はじめに

 パトリック・リー(1946年~)MIT教授は、強相関電子システムやメゾスコピック物理学などの研究で、2005年にディラック賞を受賞した中国系の物理学者である。

パトリック・リーの写真
パトリック・リー 香港科技大学HPより引用

生い立ちと教育

 パトリック・リー(Patrick A. Lee、李雅達、李雅达)は、1946年に英国領香港で生まれた。幼少期の情報は、HPなどにはない。

 リーは、マサチューセッツ工科大学(MIT)から1966年に学士の学位を、1970年に博士の学位を取得している。

MITの教授に就任

 パトリック・リーは、イェール大学で講師を2年間務めた後、1972年にベル研究所の研究員となった。
 ベル研究所とは、ベル・システム社が1920年代に設立した研究所であり、 ニュージャージー州マレーヒルを本拠地とし、その研究施設は世界中に点在する。中国系科学者では、分数量子ホール効果の研究によりノーベル物理学賞を受賞したダニエル・ツィが、1967年から1983年までこのベル研究所に在籍していた。

 パトリック・リーは、ベル研究所の研究員を10年間務めた後、1982年に母校であるMITの正教授に就任した。

メゾスコピック物理に貢献し、国際賞を受賞

 パトリック・リーは、メゾスコピック物理や低温の小型装置の研究に貢献した。またリーは、無秩序な電子システムの理論にも重要な貢献をした。

 これらの業績によりリーは、オリバー・バックリー凝集系賞(Oliver E. Buckley Condensed Matter Prize)を1991年に受賞した。受賞理由は、「固体における電子物性理論、特に強く相互作用し無秩序な物質に対する革新的な貢献:his innovative contributions to the theory of electronic properties of solids, especially of strongly interacting and disordered materials」であった。
 同賞は、凝縮系物理学に対する卓越した業績を称えるために米国物理学会より授与される賞であり、ベル研究所の元所長であるオリバー・エルズワース・バックリーにちなんでいる。

 リーは2005年に、国際理論物理学センター(ICTP)のディラック・メダルを受賞した。受賞理由は、「無秩序で強く相互作用する多体システムの理解に対する先駆的な貢献:his pioneering contributions to our understanding of disordered and strongly interacting many-body systems」であった。
 ディラック・メダルは、英国の物理学者ポール・ディラックにちなむ賞であり、1985年に創設された。同メダルは、ノーベル賞受賞者、フィールズ賞受賞者、ウルフ賞受賞者には与えられないが、逆にこの賞を受けた後でノーベル賞を授与された人物は数人いる。2008年にノーベル物理学賞を受賞した南部陽一博士も、1986年に同メダルを受賞している。

 パトリック・リーは、現在もMIT教授として高温超伝導の研究などを続けている。国籍は米国籍となっている。

参考資料

・MIT ILPのHP https://ilp.mit.edu/node/12071
・香港科技大学HP https://ias.hkust.edu.hk/people/ias-members/visitors/prof-patrick-a-lee
・APSのHP https://www.aps.org/programs/honors/prizes/prizerecipient.cfm?last_nm=Lee&first_nm=Patrick&year=1991
・ICTPのHP https://www.ictp.it/home/dirac-medallists-2005