はじめに

 シャオウェイ・チュアン(Xiaowei Zhuang、庄小威、荘小威、1972年~)は、超解像顕微鏡法を用いた確率的光学再構築顕微鏡(STORM)の開発に貢献し、2019年に生命科学ブレークスルー賞を受賞している。

シャオウェイ・チュアンの写真
シャオウェイ・チュアン 百度HPより引用

生い立ちと教育

 シャオウェイ・チュアン(Xiaowei Zhuang、庄小威、荘小威)は、1972年に江蘇省南通市如皋に生まれた。南通市は江蘇省東南にあり、東は黄海に南は長江に面し、長江の対岸には蘇州と上海が位置する。

 父・庄礼贤と母・朱仁芝は、ともに安徽省合肥にある中国科学技術大学の教授であった。チュアンは、両親の科学者としての考えに共感し、自らも科学者になる道を選んだ。

 地元の中学校などで優秀な成績を収めたチュアンは、1987年15歳になったときに、両親のいた中国科学技術大学の少年班に入学した。少年班は文革終了後の1978年に設置され、15歳以下の子供に徹底した理工系の天才教育を行う。子供達は少年班に入る際、通常の大学入試と同じ問題を受験し、さらに面接で知識力や理解力を徹底的にチェックされる。
 チュアンは、この少年班で優秀な成績を収め、1991年19歳で中国科学技術大学より物理学の学士を取得した。通常より3年早い卒業である。

 チュアンは米国に渡り、カリフォルニア大学バークレー校の大学院に入学し、1996年に物理学のPhDを取得した。

スティーブン・チューと出会う

 シャオウェイ・チュアンは、翌1997年からスタンフォード大学でポスドク研究を行ったが、その時の研究室の主任はスティーブン・チュー(Steven Chu、朱棣文)であり、同年チューはノーベル物理学賞を受賞している。

 チューはチュアンに対し、これまで研究してきた物理学の分野から生物学への転換を勧めた。このとき、チュアンはDNAとRNAの違いもよく知らない生物学の素人だったが、人生での挑戦機と受け止め、師のアドバイスに従った。しかし直後の一年間は、全く研究成果が出せなかったという。

 チュアンは、以降物理学と生物学の境界領域を専門分野としていった。

ハーバード大学の教授に就任

 シャオウェイ・チュアンは2001年にハーバード大学に移り、生物化学と物理の助教授(Assistant Professor)になった。2005年には准教授(Associate Professor)に、2006年には化学と物理の両学科の正教授に就任した。両学科で教授となることは、ハーバード大学では極めて異例なことである。

 チュアンのこの時期の大学院生に、後にゲノム編集技術の開発者の一人となるフェン・チャン(張鋒)がいる。

 チュアンは2005年に、ハワード・ヒューズ医学研究所研究員を兼任した。同研究所は、米国の実業家ハワード・ヒューズによって1953年に設立された非営利の医学研究機関である。同研究所のInvestigator Programは、トップクラスの研究者に対し、大学等に在籍のまま同研究所の研究員として雇用し、最低5年間にわたり研究資金を提供する。
 なお、中国系の科学者・銭沢南(Robert Tjian)は、2009年にハワード・ヒューズ医学研究所の理事長(President)に就任し、2016年までその地位にあった。

確率的光学再構築顕微鏡(STORM)の開発

 シャオウェイ・チュアンは、光の回折限界以下の分解能を有する超解像顕微鏡の開発に尽力していく。従来の光学顕微鏡では、使用する光の回折限界以下の分解能は原理的に不可能とされており、分解能は200nmが限界だった。この分解能を越える試みが超解像顕微鏡であり、これまでに様々な試みが模索されて、近年、その限界を超える装置が複数考案されている。神経シナプス、 ゴルジ体、および核膜といった細胞構造の詳細なマッピングを行う際に、回折限界を超える解像度で解明できれば、生物学的な情報をより多く得られる。

 チュアンは、超解像顕微鏡の一種である確率的光学再構築顕微鏡(STORM)の開発を進めた。従来の顕微鏡では、可視光と周囲媒体との干渉のため、蛍光物質の像は重なってぼやけてしまい、分解能に限界が生じる。チュアンらが開発したSTORMは、蛍光色素が短時間で多数回の励起を繰り返しすことを利用して得られる、時間分解された位置情報から高解像度のイメージを構築するものである。

ブレークスルー賞などを受賞

 シャオウェイ・チュアンは、STORMの開発などでの成果を受けて、数々の賞に輝いていく。

 米国ベックマン財団より、2003年に若手研究者賞(Young Investigator Program)を受賞した。

 2005年に、マッカーサー財団のマッカーサー・フェロー(天才賞とも呼ばれる)に選出された。同賞は、分野を問わず優れた創造性を発揮し実績と将来性を併せ持つ研究者を毎年20~30人選び、研究助成金を支給するもので、米国の富豪で生命保険会社などを経営していたマッカーサー(John D. MacArthur)夫妻の遺産により設立された財団が授与している。中国系ではペイドン・ヤン(楊培東)が選出されている。

 2018年に、オランダのハイネケンの創業者一族を記念して設立されたハイネケン賞・生物化学・生物物理学部門を受賞した。

 そして2019年に、チュアンは生命科学ブレークスルー賞を受賞する。受賞理由は、「超解像イメージング~光学顕微鏡の基本的な空間解像度の限界を超える方法~を開発することで、細胞内の隠れた構造を発見した」とされている。
 ブレイクスルー賞は、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ夫妻らがスポンサーとなって設立された賞であり、日本人では2013年に山中伸弥京都大学教授、2017年に大隅良典東京工業大学特任教授が、それぞれノーベル賞受賞前に生命科学分野でこの賞を受賞している。中国系では盧煜明(2021年)、バージニア・リー(2020年)、ジェジュアン・チェン(2019年)が生命科学分野を、ジン・イェ(2022年)らが基礎物理学分野を、それぞれ受賞している。
 

参考資料

・捜狐HP 神童15岁考入中科大少年班,留学后加入美国,如今过得怎样?
https://www.sohu.com/a/710063854_121157789
・ハーバード大学HP http://zhuang.harvard.edu/
・HHMI HP https://www.hhmi.org/scientists/xiaowei-zhuang 
・ベックマン財団HP Dr. Xiaowei Zhuang, PhD
https://www.beckman-foundation.org/people/xiaowei-zhuang/
・ハイネケン賞HP Xiaowei Zhuang https://www.heinekenprizes.org/portfolio-items/xiaowei-zhuang-biochemistry-and-biophysics-2018/?portfolioCats=12%2C13%2C14%2C15%2C16%2C17
・ブレークスルー賞HP Xiaowei Zhuang
https://breakthroughprize.org/Laureates/2/L3847