概要
華南理工大学は、広東省広州市にある総合大学である。1952年の院系調整で設置された大学であるが、同じ広州市にある中山大学と兄弟校である。

1. 名称と所管
(1)名称
・中国語表記 华南理工大学 略称 华南理工、华工
・日本語表記 華南理工大学
・英語表記 South China University of Technology 略称 SCUT
(2)所管
2. 本部の所在地
華南理工大学の本部は、広東省広州市天河区五山路381号である。五山キャンパスと呼ばれている。
広東省は、中国大陸の南に位置し、南シナ海に面している。北は福建省・江西省・湖南省と接し、西は広西チワン族自治区と接している。また南西には、かつて広東省の一部であった海南省がある。省の南に香港・マカオの両特別行政区が存在している。
気候は熱帯モンスーン気候が中心で、夏は高温多湿、冬は温暖少雨となる。現在の広東省の人口は12,684万人(中国第1位)、経済規模はGDPで約124,000億元(中国第1位)である。
広東省は、広州市および深圳・珠海の経済特区を有し、経済的に非常に富裕な省である。辛亥革命を主導した孫文は、広東省香山県(現在の中山市)の出身である。
大学のある広州市は、広東省の省都である。秦の始皇帝がこの地を占領し、県を設置したのが歴史の始まりである。近代で鎖国的な政策を取った明や清の時代でも、広州市は例外的に欧米との貿易を認められていた。中華人民共和国成立後も、香港に近いという地の利を活かし、広州市は中国の対外貿易の拠点となった。
さらに、1979年に鄧小平が対外経済開放政策を取り深圳・珠海を経済特区としたことにより、広州市はこれらの経済特区を経済圏に収め、急速な発展を遂げた。現在も、珠江デルタの中心都市として、深圳市、珠海市だけでなく、仏山市、東莞市、中山市、清遠市、恵州市などを経済的に包含する一大経済拠点を形成している。

3. 沿革
(1)華南工学院の設立
華南理工大学の母体は、中華人民共和国の建国直後に行われた高等教育機関の統合・学部調整政策である院系調整により設立された華南工学院(华南工学院)である。当時の政府は新中国建国直後の技術者不足を解消するため、旧ソ連に倣って分野ごとの単科大学や専門大学による専門人材の育成を中心とする改革を行ったのである。
華南工学院は1952年に、中山大学工学院、華南連合大学理工学院、嶺南大学の工学系学科、広東工業専科学校の4つを統合して設立された。
①中山大学工学院
中山大学の源流は、辛亥革命を指導した孫文(号は孫中山)が1924年に設置した国立広東大学であり、孫文の死去の後、広東公立医科大学や広東公立工業専門学校を吸収合併して、中山大学となった。この中山大学の工学部に当たるのが工学院である。
華南工学院設立に当たり、工学院の中の土木、化工、機械、電機、建築の5つの学科が併合された。
②華南連合大学理工学院
華南連合大学(华南联合大学)は、1925年に設立された市立広東国民大学と1927年に設立された市立広州大学が、院系調整の直前である1951年に合併して設立された。
華南工学院設立に当たり、理工学院の中の土木、機械、電機、建築の4つの学科が併合された。
③嶺南大学
嶺南大学(Lingnan University)の源流は、1888年に米国キリスト教長老会により広州市に設置された格致書院(Canton Christian College)である。
義和団事件の影響で一時マカオに移転したが、再び広州市に戻った。1927年に大学の名称が私立嶺南大学(Lingnan University)となった。日中戦争時は香港に疎開したが、太平洋戦争が始まり香港も日本軍に占領されたため、停校となった。日本軍の敗戦とともに、広東省で復校した。
華南工学院設立に当たり、理工学院の中の土木、電機の2つの学科が併合された。
④広東工業専科学校
広東工業専科学校(广东工业专科学校)の源流は、1910年に設立された広東工芸局である。設立後、数度の名称変更の後、1950年に広東工業専科学校となった。
華南工学院設立に当たり、化工、機械、水利の3つの学科が併合された。
(2)華南化工学院の分離と再統合
華南工学院は、院系調整後も近隣の大学と学科の再編を断続的に行った。
1958年には、化工部分だけを切り離した華南化工学院が設置された。4年後の1962年には分離された華南化合学院が再統合されたが、文化大革命中の1970年に再び分離した。文革の終了後の1978年には再度両者は統合し、華南工学院となった。
(3)華南理工大学に名称を変更し、総合大学に
華南理工大学は、政府の重点化大学に選ばれて、中国の主要大学の一つとして総合大学化していった。
華南理工大学は1995年に、政府の211工程に基づく重点大学の一つとなった。さらに2001年には、政府の985工程に選ばれた。
華南理工大学は2014年に、広東省人民医院の協力を得て、医学院を設立した。
4. 規模
(1)規模のデータ
華南理工大学の規模を、具体的な数値で見たのが下表である。
| 華南理工大学 | 中国第1位の大学 | ||
| 学部学生数 | 25,618名(32位) | 鄭州大学 47,000名 | 詳細データ |
| 大学院生数 | 21,185名(20位) | 中国科学院大学 57,375名 | 詳細データ |
| 専任教師数 | 2,523名(32位) | 吉林大学 6,506名 | 詳細データ |
| 総予算 | 92.20億元(24位) | 清華大学 362.11億元 | 詳細データ |
| 留学生数 | 2,425名(9位) | 北京大学 6,857名 | 詳細データ |
(2)キャンパス
華南理工大学は、本部のある五山キャンパスに加え、大学城キャンパスと広州国際キャンパスを有している。いずれも広州市内にある。
(3)学部
南方科技大学は、工学系を中心とし、併せて理学系、生命科学系、医学系、商学系、人文社会学系、芸術系、国際教育系の諸学科を有する。
(4)附属医院
华南理工大学附属广东省人民医院(广东省人民医院)
华南理工大学附属第二医院(广州市第一人民医院)
华南理工大学附属第六医院(佛山市南海区人民医院)
5. 研究開発力
(1)研究開発力のデータ表
華南理工大学の研究開発力を、データとして示したのが下表である。
このうち、SCI論文数とはラリベートアナリティックス社のデータによる論文数、Nature Indexとは世界トップクラスの科学誌・学会誌掲載の論文数による指標、国家自然科学基金委員会(NSFC)の面上項目予算の獲得額である。国家重点実験室は下記(2)、双一流建設政策による学科建設数は下記(3)を参照されたい。
| 華南理工大学 | 中国第1位の大学 | ||
| SCI論文数 | 23位 | 中国科学院大学 | 詳細データ |
| Nature Index | 23位 | 中国科学技術大学 | 詳細データ |
| 国家重点実験室数 | 3か所(16位) | 清華大学 13か所 | 詳細データ |
| 双一流学科建設数 | 4学科(27位) | 北京大学 | 詳細データ |
| NSFC面上項目予算 | 21位 | 上海交通大学 | 詳細データ |
(2)国家重点実験室
華南理工大学にある3か所の国家重点実験室は、次の通りである。
・亜熱帯建築科学国家重点実験室
・製紙工程国家重点実験室
・発光材料・部品国家重点実験室
(3)双一流学科建設
中国は2017年に、国内の大学とその学科を21世紀半ばまでに世界一流とすることを目標とする政策(双一流建設政策)を開始した。2022年に改訂された双一流建設政策による学科建設において、華南理工大学は4学科が選定されている。
〇理学系(1)化学
○工学系(3)材料科学・工学、軽工業技術・工学、食品科学・工学
(4)NSFC面上項目予算獲得
日本の科研費に近い予算として、国家自然科学基金委員会(NSFC)が所管する面上項目予算がある。この予算をどの程度獲得するかで、当該大学の研究能力を判定しうる。2019年で華南理工大学は中国全体で21位である。
6. 国内および国際的な評価
中国の国内と国際的な評価を示したのが下表である。国内では軟科と中国校友会、国際では英国のQS(Quacquarelli Symonds Limited)とTHE(Times Higher Education)のランキングを示した。また、卒業生の中での傑出科学技術人材数の校友会ランキングも、併せて示した。
これで見ると華南理工大学は、20位から30位前後の位置にある。
| 華南理工大学 | 中国第1位の大学 | ||
| 軟科ランキング | 31位 | 清華大学 | 詳細データ |
| 校友会ランキング | 25位 | 北京大学 | 詳細データ |
| QSランキング | 世界385位 中国22位 | 北京大学 | 詳細データ |
| THEランキング | 世界251-300位 中国20位 | 清華大学 | 詳細データ |
| 校友会傑出人材 | ランキング外 | 北京大学 | 詳細データ |
7. 特記事項
(1)卓越大学連盟
華南理工大学は2010年に、北京理工大学、大連理工大学、東南大学、同済大学、ハルビン工業大学、天津大学、西北工業大学、重慶大学の8大学とともに、「卓越人材育成協力枠組協定(卓越人才培养合作框架协议)」に署名し、協力を行っており、これを「卓越大学連盟(卓越大学联盟)、Excellence 9(E9)」と呼んでいる。
中国にはこれとは別に、北京大学や清華大学など中国トップレベルの大学が参加する別の協力枠組みである「九校連盟(九校联盟)、China 9(C9)」がある。
(2)卒業生の一人・唐本忠
華南理工大学の卒業生の一人に唐本忠・香港中文大学(深圳)理工学院長がいる。

唐本忠は、日本の京都大学への留学経験のある高分子化学者で、凝集誘起発光(AIE)の研究で成果を挙げ、2017年に国家自然科学賞一等賞を筆頭者として受賞している。
参考資料
・華南理工大学HP https://www.scut.edu.cn/new/
・華南理工大学医学院HP https://www2.scut.edu.cn/med/

