はじめに
2026年ノーベル賞については、2026年10月5日から7日にかけて、科学三賞の受賞者が発表された。昨年に続き今年も日本人研究者が受賞したが、筆者(林)が予想した64名の候補者リストに入っている研究者ではなかった。また、この候補者リストを作成するきっかけとなった中国系の研究者の受賞は、残念ながら今年もなかった。
1. ノーベル生理学・医学賞
2026年の生理学・医学賞の受賞者は、下記の様に3名とも著名な国際賞を受賞しており、またそのうちの1名はクラリベイト引用栄誉賞の受賞者でもある。
特に、米国スタンフォード大学教授のカール・ダイセロス(Karl Alexander Deisseroth)氏は、京都賞や日本国際賞だけではなく、慶応医学賞や、中曽根元総理がサミットで提案した国際プロジェクトであるHSFP(Human Frontier Science Program)が授与する中曽根賞の第一回目の受賞者でもある。
したがって、極めて順当な受賞であったと考えている。
・カール・ダイセロス(Karl Alexander Deisseroth)米国スタンフォード大学教授。生命科学ブレイクスルー賞(2016年)、マスリー賞(2016年)、ガードナー国際賞(2018年)、京都賞(2018年)、クラリベイト引用栄誉賞(2019年)、アルバート・ラスカー基礎医学研究賞(2021年)、ルイザ・グロス・ホロウィッツ賞(2022年)、日本国際賞(2023年)。
・ペーター・ヘーゲマン(Peter Hegemann)ドイツ・フンボルト大学教授。ワイリー賞(2010年)、マスリー賞(2016年)、ガードナー国際賞(2018年)、ショウ賞(2020年)、アルバート・ラスカー基礎医学研究賞(2021年)、ルイザ・グロス・ホロウィッツ賞(2022年)。
・ゲオルク・ナーゲル(Georg Nagel)ドイツ・ヴュルツブルク大学教授。ワイリー賞(2010年)、ショウ賞(2020年)。
2. ノーベル物理学賞
2026年の物理学賞の受賞者も、下記の通り天文学に関係する著名な国際賞を受賞している。今回の受賞はチームプレイによる受賞であり、結果としてプロジェクトの発案者でリーダーの1名だけが受賞者となった。
多くの科学者のチームプレイによるノーベル賞受賞の先例としては、2017年の「LIGO検出器および重力波の観測への決定的な貢献」による米国人科学者3名の物理学賞受賞がある。この場合は、米国に設置されたLIGO(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory:レーザー干渉計重力波観測装置)のプロジェクトに係った米国内の多くの科学者の中から、リーダー的な役割を果たした3名が選ばれて受賞している。
今回も、米国だけでなく日本を含めた14の国・地域の科学者がプロジェクトに参加していたが、残念ながら受賞者は1名だけとなった。特定の国・地域を選択するのは困難であったと想定される。
・フランシス・ハルツェン(Francis Halzen)米国ウィスコンシン大学マディソン校教授。バルザン賞(2015年)、ブルーノ・ロッシ賞(2021年)。
3. ノーベル化学賞
昨年に続いて、日本の科学者が受賞している。この内1名はウルフ賞の受賞者であるが、日本の硤合名誉教授は著名な国際賞受賞者ではない。したがって、受賞者発表前の候補者リスト64名には入っていない。

・アンリ・ボリス・カガン(Henri Boris Kagan)フランス・パリ南大学名誉教授。ウルフ賞化学部門(2001年)。
・硤合憲三(Kenso Soai)東京理科大学名誉教授。
4. 注目点
(1)引用栄誉賞や著名国際賞の受賞状況
筆者のノーベル賞候補者の選定基準は、クラリベイト引用栄誉賞や著名国際賞(32賞)を受賞しているかどうかであった。
今年の場合、受賞者6名のうち引用栄誉賞は1名であり、また著名国際賞(32賞)受賞者は5名であった。引用栄誉賞受賞者は著名な国際賞も受賞している。今回の受賞者で、日本の硤合憲三名誉教授のみが両方を受賞していなかった。
ウィキペディアの硤合憲三名誉教授の受賞歴を見ると、日本国内の学術賞受賞が中心であり、具体的には井上学術賞(2000年)、東レ科学技術賞(2016年)、日本学士院賞(2025年)などである。これらは、いずれも著名な賞ではあるが国内で日本人を対象とするものである。したがって、筆者が事前の候補者に選定できなかったことは残念であるが、逆に著名国際賞(32賞)に係わりがなかった科学者でもノーベル賞受賞者となったことは、日本の基礎科学の層の厚さを改めて示したことになり、大変喜ばしいことであったと考える。
(2)国別のノーベル賞受賞者
今回の受賞者を国籍別にみると、米国2名、ドイツ2名、日本1名、フランス1名、ベルギー1名(米国との二重国籍)である。また、ノーベル賞につながる研究を行った研究場所のある国で見ると、米国が2名、ドイツが2名、日本が1名、フランスが1名となる。今回の受賞者に関していえば、これまでのノーベル賞の受賞者とは違い、米国の比重が相対的に減少していて、逆に欧州の比重が増加している。
現在のトランプ政権は、科学技術や学術に対して「反知性的」に対応しており、大学や研究所での活動が阻害されているとの見方がある。しかし、そのようなトランプ政権の政策は、極めて長期間を経て、実際の研究現場に影響を与えると考えられるので、このことが米国の本年のノーベル賞受賞に直接に影響しているとは考えにくい。チーム活動での受賞により受賞者数が減少したことが大きく影響していると、筆者は考えている。
(3)今年も中国人受賞者はなかった
筆者がノーベル賞候補者を選定しようと思い立ったのは、中国の科学技術の状況分析の一環であり、その意味で中国系の科学者がノーベル賞受賞者に名を連ねてほしいという希望を持っている。しかし、今年も残念ながら中国系の科学者のノーベル賞受賞者はなかった。
科学論文の世界や、EV、太陽電池パネル、車載電池などの大量生産の世界では、中国は世界を圧倒しているが、基礎科学ではまだ、欧米先進国や日本に追いついていないと考えるべきであろう。
来年以降に期待したい。
参考資料
・東京理科大学HP 本学硤合憲三名誉教授がノーベル化学賞に決定しました
https://www.tus.ac.jp/today/archive/20261007_3541.html
・ウィキペディアHP 硤合憲三
