はじめに

 謝毅(谢毅、Xie Yi、1967年~)は、厦門大学中国科学技術大学大学院を卒業した無機化学者で、2015年にロレアル-ユネスコ女性科学者賞を受賞した。

謝毅の写真
謝毅   京公网HPより引用

生い立ちと教育

 謝毅(谢毅、Xie Yi)は1967年に、中国大陸内陸部の東部に位置する安徽省阜陽市に生まれた。安徽省は、東シナ海に面する江蘇省や浙江省に隣接しており、上海市に近い位置にある。阜陽市は、安徽省の北西部にあり、2021年の人口調査で約820万人となっている。

 謝毅が生まれる前年の1966年に文化大革命が開始され、9歳となった1976年に終了しているので、文化大革命による教育全般に対する負の影響は、それほどなかったと想定される。

 謝毅は地元の中高一貫校である阜陽第一中学に入り、1984年に全全国大学共通入試である高考を受験した。阜陽第一中学の時の学内模試では物理がトップになったこともあり、謝毅は物理学科への進学を念頭に置いていた。しかし、高考の成績では物理が芳しい成績ではなく、むしろ化学の方が良い成績であり、その結果を受けて南部・福建省の名門大学・厦門大学の化学科への入学が許可された。
 高考の結果がトラウマとなり、厦門大学に入っても化学にそれほど興味が持てなかった。しかし、4年生となって構造化学を学び始めてからは固体結晶構造における原子の巧妙な配置に魅了され、その後の卒業論文作成を通じて化学が大変好きになった。

故郷安徽省の化学工場に勤務

 謝毅は、1988年に厦門大学化学科を卒業し、当時の中国政府の大学卒業生の就職斡旋方針に従って、故郷安徽省の省都・合肥市にあった化学工場の技術助手に採用された。

 科学研究を夢見ていた謝毅であったが、工場勤務となったことを前向きにとらえ、新たな挑戦に向き合った。採用された工場では、工程の転換期にあって新たな分析ラボラトリーの設置が必要となっていた。21歳であった謝毅は分析ラボの責任者として、ラボの設計、機器の購入、品質管理基準の策定、40名近くの技術者養成方針などを実行していった。
 後に謝毅は、「工場での4年間を無駄ではありませんでした。体系的で複雑かつ責任ある仕事を単独で遂行することができ、細部に注意を払う習慣と困難を乗り越える勇気が養われたのです」と語っており、これが現在までの研究者としてのゆるぎない精神につながったという。

中国科学技術大学へ

 謝毅は、合肥の化学工場での分析ラボの立ち上げを成功させ、工場での生産・品質管理の技術者に戻った。この業務は単調で退屈なものであったため、以前から有していた研究者の道に戻りたいと考えるようになった。

 合肥には、中国の大学でトップクラスに位置する、中国科学院傘下の中国科学技術大学がある。謝毅は、工場勤務を続けながら大学院入試に臨み、1992年に中国科学技術大学大学院の応用化学系に合格した。

 謝毅は、1996年に中国科学技術大学より博士学位を取得して卒業し、引き続き同大学に留まって教員となった。

 1997年に米国に赴き、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校でポスドク研究を行った。

 1998年に帰国して、中国科学技術大学の教授となった。

固体化学分野で成果

 謝毅は、中国科学技術大学の大学院博士課程在学中、固体化学の中で非酸化物の溶媒熱合成法の確立に取り組み、これを博士論文とした。この研究はScience誌(1996年、筆頭著者)に掲載された。

 続いて、固体化学の基本原理を出発点とし、物質固有の構造特性を指針としてその成長を制御することに着目し、特徴的な結晶構造と特徴的なテンプレートを組み合わせた一連の二元的な相乗効果戦略を確立・発展させ、三次元集合構造の構築に成功した。

 さらに、固体化学における電気音響変調という挑戦的な分野に目を向け、電子とフォノンの変調を通して無機固体の性能制御を実現し、原子構造、電子構造、そして固有の特性との間に真に明確な構造-特性相関を確立することを目指した。そして、半導体二次元超薄型構造の微細構造、電子構造、および基本的な熱電特性と光電特性の間の制御規則を明らかにした。

ロレアルーユネスコ女性科学賞受賞

 謝毅は2013年に、中国科学者の最高栄誉である中国科学院院士に当選した。

 謝毅は2015年に、ロレアルーユネスコ女性科学者賞を受賞した。受賞理由は「ナノ固体化学の原理を応用して新たなエネルギー材料を探索する研究、そして二次元超薄型半導体が光電変換効率と熱電変換効率を向上させる方法を発見した功績」であった。

ロレアルーユネスコ女性科学賞受賞式での謝毅   京公网HPより引用

 ロレアルーユネスコ女性科学賞(Prix L'Oréal-Unesco pour les femmes et la science)は、フランスの化粧品会社ロレアルと国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が、科学における女性の地位向上を目的として、科学の進歩に貢献した優れた女性科学者を1998年から表彰している賞であり、受賞者に10万ドルの研究助成金が授与される。
 アジアの女性科学者も多く受賞しており、第一回(1998年)は韓国の微生物学者・柳明姫が、第二回(2000年)は日本の分子生物学者・岡崎恒子名古屋大学名誉教授が、第五回(2003年)は中国科学院物理研究所研究員で電子顕微鏡研究者の李方華(李方华、Li Fanghua)が、それぞれの国で初めて受賞している。
 謝毅は、第十七回(2015年)の受賞であり、中国人の科学者では李方華葉玉如(叶玉如、Nancy Y. Ip、1955年~)任詠華(任咏华、Vivian Yam Wing-Wah、1963年~)に次いで、4人目の受賞であった。

参考資料

・中国科学技術大学HP 谢毅 中国科学院院士
・厦門大学化学化工学院HP 【天南地北厦大人】谢毅:顺其自然的科研“哲学”
・百度HP 谢毅:从化工厂到科学院院士的非凡逆袭之路
・360doc 从安徽阜阳走出来的中科院院士、我国著名的无机化学家谢毅
・央広网HP 中国女科学家谢毅教授折桂“女性诺贝尔奖” http://news.cnr.cn/native/gd/20150319/t20150319_518053894.shtml
・中国軍网HP 中国教授谢毅获“世界杰出女科学家奖” http://www.81.cn/gnxw/2015-03/20/content_6405739.htm