はじめに
方忠(1970年~)中国科学院物理研究所所長は、トポロジカル物質の理論的研究で成果を挙げ、2023年に国家自然科学賞一等賞を筆頭者として受賞した。

生い立ちと教育
方忠(Zhong Fang)は、1970年に湖北省で生まれた。ウェブ上には、方忠の生まれた家庭や幼年期の情報はない。文化大革命が終了したのが1976年であるので、方忠はその影響をほとんど受けていない世代である。
方忠は、1987年に湖北省武漢市にある華中理工大学(現在の華中科技大学)に入学した。現在の華中科技大学は、理工系や医学系で高いレベルにあることで知られており、中国国内で常にトップテンに入る大学である。
方忠は、華中理工大学の物理学科で学び、1991年に学士学位を取得し、引き続き同大学で博士の取得を目指した。1996年に同大学からレーザー物理学で博士学位を取得した。
日本と米国で研究
博士を取得した方忠は日本に赴き、茨城県筑波にあった工業技術院の研究所でポスドク研究を行った。方忠は、さらに米国に移り、テネシー州にあるエネルギー省のオークリッジ研究所でやはりポスドク研究を行った。
中国科学院物理研究所へ
方忠は、2003年に百人計画に当選して米国から中国に戻り、北京の物理研究所の研究員となった。
方忠が物理研究所で研究を開始したのは、トポロジカル電子材料に関する研究であった。強磁性体の電子状態によって形成される磁気単極子を扱って、異常ホール効果を研究した。2005年からはトポロジカル絶縁体に焦点を当て、方忠らは2009年に、計算によりBi2Se3、Bi2Te3、Sb2Te3が3次元トポロジカル絶縁体であると予測し、その後共同実験により検証した。 2010年に研究チームは、Bi2Se3トポロジカル絶縁体膜にCrまたはFeを磁気的にドープすることで量子異常ホール効果を実現すると予測した。そして2013年までに、国内外の多くの実験グループがこれらの材料を検証した結果、方忠らの予測通り量子異常ホール効果を確認した。
国家自然科学賞一等賞を筆頭者として受賞
方忠は2023年に、国家自然科学賞一等賞を筆頭者として受賞した。今回の受賞理由は、「トポロジカル電子材料の計算予測」であった。
方忠らが研究を進めたトポロジカル物質は、その後フォトニクス材料、フォノニクス結晶、トポロジカル回路、トポロジカル音波などに大きく発展しており、次世代の機能性材料として期待されている。
なお方忠は、この2023年の国家自然科学賞一等賞を受賞する前に、2013年に国家自然科学賞一等賞を受賞している。この時の筆頭受賞者はやはり物理研究所の研究員で、中国の超伝導物質研究を牽引してきた趙忠賢であった。2008年に日本の細野秀雄・東京工業大学教授は鉄系超伝導材料の発見したが、この研究成果を聞いた趙忠賢ら物理研究所のグループは、自らも鉄系超伝導材料の研究を行い、構成元素の一部を置き換えることにより転移温度で世界記録を塗り替えた。これにより趙忠賢らは、国家自然科学賞一等賞に輝いた。方忠は、物理研究所研究員として趙忠賢らを、理論や計算面でサポートし、2013年の受賞者の一人となったのである。
方忠は、2008年に物理研究所の副所長となり、2018年から所長を務めている。また、2019年には中国科学院の院士に当選している。
日本との関係
方忠のトポロジカルに関する研究チームと日本との関係は深い。リーダーである方忠が、かつて筑波にある工業技術院の研究所に在籍したことは既に述べたが、それ以外のメンバー4名のうち、2人が日本での研究を経験している。
一人目は翁紅明(Hongming Weng)である。翁は2005年に南京大学で博士学位取得後に日本に留学し、2005年から東北大学金属材料研究所でポスドク研究を行った.その後、2007年に筑波の産業技術総合研究所の研究員となり、さらに同年北陸先端科学技術大学院大学で准教授となっている。2010年に帰国して物理研究所の研究員となった。
翁洪明は、2017年には仁科アジア賞を受賞している。
二人目は余睿(Rui Yu)である。余は2011年に物理研究所で博士学位を取得し、香港大学でポスドク研究を行った後、2013年に日本の筑波にある物質・材料研究機構(NIMS)でもポスドク研究を行い、2016年に帰国して武漢大学の教授となっている。

方忠(中央)、翁紅明(左から2人目)、余睿(右端)
参考資料
・中国科学院物理研究所HP 热烈祝贺“拓扑电子材料计算预测”荣获2023年度国家自然科学奖一等奖
https://iop.cas.cn/xwzx/snxw/202406/t20240624_7195476.html
・中国青年网HP 拓扑时代的黎明即将到来
https://tech.youth.cn/wzlb/202406/t20240624_15334403.htm
・APSPhysics HP 恭喜美国物理学会作者方忠团队荣获2023年度国家自然科学奖一等奖!
https://mp.weixin.qq.com/s/6hVEcFjM2wGwKYDHgj1prQ
・科学网HP 中国科学院院士方忠:从事基础研究并不枯燥,而是享受
https://news.sciencenet.cn/sbhtmlnews/2024/11/382128.shtm?id=382128