1. 胡錦濤時代の歴史の流れ

(1)和諧社会の実現
2002年11月、胡錦濤が江沢民の後継者として、中国共産党総書記に就任した。
1990年代以降、改革開放政策での高度経済成長に起因する格差の拡大や環境汚染による公害などが顕在化した。とりわけ「三農問題」といわれる都市と農村の格差、沿岸部と内陸部の格差が課題であった。
胡錦濤総書記は温家宝首相と共に、「和諧社会」というスローガンを掲げて所得格差の是正と安定成長に努めた。そして、2003年10月に「社会主義市場経済体制の整備における若干の問題に関する決定」を公表し、農村改革を始めとして、財政、税収、金融、投資などのシステム改革を進めると宣言した。また、農村部住民の足かせとなっていた農村戸籍の廃止に地域限定で乗り出すとともに、「西部大開発」を推進した。
2008年に北京五輪、2010年に上海万博の開催を成功させ、輸出主導の大量生産社会から内需主導の大量消費社会に転換することを目指した。
2008年の世界金融危機(リーマンショック)の際は、金融緩和とともに中国の高速鉄道網の建設など4兆元の大規模な財政出動を断行して、世界最速のV字回復で金融危機を脱出させた。
その結果として2010年には、中国のGDPは日本を抜いて米国に次ぐ世界2位となった。ただし投資主導の政策はバブル経済を加速させ、地方融資平台による不良債権を増加させるなどの課題も残した。また、国有企業の民営化の動きが停滞し、国家資本主義を支える国有・公有経済の管理と堅持が強調され、1990年代の「国退民進」と対照的な「国進民退」とも呼ばれた。
(2)中国初の宇宙飛行とハイテク産業の振興
2003年10月、中国初めての宇宙飛行士楊利偉の乗る神舟5号を搭載した長征2号ロケットが、甘粛省酒泉の近郊にある衛星発射センターから打ち上げられた。打ち上げは無事に行われ、中国は、ソ連、米国に次いで世界で三番目の有人宇宙飛行技術を有する国となった。
2008年のリーマンショックを受けて、中国政府は4兆元の経済対策を実施したが、この中にハイテク産業や電子産業などへの投資も含まれていた。
2. 胡錦濤時代の科学技術の流れ
改革開放の成果やWTO加盟などを受けて、中国の経済は爆発的な発展を遂げるが、その影響を受けて科学技術も驚異的な発展を遂げた。
2003年10月に講評された「社会主義市場経済体制の整備における若干の問題に関する決定」の中で、科学技術管理体制の改革、イノベーション・システムの構築、科学技術資源の効率的な配分と統合、科学技術と経済社会発展の密接な統合などを進めるとした。
2004年9月に、科学技術資源の効率的な配分と包括的な統合を進めるため科学技術インフラの建設とその共用を進めることとして、「国家科学技術インフラ建設綱要(2004年~2010年)」を公表した。この科学技術インフラの建設は、次に述べる「国家中長期科学技術発展計画綱要(2006年~2020年)」において、その重要性が再確認された。
同年に、「国家中長期科学技術発展計画綱要(2006年~2020年)」が発表された。この綱要は中国の国情に立脚し、自主創新能力を向上させ、創新型国家を構築することを目指して、今後15年間の中国の科学技術の発展に対する包括的な計画を立案したものである。
この要綱の中で述べられた「国家科学技術重大特定プログラム」は、いわゆるナショナルプロジェクトであり、その後2年間にわたって関係部局で検討された後、2008年に民生用13個、軍事用3個のプログラムとしてスタートした。
また、この綱要に基づいた5年間の計画として、2006年3月に「国家科学技術11次五か年計画(2006年〜2010年)」が、2011年7月に「国家科学技術12次五か年計画(2011年〜2015年)」が公表された。
2007年、科学技術活動を強化するために「科学技術進歩法の改正」が行われ、経済成長を超える政府の科学技術投資が保証されるとともに、知的財産の保護や科学技術インフラの重要性が改めて強調された。
2008年、「百人計画」などの海亀政策の成果を踏まえ、中国共産党中央員会組織部は新たな海外人材招致政策として「千人計画」を開始した。
3. 胡錦濤時代の科学技術の特徴
(1)スローガン~自主創新による創新型国家の建設
胡錦濤時代の科学技術の特徴の一つ目は、爆発的な経済発展を背景とした自主創新による創新型国家の建設である。
2004年12月に開催された中央経済工作会議で、胡錦濤総書記は講話を行い、和諧社会の建設を進めるために自主創新能力を高める必要があるとした。
2006年1月、全国科学技術大会が北京で開催され、開会式で胡錦濤総書記は講話を行い、「中国の特色のある自主創新への道のりを堅持し、創新型国家建設に向けて努力奮闘する」と述べた。
改革開放政策により沿岸部の主要都市は、外国資本と外国の技術を導入し、良質で比較的安価で大量の中国人労働者を雇用した工場が林立し、これが中国の経済発展を牽引してきた。しかし、外国の技術に頼る発展モデルには限界があると考えられ、中国政府は自らの科学技術イノベーション能力を高めイノベーションを牽引力とする経済国家の建設を目標としたものである。
「自主創新による創新型国家建設」は、胡錦濤政権の科学技術政策を示すスローガンとなった。
なおこの時期は、世界的に従来の科学技術活動だけでは国際競争力の強化に限界があるとされ、シュンペータ流の「イノベーション」が流行語となっていった時期である。
(2)研究開発資金の大幅な拡充
胡錦濤時代の科学技術の特徴の二つ目は、江沢民時代に続く研究開発資金の大幅な拡充である。
2010年には米国に次ぐ世界第2位の経済大国となり、科学技術への投資もさらなる加速を見せた。次表に示すとおり、2003年には1540億元(2兆1600億円)であったものが、2013年には1兆1850億元(18兆6600億円)と約8倍も増加している。これは、江沢民時代の増加率と同様の大きさである。2013年時点で、日本を追い抜いて世界第2位、米国の3分の1までになっている。
表 中国、米国、日本の研究開発費の比較
| 国名 | 2003年の研究開発費 | 2013年の研究開発費 | 伸び率 |
| 中国 | 1,540億元(2兆1,600億円) | 1兆1,850億元(18兆6,600億円) | 7.78倍 |
| 米国 | 2,940億ドル(34兆円) | 4,550億ドル(44兆4,000億円) | 1.77倍 |
| 日本 | 16兆8,000億円 | 18兆1,300億円 | 1.21倍 |
(3)科学技術による社会的な問題への対処
胡錦濤時代の科学技術の特徴の三つ目は、科学技術による社会的な問題への対処である。
科学技術の課題としては、環境問題が大きい。中国では大気汚染、水質汚染、土壌汚染、産業廃棄物などの環境問題が経済成長にともない顕在化してきた。「和諧社会」を掲げた胡錦濤政権は、これらの環境問題を含む社会的な課題への解決を科学技術を用いて解決することを目指した。
(4)科学技術インフラの整備の拡充
胡錦濤時代の科学技術の特徴の四つ目は、科学技術インフラの整備の拡充である。
これまでは、基礎的な科学技術や大規模科学技術については欧米の後追いに過ぎなかったが、経済力がつき科学技術のレベルも欧米先進国に肩を並べてきたと考え、中国独自の大型装置や施設を建設することにより世界の科学技術を牽引しようとするものであり、加速器、天文台、観測船などの大型科学技術インフラの整備を目指すことになった。
4. 科学技術の成果
この時期は、改革開放以来の科学技術振興政策により、中国の科学技術レベルが徐々に先進国のレベルに到達し、優れた業績が次々と現れた。
胡錦濤総書記が最高指導者となった直後の2003年10月、中国人初の宇宙飛行士となる楊利偉飛行士を載せた神舟5号は、酒泉衛星発射センターから打ち上げられ、地球を14周回した後、内モンゴル自治区に無事着陸した。これにより中国は米国、ソ連に次ぐ世界で3番目の有人宇宙技術保有国となった。
2007年4月に高速鉄道(高鉄)車両を導入し、翌2008年8月には北京と天津間の路線を開通させた。この直後に発生したリーマンショックを受けての4兆元の景気刺激策により高鉄路線の建設は爆発的に進展し、2018年現在営業距離で2万2000キロメートルで日本の2770キロメートルの約8倍に達している。
2009年には、長江中流域に洪水抑制・電力供給・水運改善を図る三峡ダムが完成した。水力発電所として2250万キロワットを誇る巨大なダムである。さらに、2010年、国防科学技術大学の設計したスパコン「天河1A」が計算速度で世界一と認定された。
次表の通り科学論文数も飛躍的に増大し、2013年には日本や英国、ドイツなどの欧州主要国を抜き去って世界第2位となり、米国の約64%にまで達した。
表 主要国の科学技術論文数の比較(単年、整数カウント法)
| 国名 | 2004年の論文数 | 順位 | 2013年の論文数 | 順位 |
| 中国 | 47,235 | 6 | 218,092 | 2 |
| 米国 | 248,276 | 1 | 342,915 | 1 |
| 日本 | 76,666 | 2 | 78,611 | 5 |
また次表は、この時期に他の主要国と比較して、どの程度中国の特許申請件数が増加したかを見たものである。これで見ると、胡錦濤政権が進めた自主創新能力の強化政策が充分に実を結び、米国や日本、韓国を抜き去って、世界一となっている。
表 主要国の特許出願件数の比較 (単位:万件)
| 国名 | 2004年の件数 | 順位 | 2013年の件数 | 順位 |
| 中国 | 13.0 | 4 | 82.5 | 1 |
| 米国 | 35.7 | 2 | 57.2 | 2 |
| 日本 | 42.3 | 1 | 32.8 | 3 |
| 韓国 | 14.0 | 3 | 20.5 | 4 |
参考資料
・文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学研究のベンチマーキング2019」https://www.nistep.go.jp/archives/41356


