自主創新による創新型国家の建設
胡錦濤時代の科学技術は、爆発的な経済発展を背景として、自主創新による創新型国家の建設というスローガンで示される。
研究開発資金の大幅な拡充
胡錦濤時代の科学技術の一つ目の特徴は、江沢民時代に続く研究開発資金の大幅な拡充である。
2010年には米国に次ぐ世界第2位の経済大国となり、科学技術への投資もさらなる加速を見せた。次表に示すとおり、2003年には1540億元(2兆1600億円)であったものが、2013年には1兆1850億元(18兆6600億円)と約8倍も増加している。これは、江沢民時代の増加率と同様の大きさである。2013年時点で、日本を追い抜いて世界第2位、米国の3分の1までになっている。
図表1 中国、米国、日本の研究開発費の比較
国名 | 2003年の研究開発費 | 2013年の研究開発費 | 伸び率 |
---|---|---|---|
中国 | 1540億元(2兆1600億円) | 1兆1850億元(18兆6600億円) | 7.78倍 |
米国 | 2940億ドル(34兆円) | 4550億ドル(44兆4000億円) | 1.77倍 |
日本 | 16兆8000億円 | 18兆1300億円 | 1.21倍 |
自主創新による創新型国家の建設
胡錦濤時代の科学技術の特徴の二つ目は、胡錦濤総書記がスローガンとした、自主創新による創新型国家の建設である。
改革開放政策により沿岸部の主要都市は、外国資本と外国の技術を導入し、良質で比較的安価で大量の中国人労働者を雇用した工場が林立し、これが中国の経済発展を牽引してきた。しかし、外国の技術に頼る発展モデルには限界があると考えられ、中国政府は自らの科学技術イノベーション能力を高めイノベーションを牽引力とする経済国家の建設を目標としたものである。なおこの時期は、世界的に従来の科学技術活動だけでは国際競争力の強化に限界があるとされ、シュンペータ流の「イノベーション」が流行語となっていった時期である。
科学技術による社会的な問題への対処
胡錦濤時代の科学技術の特徴の三つ目は、科学技術による社会的な問題への対処である。
科学技術の課題としては、環境問題が大きい。中国では大気汚染、水質汚染、土壌汚染、産業廃棄物などの環境問題が経済成長にともない顕在化してきた。「和諧社会」を掲げた胡錦濤政権は、これらの環境問題を含む社会的な課題への解決を科学技術を用いて解決することを目指した。
科学技術インフラの整備の拡充
胡錦濤時代の科学技術の特徴の四つ目は、科学技術インフラの整備の拡充である。
これまでは、基礎的な科学技術や大規模科学技術については欧米の後追いに過ぎなかったが、経済力がつき科学技術のレベルも欧米先進国に肩を並べてきたと考え、中国独自の大型装置や施設を建設することにより世界の科学技術を牽引しようとするものであり、加速器、天文台、観測船などの大型科学技術インフラの整備を目指すことになった。
科学技術の成果
この時期は、改革開放以来の科学技術振興政策により、中国の科学技術レベルが徐々に先進国のレベルに到達し、優れた業績が次々と現れた。
胡錦濤総書記が最高指導者となった直後の2003年10月、中国人初の宇宙飛行士となる楊利偉飛行士を載せた神舟5号は、酒泉衛星発射センターから打ち上げられ、地球を14周回した後、内モンゴル自治区に無事着陸した。これにより中国は米国、ソ連に次ぐ世界で3番目の有人宇宙技術保有国となった。
2007年4月に高速鉄道(高鉄)車両を導入し、翌2008年8月には北京と天津間の路線を開通させた。この直後に発生したリーマンショックを受けての4兆元の景気刺激策により高鉄路線の建設は爆発的に進展し、2018年現在営業距離で2万2000キロメートルで日本の2770キロメートルの約8倍に達している。
2009年には、長江中流域に洪水抑制・電力供給・水運改善を図る三峡ダムが完成した。水力発電所として2250万キロワットを誇る巨大なダムである。さらに、2010年、国防科学技術大学の設計したスパコン「天河1A」が計算速度で世界一と認定された。
次表の通り科学論文数も飛躍的に増大し、2013年には日本や英国、ドイツなどの欧州主要国を抜き去って世界第2位となり、米国の約64%にまで達した。
図表 主要国の科学技術論文数の比較(単年、整数カウント法)
国名 | 2004年の論文数 | 順位 | 2013年の論文数 | 順位 |
---|---|---|---|---|
中国 | 47,235 | 6 | 218,092 | 2 |
米国 | 248,276 | 1 | 342,915 | 1 |
日本 | 76,666 | 2 | 78,611 | 5 |
また次表は、この時期に他の主要国と比較して、どの程度中国の特許申請件数が増加したかを見たものである。これで見ると、胡錦濤政権が進めた自主創新能力の強化政策が充分に実を結び、米国や日本、韓国を抜き去って、世界一となっている。
図表 主要国の特許出願件数の比較 (単位:万件)
中国 | 2004年の件数 | 順位 | 2013年の件数 | 順位 |
---|---|---|---|---|
中国 | 13.0 | 4 | 82.5 | 1 |
米国 | 35.7 | 2 | 57.2 | 2 |
日本 | 42.3 | 1 | 32.8 | 3 |
韓国 | 14.0 | 3 | 20.5 | 4 |
参考資料
・文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学研究のベンチマーキング2019」https://www.nistep.go.jp/archives/41356