はじめに

 ウェンシン・リー(1942年~)は、台湾出身の生物学者であり、遺伝学と進化生物学の貢献により2003年にバルザン賞を受賞している。

ウェンシン・リーの写真
ウェンシン・リー バルザン賞HPより引用

生い立ちと教育

 ウェンシン・リー(Wen-Hsiung Li、李文雄)は、1942年に台湾島の南端にある屏東(へいとう)に生まれた。

 リーは、1965年に台北市に隣接し国際空港のある桃園市の中原理工学院(現在の中原大学)の土木学部を卒業し、1968年にやはり桃園市にある国立中央大学で地球物理学専攻修士課程を卒業した。
 この国立中央大学は、中国大陸の江蘇省南京にあった中央大学を祖とするもので、国共内戦の後に関係者の一部が台湾に逃れ、1962年に国立中央大学大学院として再建された。大陸の中央大学は、共産党に接収の後、南京大学となった。

米国に留学、根井正俊に師事

 ウェンシン・リーはその後米国に渡り、米国東部のロードアイランド州プロビデンス市に本部を置くブラウン大学大学院で応用数学を専攻し、1972年に博士号を取得した。1973年にテキサス大学健康科学センターの助教授(Assistant Professor)に採用された。

 リーのこの時期の恩師が、日本人研究者である根井正利である。
 根井は1931年に宮崎市で生まれ、京都大学で博士号取得の後、科学技術庁・放射線医学総合研究所の室長などを経て、1969年にブラウン大学の准教授となり、1971年に教授となった。翌1972年にはテキサス大学の教授に転任している。李文雄は、根井研究室の助教授に採用されたのである。
 根井正俊は、集団遺伝学や分子系統学などの功績で京都賞基礎科学部門などを受賞したが、2023年5月に亡くなっている。

ウェンシン・リーの恩師・根井正利の写真
ウェンシン・リーの恩師の一人・根井正利 京都賞HPより引用

 リーは、1978年にテキサス大学の准教授(Associate Professor)に昇進し、1984年に正教授となった。1999年にはシカゴ大学の教授に転任している。

遺伝子制御研究、バルザン賞などを受賞

 ウェンシン・リーは、酵母菌株における遺伝子制御の進化、哺乳類における遺伝子発現パターンの進化、シスエレメント(遺伝子の上流部にあって、転写因子が結合する領域のこと)と遺伝子ネットワークの進化などを分析することにより、遺伝子制御の進化を研究した。
 また、ゲノム進化の大きな要因の一つと考えられる重複遺伝子について解析を行った。

 ウェンシン・リーは、2003年にバルザン賞を受賞した。受賞理由は、「系統的発生を推定する方法を開発し、異なる動物集団の遺伝子変化率について重要な発見を行った(He has developed widely used methods for inferring phylogenetic relationships and has made important discoveries about the rate of genetic change in different groups of animals)」である。

 バルザン賞(The International Balzan Prize Foundation awards)は、バルザン財団が自然科学分野と人文科学分野の優れた研究者にを与えるものである。日本人では、2007年に飯島澄男博士、2010年には山中伸弥博士が受賞している。中国系では、高圧鉱物学のホークァン・マオが、2005年に受賞している。

参考資料

・NAS HP Wen-Hsiung Li http://www.nasonline.org/member-directory/members/20002158.html
・バルザン賞HP Wen-Hsiung Li 2003 Balzan Prize for Genetics and Evolution
https://www.balzan.org/en/prizewinners/wen-hsiung-li
・京都賞HP 根井正俊 https://www.kyotoprize.org/laureates/masatoshi_nei/
・稲盛財団 進化生物学の理論と現実 「Title Theory and Reality of Evolutionary Biology」
根井 正利 https://www.kyotoprize.org/wp-content/uploads/2019/07/2013_B.pdf