はじめに

 陳薇(陈薇、Chen Wei、1966年~)は、SARSや新型コロナウィルス対策で活躍した軍事医学研究院の研究者であり、人民解放軍の少将である。

陳薇の写真
陳薇  网易HPより引用 

生い立ちと教育

 陳薇(陈薇、Chen We)は1966年に、上海の南西に位置する浙江省の蘭渓に生まれた。蘭渓は、浙江省の内陸部にある金華市の一部となっており、同市の名を冠した金華ハムは地域の特産品として有名である。

 陳薇の生まれた1966年に文化大革命が始まったが、10歳となった1976年末に終了しており、それほど大きな影響は受けなかった。

 陳薇が中学校を卒業する段階で、そのまま高等中学(日本の高校)へ進学するか、教員養成のための中等職業専門学校へ進学するか迷った。というのは、文学や芸術の科目が得意であり、また教員となることが羨ましいと思ったからであった。そのことを担任の教師に告げると、「貴女は成績がとても良いのだから、高等中学に進学して勉強を続け良い大学に入るべきです。自らの将来を変えるには勉強するしかありません。そうすれば、多くのチャンスが巡ってくるでしょう。」とアドバイスされた。陳薇はこのアドバイスに従い、高等中学に進学し、勉学に励んだ。

浙江大学から清華大学へ

 陳薇は1984年に、浙江省杭州市にある名門大学・浙江大学の化学工学科に入学した。

 1988年に浙江大学を卒業したが、成績が極めて優秀であったことから無試験で北京の清華大学大学院に入学が許可され、化学工学科で生物化学工学を専攻した。1991年に、清華大学から工学修士の学位を取得した。

軍事医学科学院へ

 陳薇が清華大学大学院に在学中、偶然軍事医学科学院(当時)を訪問する機会があり、同院の施設や研究内容に魅了された。軍事医学科学院は、人民解放軍軍事科学院の傘下にある研究機関で、現在は軍事医学研究院となっている。その傘下には基礎医学研究所、微生物流行病研究所などの研究機関のほか、解放軍第307医院などがあり、中国における軍事医学の総本山である。

 軍事医学科学院に入所するためには、人民解放軍に入隊する必要があり、陳薇は周囲の人に意見を求めたところ皆入隊に反対した。しかし、それでも陳薇は人民解放軍に入隊することを決断した。

軍服姿の陳薇の写真
軍服姿の陳薇 网易HPより引用 

 陳薇は、1991年に人民解放軍に入隊し、軍事医学科学院の微生物流行研究所に配属となった。1995年には微生物学を専攻する博士課程の研究生となり、1998年に医学博士の学位を取得した。

SARSなどの感染症対策で活躍

 陳薇は、その後軍事医学研究院で、多くの感染症対策で活躍していく。

 2003年にSARSが発生した際には、 SARSコロナウイルスを抑制するための点鼻スプレーの開発チームに加わった。この点鼻スプレーにより多くの医療従事者がSARSの感染を免れた。

 2008年5月に四川省で発生した汶川(ぶんせん)地震の際には、国家の緊急対策チームの衛生・防疫グループのヘッドに任命された。

 これらの成果や功績により、陳薇は2011年に生物工学研究所の所長に就任し、2015年に人民解放軍の少将に昇進した。さらに、2019年には中国工程院の院士に当選した。

新型コロナとの戦い

 2019年12月、武漢市内で未知のコロナウィルス(後にCOVID-19と命名)による肺炎患者が出た。これが、武漢市内から中国全体さらには世界中に拡散し、世界的なパンデミックを引き起こした。

 陳薇は、翌2020年1月に自分のチームを率いて武漢に入り、患者や医療従事者などの診断と治療に当たった。そして彼女のチームは、中国の民間製薬会社であるCanSino Biologics Inc(康希诺生物股份公司)と協力してアデノウイルスベクター組み換えワクチンを翌3月に開発し、臨床試験を実施した。このワクチンは、翌年に中国当局から承認を受け、中国国内や広く海外で用いられて、多くの人たちから新型コロナ感染の危険を防御した。

 これらの功績により、2020年9月に北京の人民大会堂で新型コロナウイルス感染症対策全国表彰大会が開催された際、習近平国家主席より陳薇に対し共和国勲章が授与された。その際には、鐘南山も同時に受賞している。

鐘南山共和国勲章の写真
共和国勲章の受賞 左端が陳薇、右から二人目は鐘南山 求是网HPより引用

主夫に徹する夫

 陳薇の科学者としての華々しい活躍を支えているのは、12歳年上の夫・麻一銘(麻一铭)である。

 陳薇が清華大学大学院在学中の1989年に観光で泰山を訪れた際、列車の中で麻一銘と出会った。当時麻一銘は、山東省にある青島黄海ワイナリーの技術者であった。意気投合した二人は、その後の交際を経て1992年に結婚した。

 結婚の際、夫の麻一銘は「妻・陳薇にとって家事は無駄だ。彼女のエネルギーはもっと重要なことに使うべきだ。私は彼女を守り、家庭を安定させたい」と考え、主夫となる決意をする。以来、麻一銘の妻・陳薇の世話は、細部まで行き届いたものであり、結婚後30年以上にわたり、妻に家事を任せたことは一度もなく、歯磨き粉をあらかじめ絞り出すといった些細なことまで夫の麻一銘がやっているという。陳薇は1998年に息子を出産したが、その際もわずか1か月の産休を取っただけで研究室に復帰している。

参考資料

・界面新聞HP 她·“疫”中人 | 陈薇:我与致命病毒共舞29年 https://www.jiemian.com/article/4081196.html
・网易HP 女英雄陈薇,结婚30年没做过家务,丈夫:做家务是对她才能的浪费 https://www.163.com/dy/article/H49S565V0543AUYD.html
・求是网HP “共和国勋章”获得者钟南山 “人民英雄”国家荣誉称号获得者张伯礼、张定宇、陈薇
http://www.qstheory.cn/dukan/qs/2020-09/16/c_1126494615.htm