はじめに
陳吉寧(陈吉宁、Chen Jining、1964年~)は、清華大学や英国インペリアル・カレッジ・ロンドンなどで環境学を学び、清華大学の学長や国務院・環境保護部(現在の生態環境部)部長などを歴任し、現在は中国共産党上海市委員会書記兼中国共産党中央政治局員の要職にある。

生い立ちと教育
陳吉寧(陈吉宁、Chen Jining)は1964年に、中国東北部・遼寧省営口市に生まれた。営口市は遼寧省南部にあって、日本人になじみの深い大連市に接している。
陳吉寧が2歳の時に文化大革命が始まり、12歳となった1976年に文革が終了しているので、下放などの文革の負の影響は免れたと考えられる。
陳吉寧は、地元営口市の小学校と中学校(日本の中高一貫校)に通った。17歳となった1981年に、中国の大学共通入試である高考を受験し、極めて優秀な成績であったため、北京大学と並んで中国最高峰の大学である清華大学の土木環境工学科に入学が許可された。同中学校の史上初めての清華大学学生の誕生であった。
1986年に清華大学より学士学位を取得し、引き続き同大学大学院環境工学科に進学し、1988年に同大学より環境工学の修士学位を取得した。陳吉寧は、清華大学在学中の1984年に、中国共産党に入党している。
英国に留学
陳吉寧は、1988年に英国に留学した。英国では当初ロンドンのブルネル大学に入学したが、翌年インペリアル・カレッジ・ロンドンに移り環境システム分析を専攻して、1993年に同カレッジより理学博士の学位を取得した。
陳吉寧は、ポスドクなどで同カレッジに残って研究を続行していたが、留学に出発してからちょうど10年後の1998年に帰国した。
行政官、政治家へ
陳吉寧は帰国後、母校である清華大学の環境科学・工学科の副主任となった。帰国から1年後の1999年には同学科の主任となった。さらに、2006年には清華大学副学長に就任した。
副学長に就任以降、陳吉寧は研究者としてのバックグラウンドをもとに、組織運営の指導者として行政官・政治家的な役割を担うこととなった。
2012年には、清華大学の学長に就任した。
陳吉寧は2015年に、国務院の環境保護部(环境保护部)部長に就任した。国務院の部は、日本政府の各省に相当し、部長は国務大臣に相当する。環境保護部は現在生態環境部となっていて、日本の環境省に当たる。
中国では、大学で理工系の学部で学んだ人物が中国共産党や政府の要職に就くことは、それほど珍しいことではない。例えば、鄧小平の後任となった江沢民は上海交通大学電気工学科、胡錦涛は清華大学水利工学科、習近平は清華大学化学工学科の卒業生である。これらの場合、中国の地方政府や国営企業でテクノクラートとして活躍の後、中国共産党の幹部となっていくのが通例である。
一方、研究者を志し海外に留学した人物が閣僚などの政府の要職に就く例は少なく、このHPで取り上げた人物では、2007年に科学技術部部長に就任した万鋼(万钢、Wan Gang、1952年~)と、やはり2007年に衛生部長(現在の国家衛生健康委員会主任)に就任した陳竺(陈竺、Chen Zhu、1953年~)の2名である。
中国共産党の幹部
陳吉寧は、2017年に中国共産党北京市委員会副書記に就任し、翌2018年には副書記兼務で北京市長に就任した。北京市では、中国共産党北京市委員会書記に次いでナンバーツゥの地位であった。北京市長となった陳吉寧は、北京冬季五輪の執行責任者となり、平昌五輪閉会式でトーマス・バッハIOC会長から五輪旗を引き継いでいる。
さらに2022年には、中国共産党上海市委員会書記に就任するとともに、中国共産党中央政治局員の一人となった。
中国共産党上海市委員会書記は、中国共産党の役職の中でも極めて重要なポストと位置づけられており、過去には錚々たる人物が就任している。例えば、陳吉寧の前任者は国務院の現総理・李強であり、過去には江沢民(1987年~1989年)、朱鎔基(1989年~1991年)、習近平(2007年)らがこの地位にあった。

また、中国共産党中央政治局員も重要ポストである。中国共産党の通常業務を処理するため、党中央政治局とその上位機関である党中央政治局常務委員会が置かれており、これらのメンバーが党の職権を代行する。現在の中央政治局委員は全体で23名(失脚したとされる張又侠や馬興瑞を含む)である。この中には、常務委員である習近平国家主席や、李強国務院総理も含まれている。
すでに述べたように、海外留学を経験して科学者のバックグラウンドを持った人物で国務院の閣僚クラスまで昇進した人は過去に存在したが、中国共産党幹部にまで昇進した人は極めて珍しい。理工系で留学経験があり、博士の学位を取得しており、大学で教授、副学長、学長として活躍した人物が、国家の政策全般を指導する立場に就任したことは、将来の中国の科学技術や高等教育の進展に、大きな意味を持つと筆者は考えている。
陳吉寧の今後の活躍に注目したい。
参考資料
・百度HP 陈吉宁
・維基百科HP 陈吉宁
・人民网HP 上海市委政法工作会议举行,陈吉宁要求建设更高水平的平安上海法治上海


