフリカ、南アメリカなどの国々と二国間の協力を積極的に進めている。
 特に、習近平政権となってからは、一帯一路といった国の基本的な政策との連動を強化している。

(2)二国間での協力

 二国間協力の相手として最初に挙げる必要がある国は、旧ソ連、現在のロシアである。中国はソ連から供与されたR-2ミサイルをリバースエンジニアリングして複製することにより、1960年に初めての「東風1号」ミサイルを打ち上げている。またソ連崩壊後の1990年代初頭、中国は経済的混乱期にあったロシアと交渉し、ソユーズ宇宙船の技術の提供を受けている。現在でも両国の協力委員会が定期的に開かれ、深宇宙探査、有人宇宙飛行、地球観測、衛星航行測位などの分野での協力が進められている。

 ESAは複数の国がメンバーである地域連合であるが、便宜的に二国間の協力としてここで述べると、2003年から開始された世界各国の地球観測データを利用して解析や応用研究を行うドラゴン計画が順調に進められており、2016年からはドラゴン計画第4期に入った。また、地磁気の観測を行う衛星を双方で打ち上げ観測結果を分析するダブルスター計画も、順調に実施された。一方、欧州側が中国に出資を求めていた航行測位システム「ガリレオ」計画は、欧州側が独自のシステムを目指し、中国側も独自の北斗システムを構築することとなったため、中国側は撤退している。今後とも、中欧宇宙協力委員会の下で、深宇宙探査、宇宙科学、地球観測、スペースデブリ、教育訓練などの協力が展開されることになる。

 ブラジルとの宇宙協力の歴史は長く、1988年に資源探査衛星にかかわる協定の締結に始まる。中国航天科技集団有限公司傘下の中国空間技術研究院(CAST)とブラジル国立宇宙研究所(INPE)が共同で開発した、資源探査衛星CBERS1号は、1999年に打ち上げられた。その後、2003年、2007年、2014年と、これまでに4機打ち上げられ、国土・林業・水利・農業・環境保護分野などの観測・計画・管理に利用されている。

 そのほか、フランス、イタリア、英国、ドイツ、オランダなどの欧州主要国は、ESAの枠組みに加えて、リモートセンシングや宇宙科学などの分野で、独自に中国との協力を行っている。

 一方米国は、安全保障の観点から中国との協力に極めて消極的であるが、それでも中米経済対話の枠組などの下で、スペースデブリや地球規模の気候変動についての意見交換を行っている。

 これらのほか中国は、アルジェリア、アルゼンチン、ベルギー、インド、インドネシア、カザフスタン等の国と宇宙協力協定に署名し、二国間協力のメカニズムを作り、宇宙技術・宇宙応用・宇宙科学・教育訓練などの領域で交流と協力を実施している。

(3)一帯一路政策

 習近平政権は、宇宙開発と一帯一路政策によるインフラ建設とを連携させ、一帯一路政策に関連する諸国と良好な政府間・ビジネス協力枠組を構築しようとしている。

 中国は、南アジア、アフリカ、欧州、アメリカ大陸などの地域において、グローバルな固定通信、モバイル通信、データ中継などの衛星通信サービス体制を構築している。また、インドネシア、ラオス、タイなどと、中国の気象衛星シリーズである風雲シリーズ衛星のデータ受信および分配システムを構築し、一帯一路沿線諸国の気象観測、災害予防・防止などの総合力強化に貢献している。さらに、航行測位分野においては、北斗システムの構築を進め、現在数メートルであるASEAN諸国などの低緯度地域での測位精度を、大幅に向上させることを目指している。

 このように、習近平政権の一大プロジェクトである一帯一路政策において、中国の宇宙関連部局は一体となって、その達成に貢献しようとしている。

(4)外国衛星の打ち上げ

 中国は1990年代から外国衛星の打上げを商業的に行なっており、2017年末までの打ち上げ数は50機(低軌道衛星14機、極軌道衛星15機、静止衛星21機)に達している。以下のデータは、辻野照久氏が作成したものであり、打ち上げ失敗も入っている。

① 香港(英国領時代)静止衛星5機
② パキスタン 低軌道衛星1機、静止衛星1機
③ オーストラリア 静止衛星3機
④ スウェーデン 低軌道衛星1機
⑤ 米国 静止衛星1機、低軌道衛星12機
⑥ インテルサット 静止衛星1機
⑦ フィリピン 静止衛星1機
⑧ ブラジル 極軌道衛星1機
⑨ ナイジェリア 静止衛星2機
⑩ ベネズエラ 静止衛星1機、極軌道衛星2機
⑪ インドネシア 静止衛星1機
⑫ ユーテルサット 静止衛星1機
⑬ ルクセンブルク極軌道衛星1機
⑭ トルコ 極軌道衛星2機
⑮ アルゼンチン 極軌道衛星6機
⑯ エクアドル極軌道衛星1機
⑰ ボリビア 静止衛星1機
⑱ ポーランド 極軌道衛星1機
⑲ ラオス 静止衛星1機
⑳ ベラルーシ 静止衛星1機
㉑ スペイン 極軌道衛星1機
㉒ アルジェリア 静止衛星1機

 このデータを見る限りにおいて、中国の打ち上げサービスは国際競争力が高く、東南アジア、南米、欧州の小国が主な顧客となっている。また米国は、軍事上の機密を有する衛星は別として、機密性の低い衛星の打ち上げを中国に比較的多く委託していることが判る。

(5)APSCOとAPRSAF

 アジア太平洋地域における宇宙開発協力については、中国と日本がそれぞれ異なる体制を構築している。

APSCO
 まず中国が主導するアジア太平洋宇宙協力機構(Asia-Pacific Space Cooperation Organization:APSCO)であるが、前身となったのは1992年の中国、パキスタンおよびタイの覚書によって開始されたアジア太平洋宇宙技術応用・多国間協力会議(AP-MCSTA)である。
 その後、この会議で実施されていた協力をより確かなものとするため、アジア太平洋地域諸国が宇宙技術とその平和的応用分野の交流・協力を推進し、地域経済・社会発展と共同の繁栄をはかることを目的とした連合宇宙機関が必要であるとの認識のもと、2005年に、北京において中国、パキスタン、イラン、タイ、バングラデシュ、モンゴル、ペルーによってAPSCO条約が署名され、加盟国の国内批准等を経て、2008年12月に発足した。その後、トルコが加盟し8か国となった。インドネシアは署名したものの国会承認が得られていない。
 APSCOの本部は中国北京にあり、事務局長は中国の李新軍博士であり、職員数は20名前後といわれている。

APRSAF
 一方日本が主導しているのが、アジア・太平洋地域宇宙機関会議(Asia-Pacific Regional Space Agency Forum:APRSAF)である。1992年に開催されたアジア太平洋国際宇宙年会議の閉会宣言において、日本がこのAPRSAFの開催を提案し、翌1993年より日本政府とJAXAおよびホスト国の宇宙機関の共催により年次会合を開催している。直近では、第24回年次会合が、2017年11月にインドのベンガルールで開催された。
 これまで40を超える国と地域、多くの国際機関等からの参加を得て、同地域の宇宙分野での国際協力を具体的に検討する場として活用されている。40の国には、中国やAPSCOに参加しているパキスタン、タイ、バングラデシュ、モンゴル、トルコも参加しており、さらに欧州のドイツ、英国、フランス、および米国も参加している。
 現在は4つの分科会(宇宙利用・宇宙技術・宇宙環境利用・宇宙教育)を置き、それぞれの分野における各国の宇宙活動や将来計画に関する情報交換を行うとともに、災害や環境など地域共有の課題解決に向けた国際協力プロジェクトを立ち上げ、具体的な協力活動を行っている。

4.将来の国際協力の可能性

 現在のところ中国の国際協力は、低コストを武器とする人工衛星の打ち上げサービスは順調であるものの、米国、ロシア、欧州などの宇宙開発先進国と比較してそれほど活発ではない。地域協力でみても、中国主導のAPSCOは協力内容が十分に伴っているといえず、日本主導のAPRSAFに後塵を拝している。

 しかし、宇宙開発を行っている他の主要国は、米国、ロシア、欧州、日本などいずれの国においても開発資金の捻出に苦労しており、年々開発資金が大幅に増加しているのは中国だけである。また中国は、人民解放軍や国営企業を中心に膨大な人的資源を有している。したがって、習近平政権の一帯一路政策に沿って、中国の宇宙開発の巨大な人的、資金的な資源が一帯一路諸国のインフラ整備の名目で地球観測衛星、航行測位衛星、気象衛星、通信衛星などに振り向けられ、それらが一帯一路諸国も利用できるように枠組が構築されると、状況が大きく変化していく可能性がある。

 さらに、中国が近年組み立てを完了した中国独自の宇宙ステーション計画「天宮」も、この一帯一路政策の外交的な手段として用いられる可能性がある。中国独自の宇宙ステーションは、現在中国の国威発揚の面が強いが、一旦構築されるとこの利用を国際的に開放していく可能性が高い。
 その場合、すでに長期間にわたって国際宇宙ステーションを建設・運営してきた米国、ロシア、日本、欧州などの国々よりも、これまで宇宙での有人活動に関与できなかったアジア、中東、アフリカなどの国々が大きな関心を示すと考えられる。例えば、これらの国々の人々を宇宙飛行士の訓練を施したうえで、中国の宇宙ステーションへの搭乗機会を与えるのである。
 かつてソ連(ロシア)は宇宙開発の資金稼ぎのために外国人の搭乗を進めていたが、中国の場合には経済成長が続いているため宇宙開発資金は潤沢にあり、むしろ相手国に対するサービス供与を実施しうる。したがって、一帯一路政策の後押しがあれば、東南アジア、中央アジアなどのこれまで宇宙飛行士が誕生していない国々への大きな外交手段となり得ることを認識しておく必要がある。