はじめに

 ユアン・チャン(1959年~)ピッツバーグ大学教授は、ヒトに癌を発生させるウィルスを発見した台湾生まれの米国人医学者である。夫で共同研究者であるパトリック・ムーアと著名な国際賞やクラリベートアナリティックス社の引用栄誉賞を受賞しており、ノーベル生理学・医学賞受賞の候補者である。

ヤン・チャンの写真
ヤン・チャン(張遠) 澎湃新闻より引用

生い立ちと教育、夫ムーアとの出会い

 ユアン・チャン (Yuan Chang、張遠、张远)は、1959年に台湾の台北市に生まれた。5歳の時に米国のユタ州ソルトレイクシティに移住し、そこで基礎教育を受けた。チャンは、ユタ大学の医学部を卒業してMDを取得した後、スタンフォード大学に移り、神経病理の臨床研究を続けた。

 ユアン・チャンは1989年に、シアトル生まれの米国人で、やはり医学者であるパトリック・ムーア(Patrick S. Moore)と結婚している。ムーアはチャンの3つ年上の1956年生まれで、ユタ大学の医学部で知り合った。ムーアは1987年から米国CDC(疾病予防管理センター)に勤務し、1992年にはソマリアの内戦で医療チームのヘッドして派遣されている。

ムーアとユアン・チャン
ムーアとユアン・チャン Journal of the National Cancer Instituteより引用

がんを引き起こすウイルスの発見

 ユアン・チャンは1992年に、コロンビア大学で職を得て、ニューヨークに移住した。一方のムーアはソマリアから帰国し、コロラド州で短期間医師として勤務した後、妻・チャンのいるニューヨークに移動している。
 この時期に彼らは、エイズに感染した同性愛者に多く見られたカポジ肉腫に関心を持ち、同肉腫がある種の性感染症ウイルスによって引き起こされたという仮説に到達した。そこで、コロンビア大学において、このウィルスの探索が始まった。チャンは、コロンビア大学に移ってきたばかりで研究資金援助もなく、ムーアも無職であったためチャンの研究室に無給のアルバイトの形で入り、二人で細々と研究を続けた。
 そして、カポジ肉腫に関連するヘルペス ウイルスの未知のバージョンであるヒト ヘルペス ウイルス 8 の分離に成功したのである。1994 年にScienceに掲載されたこの発見は、腫瘍ウイルス学の大きな発見となった。

 さらに2002年にピッツバーグ大学に移ったユアン・チャンとムーアは、2008年にカポジ肉腫と同様の特徴があり、特に AIDS 患者での発生率が高いメルケル細胞癌の原因ウィルスであるメルケル細胞ポリオ―マウイルス(MCV)を発見している。なお、このMCVの発見には、日本の医学者である習田昌裕博士も貢献している。習田博士は現在、チャン教授の下で准教授を務めている。

国際賞や引用栄誉賞を受賞

 ユアン・チャンとムーアは1998年に、微生物学・免疫学分野における優れた業績に対して与えられるロベルト・コッホ賞を受賞した。同賞受賞者でノーベル生理学・医学賞を受賞した科学者は多く、日本人でも利根川進、山中伸弥、本庶佑などの受賞者がいる。

 2003 年には、米国ジェネラル・モータースがん研究財団による チャールズ・S・モット賞を受賞した。2017 年には、クラリベートアナリティックス社の引用栄誉賞を受賞している。

 ユアン・チャンとムーアは、現在もピッツバーグ大学の教授として、研究活動を継続してる。

参考資料

・Jounal of the National Canser Institute HP "Yuan Chang and Patrick Moore: Teaming Up To Hunt Down Cancer-Causing Viruses", 16 April 2008 https://academic.oup.com/jnci/article/100/8/524/942957?l
・ロベルトコッホ財団HP https://www.robert-koch-stiftung.de/en/awards/robert-koch-award
・ピッツバーグ大学医学部HP  YUAN CHANG, MD http://www.mvm.pitt.edu/node/275
・ピッツバーグ大学医学部HP Patrick S. Moore, MD, MPH https://www.mmg.pitt.edu/people/moore