概要

 重慶大学(重庆大学、Chongqing University)は、直轄市の重慶市にあり、理工系を中心とした総合大学である。中国政府の大学重点化施策である211工程985工程双一流建設政策の指定校でもある。

重慶大学の写真
重慶大学  同大学HPより引用

1. 名称と所管

(1)名称

・中国語表記 重庆大学   略称 重大
・日本語表記 重慶大学  
・英語表記 Chongqing University 略称 CQU

(2)所管

 国務院教育部の直轄大学である。

2. 本部の所在地

 重慶大学の本部は、重慶市沙坪壩区沙正街174号にある。

 重慶市は、北京、上海、天津と同様、中国の4つの直轄市の1つである。重慶市の人口は、2024年時点で約3,200万人で、単独の市域人口では世界最多である。面積も、直轄市の中で最大となっている。

 重慶市は、中国大陸西部で長江上流の四川盆地東部に位置し、東は湖南省と湖北省、西は四川省、南は貴州省、北は陝西省と接する。市街地付近では山地は南北に伸びており、渓谷地帯・盆地を形成している。
 重慶市は2,300年以上の歴史を有する。中国初の統一王朝である秦が全国を36郡に分けた際、重慶市はその一つとして「巴郡」となった。時代が下って清王朝の末期には、英国、フランス、日本が重慶を内陸の貿易拠点とし、領事館を設置している。
 国民政府の時代、盧溝橋事件を契機として日中戦争が起こり、日本軍が当時の国民政府の首都であった南京を占領したため、1938年に国民党の蒋介石が首都機能を重慶市に移転させた。日本軍は、重慶市に戦略爆撃・無差別爆撃を行った。特に、1941年6月5日の爆撃は激しく、重慶防空壕内窒息事件などが発生して多数の市民が犠牲となったと言われている。
 第二次世界大戦で日本が敗北し、日本軍が中国大陸から撤退すると国共内戦が始まったが、重慶市は引き続き国民党の支配下にあった。しかし、1949年11月に人民解放軍は重慶市を解放し、前月に設立された中華人民共和国の管轄下に入った。

 重慶市は、中国の重要な経済拠点の一つである。日中戦争中に南京市・武漢市などから主要工場を疎開させたため産業が集積した。さらに新中国成立後、内陸部工業化の重点都市となり、中ソ対立の時期には大陸の沿岸部から工場が重慶市に移転した。このため、重慶市は機械工業、総合化学工業、医薬品、電子機器、電力設備などの一大基地となった。
 1997年には、内陸部振興のため重慶市は四川省から切り離されて直轄市となった。現在の主力産業は自動車産業(自動車、オートバイ)であり、また中国内最大の軍事設備生産の拠点でもある。

重慶市の夜景写真
重慶市の夜景    百度HPより引用

3. 沿革

重慶大学の沿革図
重慶大学の沿革図 維基百科HPより引用

(1)軍閥の支援により設立

 重慶大学は1929年に、当時四川省一帯を支配していた軍閥・劉湘(刘湘、1890年~1938年)の支援により1929年に設置された。

 同大学は1935年に四川省の管轄となり、四川省立重慶大学となった。その際、四川省立工学院を併合したが、逆に文学部と農学部は成都を本部とする四川大学に併入となった。 

(2)日中戦争で疎開した国立中央大学と協力

 盧溝橋事件が1937年に勃発し日中戦争が始まると、南京に本部を有した国立中央大学(現在の南京大学)は戦火を避けて西部重慶市沙慈区に疎開した。重慶大学は、キャンパスの一部を国立中央大学に貸与し、両校の教員や学校設備などを共有し、単位相互認定も行うなどの協力を進めた。
 南京が1937年末に日本軍により占領されると、中華民国の首都が重慶市に移転したため、多くの人材が重慶市に移り住んだ。その一人が著名な地質学者である李四光(Siguang Li、1889年~1971年)であり、重慶市で教鞭も取った。

 1942年には、四川省立から国の管轄に変更となり、国立重慶大学となった。 

(3)新中国で重慶大学となる

 国共内戦時には、重慶市は国民党の支配下にあったが、1949年11月に人民解放軍は重慶市を解放し、前月に設立された中華人民共和国の管轄下に入った。国立重慶大学も中国共産党が占領し、重慶大学と改名した。

 1952年の院系調整により、重慶大学の文、理、商、法、医学などの学部は他大学に移管され、工学を中心とする大学になった。

 文化大革命の終了後、重慶大学は院系調整で失った、文、理、法、医学などの学部を再建し、総合大学となっていった。 

(4)新たな重慶大学へ

 2000年5月、重慶大学は、建設部傘下の重慶建築大学(重庆建筑大学)、中国国家建設工程総公司傘下の重慶建築高等専科学校(重庆建筑高等专科学校)を合併し、新しい重慶大学が誕生した。

4. 規模

(1)規模のデータ

 重慶大学の規模について、具体的な数値で見たのが下表である。

 重慶大学中国第1位の大学 
学部学生数26,000名(31位)鄭州大学 47,000名詳細データ
大学院生数22,000名(18位)中国科学院大学 57,375名詳細データ
専任教師数3,100名(21位)吉林大学 6,506名詳細データ
総予算75.47億元(28位)清華大学 362.11億元詳細データ
留学生数1,700名(20位)北京大学 6,857名詳細データ

(2)キャンパス

 重慶大学は、本部のあるキャンパスに加え、建大キャンパス、建専キャンパス、虎溪キャンパス、両江キャンパスがある。これらはいずれも重慶市内である。

(3)学部

 重慶大学は、国務院教育部が定めている12の大分類(日本の大学の学部に相当)について、工学、理学、医学、文学、歴史、哲学、法学、芸術を有する総合大学である。農学はない。

(4)附属医院

  重慶大学のHPによれば、次の9附属医院を有している。
・附属人民医院
・附属肿瘤医院
・附属三峡医院
・附属中心医院
・附属涪陵医院
・附属江津医院
・附属黔江医院
・附属仁济医院
・附属沙坪坝医院

5. 研究開発力

(1)研究開発力のデータ表

 重慶大学の研究開発力を、データとして示したのが下表である。
 このうち、SCI論文数とはクラリベイト社のデータによる論文数、Nature Indexとは世界トップクラスの科学誌・学会誌掲載の論文数による指標、国家自然科学基金委員会(NSFC)の面上項目予算の獲得額である。国家重点実験室は下記(2)、双一流建設政策による学科建設数は下記(3)を参照されたい。

 重慶大学中国第1位の大学 
SCI論文数22位中国科学院大学詳細データ
Nature Index33位中国科学技術大学詳細データ
国家重点実験室数3か所(16位)清華大学 13か所詳細データ
双一流学科建設数3学科(31位)北京大学詳細データ
NSFC面上項目予算30位上海交通大学詳細データ

(2)国家重点実験室

 重慶大学にある3か所国家重点実験室は、次の通りである。
  ・機械伝動国家重点実験室
  ・送配電設備・システム安全・新技術国家重点実験室
  ・炭鉱安全・動力学・制御国家重点実験室

(3)双一流学科建設

 中国は2017年に、国内の大学とその学科を21世紀半ばまでに世界一流とすることを目標とする政策(双一流建設政策)を開始した。2022年に改訂された双一流建設政策による学科建設において、重慶大学は全体で以下の工学系の3学科が選定されている。
 ○工学系(3) 機械工学、電子工学、土木工学

(4)NSFC面上項目予算獲得

 日本の科研費に近い予算として、国家自然科学基金委員会(NSFC)が所管する面上項目予算がある。この予算をどの程度獲得するかで、当該大学の研究能力を判定しうる。2019年で重慶大学は中国全体で30位である。

6. 国内および国際的な評価

 中国の国内と国際的な評価を示したのが下表である。国内では軟科と中国校友会、国際では英国のQS(Quacquarelli Symonds Limited)とTHE(Times Higher Education)のランキングを示した。また、卒業生の中での傑出科学技術人材数の校友会ランキングも、併せて示した。
 これで見ると重慶大学は、中国国内と国際的な評価でいずれも30位前後である。

 重慶大学中国第1位の大学 
軟科ランキング34位清華大学詳細データ
校友会ランキング33位北京大学詳細データ
QSランキング世界489位  中国31位北京大学詳細データ
THEランキング世界401-500位 中国30位清華大学詳細データ
校友会傑出人材32位北京大学詳細データ

 

7. 特記事項

(1)卓越大学連盟

 重慶大学は2010年に、北京理工大学東南大学、大連理工大学、同済大学ハルビン工業大学華南理工大学天津大学西北工業大学の8大学とともに、「卓越人材育成協力枠組協定(卓越人才培养合作框架协议)」に署名し、協力を行っており、これを「卓越大学連盟(卓越大学联盟)、Excellence 9(E9)」と呼んでいる。
 中国にはこれとは別に、北京大学清華大学など中国トップレベルの大学が参加する別の協力枠組みである「九校連盟(九校联盟)、China 9(C9)」がある。

参考資料

・重慶大学HP https://www.cqu.edu.cn/
・維基百科HP 重庆大学
・百度HP 重庆大学重庆市