はじめに

 清華大学生命科学系 には、医学院、生命科学学院、薬学院、万科公衆衛生・健康学院などがある。

 清華大学医学院の設置は比較的新しく2001年である。北京大学など他の主要大学と比較すると、それほど実績を有していない。

 清華大学生命科学学院の設置も、1984年に前身の生物科学・技術系が設置され、2009年に学院となったもので、比較的新しい。ただ、清華大学における生命科学の教育研究は戦前の1926年に遡り、北京大学と覇を争っていたが、1952年の院系調整で北京大学に吸収された歴史がある。

 これらの他、清華大学の生命科学系には、薬学院、万科公衆衛生・健康学院がある。

1. 清華大学全体

 清華大学 (清华大学、Tsinghua University) は北京にあり、北京大学と並んで中国のトップ大学である。世界的にも最上位に位置する大学となっている。圧倒的に工学系に秀でている。

 清華大学本体については、こちらを参照されたい。

2. 医学院

(1)歴史

 清華大学には、医学を教育する医学院(School of Medicine, Tsinghua University)がある。設立は比較的新しく、2001年10月である。

清華大学医学院の写真
清華大学医学院  視覚中国HPより引用

(2)専門領域

 専門領域としては、基礎医学、生物医学工学、臨床医学の3つの系を有している。基礎医学には免疫学、腫瘍生物学、微生物・伝染病学、神経科学、分子・細胞生物学が、生物医学工学には医学影像学、神経工学、ナノテク・組織工学、医療機器が含まれる。

(3)附属医院および教学医院

 臨床医学に関連して、清華大学医学部は次の4つの附属医院と3つの教学医院を有している。

○附属医院:
・清華大学附属華信医院(清华大学附属华信医院)
・清華大学附属玉泉医院(清华大学附属玉泉医院)
・北京清華長庚医院(北京清华长庚医院)
・清華大学附属垂楊柳医院(清华大学附属垂杨柳医院)

○教学医院:
北京協和医院(北京协和医院)
・北京医院
・中日医院

(4)双一流学科

 2017年に開始された双一流政策による学科建設は、2022年に改訂され、清華大学は北京大学と共に自ら学科を選定しうる特別な地位にあり、全体で34の学科を選定している。このうち、医学院では「生物医学・工学」が選定されている。

(5)清華大学医学部は北京協和医学院の別称

 上記の清華大学医学院とは別に、清華大学医学部がある。これは、北京協和医学院の別称である。
 清華大学は2004年に、北京協和医学院と協力協定を結び、同医学院は清華大学医学部と併称してもよいこととなった。次の北京協和医学院の正門の写真を掲載したが、そこに清華大学医学部の看板が読み取れる。
 ただ、実質的に清華大学が分担するのは、同大学生命科学学院で実施される医学教育前半2.5年間が中心である。

北京協和医学院の正門
清華大学医学部の看板を掲げる北京協和医学院  百度HPより引用

3. 生命科学学院

 清華大学には、数学や物理学などを教育・研究する理学院(School of Sciences)があるが、これとは別に生物系は生命科学学院(School of Life Sciences)が設置されている。

(1)歴史

 清華大学に生物系ができたのは1926年であり、その後発展して北京大学の生物学系と共に中国の生物学の発展に寄与した。1937年に日中戦争が始まると、清華大学は北京大学や南開大学(天津)などと西部に疎開し、国立西南連合大学の下で生物学系を構成した。

 1945年に日本が第二次世界大戦で敗北したため、国立西南連合大学の一部として活動していた旧清華大学の関係者は翌1946年に北京に戻り、清華大学生物系を再建した。中華人民共和国建国後の1952年に、中国全土において大学の学部調整政策・院系調整が行われ、北京大学の理学部は北京大学に吸収され、生物系も北京大学に一元化して北京大学理学部生物学系となった。

 文化大革命終了後、中国主要大学における総合大学化の動きにあわせて清華大学でも理学部の再建が進められ、その一環で1984年に清華大学生物科学・技術系が設置された。

 さらに、2009年にはこの生物科学・技術系は、生命科学学院として学院(学部)に発展した。初代の院長には、著名な科学者である施一公が就任した。

生命科学学院のある清華大学生命科学楼の写真
清華大学生命科学楼  百度HPより引用

(2)学院の規模

 生命科学学院のHPによれば、同学院には生物科学と生物技術の2学科がある。
 同学院の教職員数は、全体で660人、そのうち教師数は91人である。また、同学院の学生数は、本科生が498人、大学院生数が1,145人である。

(3)双一流学科

 双一流政策による学科建設において、清華大学は北京大学と共に自ら学科を選定しうる特別な地位にあり、全体で34の学科を選定している。このうち、生命科学学院では「生物学」が選定されている。

(4)国家重点実験室

 清華大学生命科学学院には、次の国家重点実験室がある。
・膜生物学国家重点実験室(膜生物学国家重点实验室、北京大学と共同)

4. 薬学院

 清華大学生命科学系の学院の一つに薬学院(药学院、School of Pharmaceutical Sciences)がある。中国の大学では、例えば北京大学の様に薬学系は医学部にある例が多いが、清華大学は独立している。

 薬学院の設置は比較的新しく、2012年に医学、工学、生物、化学などの分野に分散していた薬学系の講座を一つにまとめて、薬学系が設置された。そしてその三年後の2015年に薬学院が正式に発足した。

 薬学院の教師数は38人であり、また、学生数は学部生100人、修士学生2人、博士学生274人となっている。

5. 万科公衆衛生・健康学院

 清華大学万科公衆衛生・健康学院(万科公共卫生与健康学院)は、中国の不動産会社・万科企業股份有限公司が清華大学に同社の株式2億株を寄付して2020年に設立された学院であり、清華大学では企業名を冠した初めての学院である。
 万科企業股份有限公司は、中国の大手不動産デベロッパーであり、珠江デルタ、長江デルタなどの都市で不動産開発・販売を行っている会社である。近年の不動産不況を受けて、厳しい企業業績となっている。

 万科公衆衛生・健康学院は、清華大学の多くの学術的なポテンシャルを活用し、公衆衛生と健康分野での新しい教育・研究のモデルを構築することを目標としている。現在のところは本科生はおらず、大学院生のみで教育が行われている。

参考資料

・清華大学HP https://www.tsinghua.edu.cn/
・清華大学医学院HP https://www.med.tsinghua.edu.cn/index.htm
・清華大学生命科学院HP https://life.tsinghua.edu.cn/index.htm
・清華大学薬学院HP https://www.sps.tsinghua.edu.cn/index.htm
・清華大学万科公衆衛生・健康学院HP https://vsph.tsinghua.edu.cn/index.htm