概要

 北京航空航天大学(Beihang University)は、航空技術を中心とした大学として設置され、徐々に他の工学分野や人文社会科学分野などの学部学科が拡大されて、現在は総合大学となっている。高い航空技術レベルや優秀な人材を有し、国際的にも高い知名度を誇っている。

北京航空航天大学の写真
北京航空航天大学 同大学のHPより引用

1. 名称と所管

(1)名称

・中国語表記 北京航空航天大学   略称 北航
・日本語表記 北京航空航天大学  
・英語表記 Beihang University, Beijing University of Aeronautics and Astronautics   略称 BUAA 
  Beihangは、大学の略称「北航」の中国読みを、英語表記したものである。

(2)所管

 国務院工業・情報化部(工业和信息化部)の直轄大学である。同部は、7.の特記事項にも記すとおり、中国全土に7校の直轄大学を有している。

2. 本部の所在地

 北京航空航天大学の本部は、北京市海淀区学院路37号にあり、学院路キャンパスと呼ばれている。
 北京市の中心である天安門から約15キロメートル北北西に行ったところにあり、学院路をはさんで東に北京大学医学部がある。北京大学本部清華大学などとも近い。

3. 沿革

 北京航空航天大学の前身は、1952年の院系調整政策を受けて設立された北京航空学院である。

北京航空航天大学設立
北京航空航天大学設立の沿革  同大学HPより引用

(1)清華大学航空工程学院

 北京航空学院の一つ目の源は、清華大学航空工程学院である。同学院は、航空技術向上への要請を受けて清華大学、西北工学院、北洋大学、厦門大学の航空系学科を統合して、1951年に設置された。 

(2)四川大学航空系

 北京航空学院の二つ目の源は、四川大学航空工程系と雲南大学航空工程系を統合して、1951年に設置された四川大学航空系である。

(3)北京工業学院航空系

 北京航空学院の三つ目の源は、北京工業学院航空系であり、その前身は華北大学工学院航空工程系と西南工業専門学校航空専修科を統合した華北大学工学院航空工程系である。

(4)北京航空航天大学

 北京航空学院は1988年に、北京航空航天大学となった。こののち、航空工学を中心とした大学から、工学全般、理学、文系学部などを有する総合大学となっていった。

4. 規模

(1)規模のデータ

 北京航空航天大学は、規模的には中国の主要大学中で中位クラスであるが、資金力は軍事的な研究を中心にトップクラスとなっている。
 具体的な数値で見たのが下表である。

 北京航空航天大学中国第1位の大学 
学部学生数18,500名(68位)鄭州大学 47,000名詳細データ
大学院生数18,500名(28位)中国科学院大学 57,375名詳細データ
専任教師数2,368名(37位)吉林大学 6,506名詳細データ
総予算142.84億元(8位)清華大学 362.11億元詳細データ
留学生数2,300名(11位)北京大学 6,857名詳細データ

(2)キャンパス

 北京航空航天大学は、本部のある学院路キャンパスに加え、沙河(北京市昌平区沙河高教园南三街9号)、杭州国際(杭州市余杭区瓶窑镇双红桥街166号)の2つのキャンパスを有している。

(3)学部

 北京航空航天大学は、政府の教育部が定めている12の大分類(日本の大学の学部に相当)について、工学、理学、管理学、哲学、文学、法学、教育学、経済学、芸術を有する総合大学である。医療工学は有するが医学部はない。また農学部も有していない。

5. 研究開発力

 大学は、中国の主要大学において20位から30位前後の研究開発力を有すると考えられる。

(1)研究開発力のデータ表

 大学の研究開発力を、データとして示したのが下表である。
 このうち、SCI論文数とはラリベートアナリティックス社のデータによる論文数、Nature Indexとは世界トップクラスの科学誌・学会誌掲載の論文数による指標、NSFCの面上項目予算の獲得額である。国家重点実験室は下記(2)、双一流学科建設数は下記(3)を参照されたい。

 北京航空航天大学中国第1位の大学 
SCI論文数31位中国科学院大学詳細データ
Nature Index40位中国科学技術大学詳細データ
国家重点実験室数2か所(23位)清華大学 13か所詳細データ
双一流学科建設数8学科(15位)北京大学詳細データ
NSFC面上項目予算24位上海交通大学詳細データ

(2)国家重点実験室

 北京航空航天大学にある2か所の国家重点実験室は、次の通りである。

・ソフトウェア開発環境国家重点実験室
・バーチャルリアリティ技術・システム国家重点実験室

(3)双一流学科建設

 中国は2017年に、国内の大学とその学科を21世紀半ばまでに世界一流とすることを目標とする政策(双一流政策)を開始した。2022年に改訂された双一流学科建設において、大学は全体で以下の8学科が選定されている。工学系が中心となっている。

 ○理学系(1) 力学
 ○工学系(7) 機器科学・技術、材料科学・工学、制御科学・工学、計算機科学・技術、交通運輸工学、航空宇宙科学・技術、ソフトウェア工学

(4)NSFC面上項目予算獲得

 日本の科研費に近い予算として、国家自然科学基金委員会(NSFC)が所管する面上項目予算がある。この予算をどの程度獲得するかで、当該大学の研究能力を判定しうる。2019年で北京航空航天大学は中国全体で24位である。

6. 国内および国際的な評価

 中国の国内と国際的な評価を示したのが下表である。国内では国務院教育部と中国校友会、国際では英国のQS(Quacquarelli Symonds Limited)とTHE(Times Higher Education)のランキングを示した。また、卒業生の中での傑出科学技術人材数の校友会ランキングも、併せて示した。

 北京航空航天大学中国第1位の大学 
軟科ランキング11位清華大学詳細データ
校友会ランキング19位北京大学詳細データ
QSランキング世界452位  中国29位北京大学詳細データ
THEランキング世界251-300位 中国20位清華大学詳細データ
校友会傑出人材28位北京大学詳細データ

 

7. 特記事項~国防七校(国防七子)

 国防七校とは、国務院の工業・情報化部が所管する七つの大学を指し、国防七子とも呼ばれている。七つの大学は、北京航空航天大学のほか、ハルビン工業大学、北京理工大学、ハルビン工程大学、西北工業大学(陝西省西安市)、南京航空航天大学、南京理工大学である。

 国防七校を所管する工業・情報化部(工业和信息化部、Ministry of Industry and Information Technology)は、2008年の国務院機構改革で設立されたが、産業政策全般、ハイテク産業育成政策、情報通信政策などを担当している。

 工業・情報化部の管理する独立局に部局に、国家国防科技工業局(State Administration of Science, Technology and Industry for National Defense:SASTIND)があり、原子力、航空、宇宙、通常兵器、船舶、電子などの国防先端技術産業を所管しており、また「中国航天科技集団有限公司」、「中国航天科工集団有限公司」のほか、「中国航空工業集団有限公司」、「中国船舶重工集団有限公司」、「中国核工業集団有限公司」、「中国兵器工業集団有限公司」、「中国電子子科技集団有限公司」などの巨大な国営企業を傘下に有している。国防七校の各大学は、この国家国防科技工業局と密接な関係を有している。 

参考資料

・北京航空航天大学HP https://www.buaa.edu.cn/
・工業・情報化部HP  https://www.miit.gov.cn/
・中央人民政府HP 『国家国防科技工业局』http://www.sastind.gov.cn/