はじめに
胡海嵐(胡海岚、Hu Hailan、1973年~)浙江大学教授は、脳や神経とうつ病との関係を研究する科学者であり、2022年にロレアル-ユネスコ女性科学者賞を受賞した。

生い立ちと教育
胡海嵐(胡海岚、Hu Hailan)は1973年に、浙江省の省都である杭州市に生まれた。
杭州市は、隋代以降、京杭大運河の終着点として経済文化が発達し、「上有天堂、下有蘇杭(上に天国あり、下に蘇州・杭州あり)」と称えられた。南宋時代には臨安府として都が置かれた。市中心部の西には世界遺産の西湖があり、胡海嵐が現在教鞭をとっている浙江大学の本部もこの西湖の湖畔にある。

胡海嵐は小さいときから学業優秀であり、地元の名門中高一貫校である杭州第二中学に通った。高校生の時代には数学が得意であり、また全国物理オリンピックで優勝した。この物理オリンピックで優勝したことにより、胡海嵐は北京大学の保送生に選抜され、1991年に北京大学物理学科に入学が許可された。
保送生の制度は日本の推薦入学に当たる制度であり、大学側が指定した高校で極めて優秀な成績の生徒、国際科学オリンピックで優秀な成績を上げた生徒、語学関係の高校で優秀な成績の生徒などを対象として、中国の全国統一大学入試制度である高考の受験を経ずに入学を許可するものである。胡海嵐は、この保送生の制度を利用して、中国の最高峰の大学である北京大学に入学したのである。
生物学に目覚める
北京大学の物理学科に入学した胡海嵐は、大学で学ぶうちに興味を物理学から生物学に移していった。彼女は、物理学が比較的成熟した分野であると考える一方、生命科学の分野にはまだ探求すべき未知の領域がたくさんあると感じ、物理学科から生物学科に転科した。
胡海嵐が、生物学で最初に関心を持ったのは生化学や分子生物学であったが、スティーヴ・W・カフラーとジョン・G・ニコルズらが著した『ニューロンから脳へ:神経生物学入門』という書籍に深く感銘を受け、将来の専攻分野として脳科学を選ぶことを決意した。脳科学は未知に満ちており、それこそが彼女を真に魅了したのである。
米国に留学
胡海嵐は、1996年に北京大学を卒業して学士学位を取得したのち、米国のカリフォルニア大学バークレー校に留学した。専攻したのは神経生物学であり、2002年に同大学から博士学位を取得した。
胡海嵐は、2003年から2004年に、東部バージニア大学に移り、ポスドク研究を続け、さらに2004年にはニューヨーク州ロングアイランドにあるコールド・スプリング・ハーバー研究所(Cold Spring Harbor Laboratory )に移って引き続きポスドク研究を行った。コールド・スプリング・ハーバー研究所は、がん、神経科学、植物学、ゲノミクス、定量生物学に焦点を当てた研究を推進する研究機関である。
胡海嵐の研究テーマは、当初ショウジョウバエの神経発達に焦点を当てていたが、その後動物行動とその背後にある脳のメカニズムの研究に変更した。
中国に帰国
胡海嵐は、2008年に中国に帰国し、上海にある中国科学院・神経科学研究所の職員となった。翌2009年には、百人計画に選ばれた。
胡海嵐は、2015年に故郷浙江省杭州市にある名門大学である浙江大学に転籍した。
胡海嵐は、感情や社会行動の分子および神経回路メカニズムの研究に専念し、感情の神経符号化、うつ病の分子メカニズム、社会階層の神経基盤などの分野で、独創的かつ体系的な成果を上げていった。また、うつ病を引き起こす脳のメカニズムを研究し、新しい抗うつ薬の開発のためのいくつかの新しい分子標的を提供した。
ロレアル-ユネスコ女性科学賞を受賞
これらの業績により2022年に、胡海嵐はロレアル-ユネスコ女性科学賞を受賞した。

ロレアル-ユネスコ女性科学賞(Prix L'Oréal-Unesco pour les femmes et la science)は、フランスの化粧品会社ロレアルと国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が、科学における女性の地位向上を目的として、科学の進歩に貢献した優れた女性科学者を1998年から表彰している賞であり、受賞者に10万ドルの研究助成金が授与される。
アジアの女性科学者も多く受賞しており、第一回(1998年)は韓国の微生物学者・柳明姫が、第二回(2000年)は日本の分子生物学者・岡崎恒子名古屋大学名誉教授が、第五回(2003年)は中国科学院・物理研究所研究員で電子顕微鏡研究者の李方華(李方华、Li Fanghua、1932年~2020年)が、それぞれの国で初めて受賞している。
胡海嵐は、第26回(2022年)の受賞であり、中国人の科学者では李方華、葉玉如(叶玉如、Nancy Y. Ip、1955年~)、任詠華(任咏华、Vivian Yam Wing-Wah、1963年~)、謝毅(谢毅、Xie Yi、1967年~)、ゼナン・バオ(鲍哲南、Zhenan Bao、1970年~)、張弥曼(张弥曼、Meemann Chang、1936年~)に次いで、8人目の受賞であった。
胡海嵐は2025年に、中国科学院院士に選出されている。
参考資料
・知乎HP 亚洲第一人!70后女神院士胡海岚:实力与颜值爆表,斩获世界杰出女科学家奖,荣膺中国科学院院士
https://zhuanlan.zhihu.com/p/2027771573017297207
・鳳凰網HP 揭开抑郁症的秘密,胡海岚获“世界杰出女科学家成就奖”
https://news.ifeng.com/c/8H79Ew4Nx6J


