はじめに

 シャオガン・ウェン(Xiao-Gang Wen、文小剛、文小刚、1961年~)MIT教授は、凝集系物理学、とりわけ強相関電子システムにおける物性理論を専門分野としており、2018年にICTPのディラック・メダルを受賞して、ノーベル物理学賞の候補者の一人となっている。

シャオガン・ウェンの写真
文小剛 百度HPより引用

生い立ちと教育

 シャオガン・ウェン(Xiao-Gang Wen、文小剛、文小刚)は1961年に、中国大陸の西北部に位置する陝西省西安に生まれた。ウェンが小学校に入る前に文化大革命が始まり、15歳の時に文革が終了している。

 文革が終了し鄧小平が復活すると、大学共通入試である高考を復活させた。1977年12月に行われた復活後第一回目の高考では、約570万人が受験したが、文革の影響を受けた大学側の受け入れ体制を考慮して合格者はわずか約27万人(約5%)であった。

 シャオガン・ウェンは、この復活後第一回目の高考を受験して、安徽省合肥にある中国科学技術大学の物理学科に合格した。
 この復活後第一回目の高考を受験して大学に入った研究者には、ゾンリン・ワン(王中林)ジョージア工科大学教授やジンイ-・カイ(蔡進一)ウィスコンシン大学マディソン校教授などの錚々たる人達がいて、彼らも同じ1961年生まれである。

米国に留学

 シャオガン・ウェンは、1981年に「中米渡米物理専攻大学院生共同募集(CUSPEA)」を受験し、中国全体でも極めて優秀な成績で合格し、翌1982年に中国科学技術大学から学士号を取得して米国プリンストン大学に留学した。
 CUSPEAは米中が学術交流を復活させた1979年に、ノーベル賞受賞学者の李政道が最高指導者の鄧小平に提起して始まったプログラムであり、物理学を学ぶ大学院生を中国国内で募集し、米国の有名大学で博士課程を履修させるものであった。1980年に米国の61か所の大学がCUSPEAに参加した。

 ウェンは、プリンストン大学で理論物理学・超弦理論を専攻し、1983年に修士号を、1987年に博士号を取得した。

MITの教授に就任

 シャオガン・ウェンは1987年に、ポスドク研究員としてカリフォルニア大学のサンタバーバラ校に移り、専攻を物性物理学に切り替えていく。1989年には、プリンストン高等研究所の研究員となった。

 ウェンは、1991年にMITの助教授(Assistant Professor)に採用され、1995年に准教授(Associate Professor)に昇進し、2000年に同校の教授に就任した。

物性物理で成果

 シャオガン・ウェンは、新しい物質の状態として、1989年に「トポロジカル秩序」の概念を、2002年に「量子秩序」の概念を提案した。これらの提案により、凝集物理学に新たな方向性をもたらした。

 ウェンは2017年に、オリバー・E・バックリー凝縮系賞(Oliver E. Buckley Condensed Matter Prize)を、アレクセイ・キタエフ・カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授とともに受賞した。受賞理由は、「広範囲な物質系におけるトポロジカル秩序とその関連」であった。
 オリバー・E・バックリー凝縮系賞は、米国物理学会により凝縮系物理学で成果を挙げた研究者に授与される賞であり、ベル研究所の元所長であるオリバー・エルズワース・バックリーにちなむ。日本の研究者では、2009年に宮崎照宣・東北大学名誉教授が受賞している。

 ウェンは2018年に、国際理論物理学センター(ICTP)のディラックメダルを受賞した。受賞理由は、「多体システムにおける学際的な研究」であった。
 ディラック・メダルは、英国の物理学者ポール・ディラックにちなむ賞であり、1985年に創設された。同メダルは、ノーベル賞受賞者、フィールズ賞受賞者、ウルフ賞受賞者には与えられないが、逆にこの賞を受けた後でノーベル賞を授与された人物は数人いる。2008年にノーベル物理学賞を受賞した南部陽一博士も、1986年に同メダルを受賞している。
 同メダルの受賞もあり、シャオガン・ウェンはノーベル物理学賞の受賞が期待される中国系の研究者となった。

 シャオガン・ウェンは、現在もMIT教授として研究を続行しているが、国籍は米国に変更している。

参考資料

・MITのHP 「Xiao-Gang Wen」https://physics.mit.edu/faculty/xiao-gang-wen/
・APSのHP 「2017 Oliver E. Buckley Condensed Matter Physics Prize Recipient」https://www.aps.org/programs/honors/prizes/prizerecipient.cfm?last_nm=Wen&first_nm=Xiao-Gang&year=2017
・ICTPのHP 「2018 Dirac Medal Winners Announced」 https://www.ictp.it/news/2018/8/2018-dirac-medal-winners-announced