はじめに

 高福(Gao Fu、1961年~)は、英国オックスフォード大学に留学し、米国等でポスドク研究等を行った後、百人計画で帰国して中国科学院微生物研究所所長となり、中国のウィルス研究や感染症対策を牽引した科学者である。日本とも関係が深く、日経アジア賞受賞や外務大臣表彰に輝いている。

高福の写真
高福  百度HPより引用

生い立ちと教育

 高福( Gao Fu)は1961年に、山西省朔州市応県に生まれた。山西省は、北京市や河北省の西にあり、北に内モンゴル自治区、南に河南省がある。朔州市は山西省の北西部にあり石炭採掘が盛んな土地である。

 ネット上には高福の幼いころや少年時代の記事はない。高福が5歳の1966年に文化大革命が始まり、15歳の1976年に終了しているので、下放などの強制労働は経験していないと想定される。

 1976年10月に四人組が逮捕され、翌1977年に復活した鄧小平は高等教育の立て直しを進め、全国大学共通入試である高考を復活させた。高福は、その2年後の1979年に高考を受験し、山西農業大学(山西农业大学)に入学した。

英国に留学

 高福は1983 年に、山西農業大学を卒業して学士学位を取得の後、北京農業大学(現在の中国農業大学)の大学院に進学し、獣医学科で微生物学や動物感染症を学んだ。
 1986年に北京農業大学から修士学位を取得し、引き続き同大学の助教や講師を務めた。

 高福は1991年に英国に渡り、オックスフォード大学大学院に入学して、生化学を専攻した。そして1994年に、オックスフォード大学より博士学位を取得し、カナダ・カルガリー大学、オックスフォード大学、米国・ハーバード大学などでポスドク研究を行ったのち、2001年から母校オックスフォード大学の研究員となって、研究を続行した。

 高福の主な研究分野は、T 細胞認識、インフルエンザウィルスなどのエンベロープウィルスの侵入の分子メカニズム、鳥インフルエンザなどの動物由来の病原微生物の種間感染メカニズム及び分子免疫学である。

 高福は2004年に、中国政府の実施する百人計画に当選し、帰国して中国科学院微生物研究所の所長に就任した。

 高福は、2013 年に中国科学院の院士となり、2017 年に中国疾病予防管理センター主任に就任した。

日本の東京大学医科学研究所との協力

 高福が帰国した直後の2005年に、中国科学院微生物研究所は、中国科学院生物物理研究所とともに、東京大学医科学研究所と協力して日中連携プログラムを立ちあげた。

 翌2006年にこのプログラムに関し、文部科学省と中国科学院は北京でプログラム発足式を挙行し、筆者は文部科学省を代表して参加した。以下はその際の記念写真であり、右の陳竺氏は当時中国科学院の副院長(ライフサイエンス担当)で、その後国務院の衛生部長(日本の旧厚生大臣に相当、衛生部は現在の国家衛生健康委員会)などを歴任している。

陳竺博士と筆者の写真
陳竺(右)と林

日経アジア賞受賞とや外務大臣表彰

 高福は2014年に、日本経済新聞が授与する日経アジア賞の科学技術・環境部門を受賞した。「鳥インフルエンザウイルスなどの感染症の研究や対策で中国のリー ダー的存在」が、受賞の理由であった。

高福のアジア賞受賞写真
日経アジア賞の授賞式での高福(左)   日経アジアアワードHPより引用

 さらに、2016年には日本の外務大臣表彰を受けている。表彰理由は、「日本と中華人民共和国の学術交流の促進」に関する功績であった。

2023年の日本国外務大臣表彰 
左から二人目が高福、右隣が木寺中国大使(当時)、右端が岩本東大医科研元所長 中国网HPより引用

 高福らが中心となって立ち上げたプログラムは、現在、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「感染症研究国際展開戦略プログラム」として再編され、「新興・再興感染症研究基盤創生事業・海外拠点研究領域」における「中国拠点を基軸とした新興・再興および輸入感染症制御に向けた基盤研究」として活動し、感染症の予防・診断・治療に資する基礎的研究を推進している。

新型コロナウィルス対策で指揮

 2019年12月、武漢市内で未知のコロナウィルス(後にCOVID-19と命名)による肺炎患者が出た。これが、武漢市内から中国全体さらには世界中に拡散し、世界的なパンデミックを引き起こした。中国疾病予防管理センター主任であった高福は、政府のパンデミック対策の責任者として陣頭指揮を執った。

 高福は、医学専門誌・ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に「中国武漢における新型コロナウイルス感染肺炎の初期伝播ダイナミクス」という記事を投稿し、同記事は翌2020年1月末にオンラインで公開された。高福がこの記事の中で「2019年12月中旬以降、濃厚接触者間でのヒトからヒトへの感染が起こっている証拠がある」と指摘したことが、中国のネット上で「中国国民に事実を隠し、外国の専門誌に投稿したのではないか」との非難を浴びて大きな騒動となった。
 さらに、パンデミックが小康状態となった2021年4月、四川省成都で開かれたワクチンに関する会議で、「中国本土に既に国産のワクチンが存在するからといって、米国等で開発されたmRNAワクチンを無視するのではなく、注目する必要がある」と述べた。これに対して中国の一部メディアは、「高福氏は中国製ワクチンの防御率が高くないと考えている」と非難した。

 これらは、高福が研究成果などに基づく事実を厳密に解釈する科学者としての立場からの発言を、ネットやメディアが捻じ曲げて問題視したものと筆者は考えているが、結果として中国疾病予防管理センター主任としての権威が大きく傷つくことになった。高福は2022年7月に、同センター主任を年齢を理由に退任している。

 以下は、筆者が2019年に北京を訪れ、当時国家自然科学基金委員会(NSFC)の副主任(兼務)であった高福と会談した際のものである。

筆者と高福氏の写真
高福(右)と林

 高福は、その後も研究者として、感染症やウィルス研究を精力的に行っている。 

参考資料

・百度百科HP  高福
・維基百科HP  高福
・東京大学医科学研究所アジア感染症研究拠点 https://www.rcaid.jp/
・日経アジアアワードHP 歴代の受賞者 https://nikkeiasiaaward.org/jp/pastwinners/index.html
・中国网HP 高福教授、日本政府から「外務大臣表彰」を受賞 http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2016-01/20/content_37621492.htm