概要
中国熱帯農業科学院(中国热带农业科学院、Chinese Academy of Tropical Agricultural Sciences)は、中国の熱帯農業に関する基礎研究、応用研究、ハイテク研究などを任務としている。

1.名称
○中国語:中国热带农业科学院 略称:中国热科院
○日本語:中国熱帯農業科学院
○英語:Chinese Academy of Tropical Agricultural Sciences 略称:CATAS
2.所管
3.所在地
本部は、海南省海口市城西学院路4号にある。
海南省は、中国最南部にある海南島とその附属島嶼からなる省である。海南島の北部は亜熱帯、南部は熱帯に属する。海南省全体の人口は約1050万人(2024年)である。温暖な気候や美しいビーチから、中国のハワイとも呼ばれている。
海口市は海南省の省都であり、海南島の北東部海岸側に位置する。人口は約287万人(2020年)である。
4.沿革
(1)前史
中華人民共和国建国直後の1950年に朝鮮戦争が勃発し、工業製品として重要であった天然ゴムの供給途絶不安に対応するため、中国共産党は中国南部に自国の天然ゴム生産拠点を持つこととし、1951年に華南開拓局(华南垦殖局)を設置して準備に当たらせた。
(2)華南熱帯林業科学研究所
1954年に、天然ゴム栽培の研究機関として、華南熱帯林業科学研究所(华南热带林业科学研究所)を広東省広州市に設置した。これが、現在の中国熱帯農業科学院の前身であり、設立直後に華南熱帯作物科学研究所(华南热带作物科学研究所)と改名した。
1958年に、華南熱帯作物科学研究所は広州市から海南島の儋州市に移転した。
1965年に、名称を熱帯作物科学研究院(热带作物科学研究院)とした。
(3)文革での混乱
1966年に文化大革命が開始されると、研究院の幹部は追放され、広州軍区の兵団が支配するところとなった。研究活動は南方薬草の研究だけとなり、他の業務はほとんどストップした。
文革の混乱が少し落ち着いた1973年に、華南熱帯作物科学研究院の復活が、中央政府により認められた。
(4)中国熱帯農業科学院
1994年には、中国熱帯農業科学院(中国热带农业科学院)と名称変更され、現在に至っている。
5.組織・規模
(1)使命
中国熱帯農業科学院は、天然ゴム、キャッサバ、サトウキビ、バナナ、アブラヤシ、熱帯果樹、熱帯花卉・野菜、熱帯香辛料・飲料、熱帯飼料・家畜、熱帯特産換金作物などに関し、熱帯作物科学、熱帯農業資源・環境科学、熱帯植物保護・生物安全科学、熱帯農業動物科学、熱帯農業工学、熱帯農業経済・農村振興の分野において、科学研究、人材の育成、国内外の技術交流・協力の推進を行っている。
なお中国において、中国熱帯農業科学院以外の農林水産関係研究機関として、農業農村部所管の研究機関である「中国農業科学院(中国农业科学院)」と「中国水産科学研究院(中国水产科学研究院)」、および国家林業・草原局所管の研究機関である「中国林業科学研究院(中国林业科学研究院)」がある。
(2)職員数
中国熱帯農業科学院のHPによれば、2026年時点の総職員数は3,600名を超える。
(3)本部組織
中国熱帯農業科学院のトップは院長(党組副書記兼務)であり、中国共産党組書記(副院長兼務)、副院長などが指導部となっている。
本部機構として、科技処、人事処、人材工作処、財務処、計画基礎建設処、研究生処、国際合作処、成果転化処、産業発展処などが置かれている。
(4)下部組織
中国熱帯農業科学院は下部組織(科研機構と呼んでいる)として、14の組織を有している。具体的には、次の通り。
○研究所(10)
・熱帯作物遺伝資源研究所(热带作物品种资源研究所)
・ゴム研究所(橡胶研究所)
・香料飲料研究所(香料饮料研究所)
・南亜熱帯作物研究所(南亚热带作物研究所)
・農産品加工研究所(农产品加工研究所)
・熱帯生物技術研究所(热带生物技术研究所)
・環境・植物保護研究所(环境与植物保护研究所)
・椰子研究所
・農業機械研究所(农业机械研究所)
・科学技術情報研究所(科技信息研究所)
○実験所など
・分析計測センター(分析测试中心)
・海口実験所(海口实验站)
・湛江実験所(湛江实验站)
・広州実験所(广州实验站)
(5)大学院教育
中国の主要な研究機関では、大学の学士学位を取得した人たちを大学院生として受け入れて、修士学位や博士学位を取得させる制度が存在している。これらの学生を研究生と呼ぶ。
1959年に「華南熱帯作物学院(华南热带作物学院)」が設置され、中国熱帯農業科学院は同学院の連携協力機関として高等教育に関与していた。同学院は、1996年に「華南熱帯農業大学(华南热带农业大学)」となったが、2007年に海南大学に吸収された。
現在は、海南大学や華中農業大学など中国国内の大学と連携して大学院教育に貢献している。
7.特記事項
(1)四つの近代化に含まれる「農業」
歴代の中国の王朝では、民の食糧確保が統治の正当性を示す重要な要素であり、農業技術の改革改良は国の大きな課題であった。中華人民共和国建国後も状況は変わらず、国民を飢えさせないことが大きな国家目標であり、それを支える農業技術の振興は重要な政策であった。
四人組逮捕により文革が終了し、1977年7月に復活した鄧小平副首相は、翌1978年3月に北京で開催された全国科学大会で、「農業、工業、国防、科学技術の近代化を実現し、我が国を近代的強国とすることは、我が国人民の歴史的使命である」と強調した。これにより、四つの近代化(四个现代化、直訳で四つの現代化とも呼ばれる)が国家目標となり、そこに工業、国防、科学技術と並んで農業が含まれた。
この四つの近代化の農業の中には、熱帯地域での農業も当然含まれる。
(2)中国科学院などとの相違
中国において、英語の組織名にAcademyが付く機関として、中国科学院、中国工程院、中国社会科学院の3機関がある。これら3機関は、米国科学アカデミー、英国王立協会、フランス学士院などと同様に、中国における優れた科学者を顕彰する機能を有しており、院士あるいは学部委員(両方ともAcademicianと呼ばれる)を選任している。
一方中国熱帯農業科学院は、英語名にAcademyが付くが、上記3機関と違って科学者顕彰機能は有していない。これは農業科学研究院や中国水産科学研究院と同様である。
参考資料
・中国熱帯農業科学院HP https://www.catas.cn/
・維基百科HP 中国熱帯農業科学院
・百度HP 中国熱帯農業科学院


