はじめに
国務院は、中国の国家行政機関であり、諸外国の政府・内閣に相当する。
中国では、中国共産党が国家を領導するとの憲法の規定があることや、主要幹部の実質的な人事権が中国共産党にあることなどのため、日本や米国など西側諸国の政府・内閣と大きく異なり、中国共産党が主体となって決定された政策を具体的に実施する執行機関的な色彩が強い。
ただ、国務院の各部局は行政の最前面にいて政策立案のための知見や経験を多く有しており、科学技術を含めた個々の政策立案に際して中国共産党と情報提供などで協力し、必要に応じて共同で政策立案に当たっている。
全体構成
国務院の全体構成は次図の通りである(2025年9月時点)。

国務院の幹部
国務院総理は、国務院のトップとして国務院の活動を指導し、行政全般を指揮・監督する。
歴史的に、新中国建国直後に周恩来が総理に就任した政務院が国務院の前身であり、周恩来は1954年に政務院から国務院に改組された以降も、1976年に死去するまで20年以上にわたり総理の任にあった。
現在の国務院総理は、中国共産党序列第2位の李強である。

国務院総理を補佐するために、副総理4名、国務委員3名が置かれている。
2025年10月現在で、副総理は丁薛祥、何立峰、張国清(张国清)、劉国中(刘国中)であり、国務委員は王小洪、呉政隆(吴政隆)、諶貽琴(谌贻琴、女性)である。
このうち、丁薛祥は中国共産党内序列第6位の中央政治局常務委員であり、何立峰、張国清(张国清)、劉国中(刘国中)の3名は中央政治局委員である。
国務院全般の事務を処理する機関として弁公庁があり、その責任者として秘書長1名が置かれている。
秘書長は副総理または国務委員が兼任することになっており、現在は国務委員の1人である呉政隆(吴政隆)がその任にある。

所属機関の種類
国務院の機関として、各国の省庁に相応する組成部門(26部門)のほか、直属特設機構(1機構)、直属機構(14機構)、弁事機構(2機構)、直属事業単位(7機構)、部・委員会が管理する国家局(17機構)がある。
なお、これらとは別に、国務院内の組織改革で統合などが行われたのちも事業の性格上半独立的に活動している事業単位(部委管理的事业单位、5機構)や、対外的な便宜のため従来の名称の使用が認められている対外名称維持組織(对外保留牌子、10機構)がある。さらに、かつては国に帰属していたが、行政改革の一環で民営化され、株式を国が所有し管理している中央企業(中央企业)がある。
国務院で、科学技術に係わりの深い組織について述べる。
(1)組成部門(部・委員会)
組成部門(组成部门)は日本の各省に相当し、国務院の最も重要な組織である。部・委員会とも呼ばれている。
組成部門に属していて科学技術に係わりの深い組織は、国家発展・改革委員会、教育部、科学技術部、工業・情報化部、自然資源部、生態環境部、交通運輸部、水利部、農業農村部、国家衛生健康委員会、応急管理部である。
(2)直属特設機構
直属特設機構(国务院直属特设机构)は、国有資産管理の強化を目的とし、国務院直属の機構として設置されたものであり、具体的には、国有資産監督管理委員会のみが該当する。この組織は科学技術に直接係るものではないが、株式を所有する国有企業(中央企業、中央企业、下記(8)参照)の中に、科学技術に深く係る組織がある。
(3)直属機構
直属機構(直属机构)は、国務院の特定の事務を担当し独立した行政管理機能を有する組織である。
直属機構に属していて科学技術に係わりの深い組織は、国家市場監督管理総局、国家知識産権局である。
(4)直属事業単位
直属事業単位(直属事业单位)は、組成部門ではないが国務院に直属した独立組織であり、一定の行政的な権能を有する組織である。
直属事業単位に属していて科学技術に係わりの深い組織は、中国科学院、中国社会科学院、中国工程院、中国気象局である。
(5)部・委員会が管理する国家局(部委管理国家局)
部・委員会が管理する国家局 (部委管理的国家局)は、国務院に直属するが他の部・委員会などが管理する組織である。中国語で上記(1)の組成部門を指す「部委」とあるが、これらの国家局には組成部門(部委)以外の組織が管理している国家局もある。
部・委員会が管理する国家局に属していて科学技術に係わりの深い組織は、国家エネルギー局、国家国防科技工業局、国家中医薬管理局、国家疾病予防制御局、国家林業・草原局、国家薬品監督管理局である。これらのうち前の5組織は組成部門が管理しているが、最後の国家薬品管理監督局は直属機構である国家市場監督管理総局が管理している。
(6)部・委員会が管理する事業単位(部委管理事業単位)
部・委員会(組成部門)が管理する事業単位(部委管理的事业单位)とは、かつて国務院内の独立した組織として業務を行っていたが、組織改革で統合などが行われ部・委員会の管理下におかれた事業単位である。部・委員会が管理する国家局 (部委管理的国家局)に近い名称となっているが、国家局と比較して独立性は低い。
部・委員会が管理する事業単位で科学技術に係わりの深い組織は、国家自然科学基金委員会、中国地質調査局、中国地震局である。
(7)対外名称維持組織
対外名称維持組織(对外保留牌子)とは、かつて国務院内の独立した組織として国内外で業務を行っていたが、組織改革で統合などが行われたのちも国際的・対外的な便宜のため従来の名称の使用が認められている組織である。
対外名称維持組織に属していて科学技術に係わりの深い組織は、国家航天局、国家原子力機構、国家海洋局、国家原子力安全局である。
(8)国有企業(中央企業、中央企业)
かつては国務院に属していたが、行政改革の一環で民営化され、株式が上記(2)の国有資産監督管理委員会などにより管理されている国有企業を中央企業と呼んでいる。
このような中央企業は、全体で100を超えているが、原子力、宇宙開発、海洋開発などで科学技術に係わりの深い企業として、中国核工業集団有限公司 、中国航天科技集団有限公司、中国航天科工集団有限公司、中国船舶集団有限公司、中国機械科学研究総院集団有限公司、中国建築科学研究院集団有限公司がある。これらのほとんどは国防企業であり、国家国防科技工業局と深い関係を有している。
次図は、これらを図示したものである。

参考資料
・中央人民政府HP http://www.gov.cn/guowuyuan/index.htm
・維基百科HP 中华人民共和国国务院机构编制 https://zh.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%8D%8E%E4%BA%BA%E6%B0%91%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD%E5%9B%BD%E5%8A%A1%E9%99%A2%E6%9C%BA%E6%9E%84%E7%BC%96%E5%88%B6#%E5%9B%BD%E5%8A%A1%E9%99%A2%E8%A1%8C%E6%94%BF%E6%9C%BA%E6%9E%84


