中国のライフサイエンスについて、論文数、Nature Index、特許数、CRDSの俯瞰データにより、米国などとの国際比較を示す。

1. 科学論文による国際比較

 科学論文における、中国のライフサイエンスのレベルについて述べる。資料としては、クラリベイト社Web of Scienceを用いている文部科学省科学技術・学術政策研究所の「科学研究のベンチマーキング2023」を用いた。

(1)全分野での論文数比較

 下の二つの表は、直近の全科学分野における論文数比較を示したものである。対象としている期間は、2019年から2021年までである。論文数は、作成に当たっての貢献度を考慮した分数カウントを用いた。
 表の右側は全論文数であり、左側はトップ1%の論文数である。トップ1%の論文数とは、各論文で引用数を考慮して上位1%に入る論文のみをカウントしたものである。

 これを見ると、中国は世界1位であり、2位の米国以下を引き離している。特に興味深いのは、質の高い論文と考えられるトップ1%の論文数でも米国を圧倒していることである。

順位国名論文数シェア
1中国464,07724.6
2米国302,46616.1
3インド75,8254.0
4ドイツ73,3713.9
5日本70,7753.8
全分野の全科学論文数(分数カウント、2019年~2021年)
科学研究のベンチマーキング2023を元に作成
順位国名論文数シェア
1中国5,51629.3
2米国4,26522.6
3英国1,0335.5
4ドイツ7153.8
5豪州5643.0
全分野のトップ1%科学論文数(分数カウント、2019年~2021年)
科学研究のベンチマーキング2023を元に作成

 全科学分野における論文数の経年変化を、全論文数とトップ1%の論文数で見たものが下図である。2000年以降中国がシェアを急激に伸ばし、直近で米国を抜いてトップにあることが分かる。

(2)臨床医学分野での論文数比較

 続いて、臨床医学分野での論文数比較を示す。臨床医学分野とは、臨床医学と精神医学/心理学の二つの分野を併せて分類している。

 下表は、直近の臨床医学分野における全論文数比較を示したものである。対象としている期間は、2019年から2021年までである。これを見ると、中国は世界2位であり、1位の米国とはかなりある。一方で、欧州諸国や日本より上位にあり、特に全論文数ではかなりの差である。

順位国名論文数シェア
1米国91,98624.0
2中国58,29215.2
3日本19,2195.0
4英国18,8204.9
5ドイツ17,2004.5
臨床医学分野の全科学論文数(分数カウント、2019年~2021年)
科学研究のベンチマーキング2023を元に作成
順位国名論文数シェア
1米国1,39236.4
2中国40210.5
3英国3479.1
4イタリア1965.0
5ドイツ1644.3
臨床医学分野のトップ1%科学論文数(分数カウント、2019年~2021年)
科学研究のベンチマーキング2023を元に作成

 下図は、臨床医学分野の全論文数とトップ1%の論文数の経年変化を示すグラフである。中国が2010年代以降に急激にシェアを伸ばしているが、この分野では米国の力が圧倒的である。

臨床医学分野における全論文数の経年変化のグラフ
臨床医学分野の全科学論文数経年変化
科学研究のベンチマーキング2023より引用
臨床医学分野のトップ1%論文数の経年変化のグラフ
臨床医学分野のトップ1%の論文数経年変化
科学研究のベンチマーキング2023より引用

(3)基礎生命科学分野での論文数比較

 次に、基礎生命科学分野での論文数比較を示す。基礎生命科学分野とは、農業科学、生物学・生化学、免疫学、微生物学、分子生物学・遺伝学、神経科学・行動学、薬理学・毒性学、植物・動物学の8つの分野を併せて分類している。

 下表は、直近の基礎生命科学分野における全論文数比較を示したものである。対象としている期間は、2019年から2021年までである。これを見ると、まず全論文数では中国は世界1位であり、2位の米国を圧倒している。一方で、質の高い論文と考えられるトップ1%の論文数では、米国の後塵を拝しており第2位であるが、欧州諸国や日本より上位にある。

順位国名論文数シェア
1中国97,40920.7
2米国86,84018.4
3ドイツ18,8014.0
4日本18,3793.9
5ブラジル18,3613.9
基礎生命科学分野の全科学論文数(分数カウント、2019年~2021年)
科学研究のベンチマーキング2023を元に作成
順位国名論文数シェア
1米国1,28127.2
2中国91819.5
3英国2725.8
4ドイツ2284.8
5イタリア1573.3
基礎生命科学分野のトップ1%科学論文数(分数カウント、2019年~2021年)
科学研究のベンチマーキング2023を元に作成

 下図は、基礎生命科学分野の全論文数とトップ1%の論文数の経年変化を示すグラフである。中国が2010年代以降に急激にシェアを伸ばし、全論文数では直近で米国を抜いて世界1位となっているが、トップ1%の論文数ではまだ米国が上位にある。

基礎生命科学全論文数の経年変化のグラフ
基礎生命科学分野の全科学論文経年変化
科学研究のベンチマーキング2023より引用
基礎生命科学トップ1%論文数経年変化のグラフ
基礎生命科学分野のトップ1%論文数経年変化
科学研究のベンチマーキング2023より引用

2. Nature Index2023による国際比較

 続いて、Nature Indexによる国際比較を見たい。 

 科学雑誌のNatureは、自然科学系のトップランクの学術誌に掲載された論文を研究機関別にカウントしたNature Indexを公表している。現在取り扱われている学術誌は145誌であり、ネイチャー及びその関連の専門誌だけではなく他の一流学術誌・科学雑誌であるセル、サイエンスなどが含まれている。
 直近のNature Index2023は、2022年一年間で掲載された論文を、著者の所属国別に分数カウントしたものである。

(1)全分野での比較

 Nature Index2023で全分野の論文数による順位を示したのが下表である。中国は米国に次いで世界第2位である。

順位国名論文数
1米国21,473.33
2中国20,050.89
3ドイツ4,554.69
4英国3,967.42
5日本2,959.83
Nature Index2023の全論文数比較
Nature Index HPより引用

 下図は、Nature Index全論文数による、2018年からの経年変化を示すグラフである。上の表で見たのは、2022年分であり、現在の2023年に係わるシェアで中国は米国を抜いて世界一となっている。

Nature Indexの全論文数経年変化 
青丸-中国、緑-米国、赤-ドイツ、黄-英国、青三角-日本
Nature Index HPより引用

(2)biological sciences 分野での比較

 Nature Index2023のbiological sciences 分野での比較は、下表の通りである。biological science分野でセレクトされている雑誌には、Cancer Research、Cell、Immunity、Neuronなど41の学術誌がある。

順位国名2022年論文数2021年論文数
(参考)
国際シェアの
変化率
1米国8,395.259,455.57-3.4%
2中国2,491.962,153.0925.9%
3英国1,409.101,657.42-7.5%
4ドイツ1,294.351,491.31-5.6%
5日本711.31761.591.6%
biological sciences 分野での国際比較 Nature Index HPより引用

 下図は、Nature Indexによるbiological sciences分野の論文数による、2018年からの経年変化を示すグラフである。上の表で見たのは、2022年分である。米国の優位は変わっていないが、徐々に中国が追いついてきている状況である。

Nature Indexのbiological sciences 分野論文数の経年変化
緑-米国、青丸-中国、黄-英国、赤-ドイツ、青三角-日本
Nature Index HPより引用

(3)health sciences 分野での比較

 Nature Index2023のhealth sciences 分野での比較は、下表の通りである。health science分野でセレクトされている雑誌には、Blood、Brain、The Journal of the American Medical Association、The Lancet、The New England Journal of Medicineなど70の学術誌がある。

順位国名2022年論文数
1米国5,352.21
2中国1,287.15
3英国962.73
4ドイツ558.67
5カナダ514.31
health sciences 分野での国際比較 Nature Index HPより引用

 下図は、Nature Indexによるhealth sciences分野の論文数による、2018年からの経年変化を示すグラフである。上の表で見たのは、2022年分である。米国の優位は変わっていない。

Nature Indexのhealth sciences 分野論文数の経年変化
緑-米国、青-中国、黄-英国、赤-ドイツ、青-日本
Nature Index HPより引用

3. 特許による国際比較

 少しデータが古いが、特許による国際比較を見たのが、次の2つの表である。これは、中国で出版された「2018年中国生命科学・生物技術発展報告」から引用したデータである。

 これでみても、中国は米国とトップ争いをしている現状が分かる。

順位国名出願数
1米国34,773
2中国32,879
3日本8,252
4韓国4,801
5ドイツ8.182
ライフサイエンス特許の出願数(2017年)
「2018年中国生命科学・生物技術発展報告」から引用
順位国名登録数
1米国16,878
2中国11,212
3韓国3,718
4日本3,684
5ドイツ1,486
ライフサイエンス特許の登録数(2017年)
「2018年中国生命科学・生物技術発展報告」から引用

4. CRDS俯瞰報告書による国際比較

 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)・研究開発戦略センター(CRDS)では、2008年より科学技術・研究開発に関する国際比較を含む調査を実施し、その結果を俯瞰報告書として公表しており、直近では2023年3月に「研究開発の俯瞰報告書(2023年)」をとりまとめている(この2023年版のCRDSの報告書は、こちらを参照されたい)。
 この俯瞰報告書を筆者の手法で分析して、ライフサイエンス・臨床医学分野における各国の科学技術力を評価したものを以下に紹介する。
 なお、俯瞰報告書はこちらを、評価手法はこちらを、それぞれ参照されたい。また、ライフサイエンス・医学分野のより詳しい国際比較についてはこちらを参照されたい。

(1)ライフサイエンス・臨床医学分野全体での国際比較

 2023年俯瞰報告書をベースとした、ライフサイエンス分野における国際比較は次の通りである。

          全体     米国>欧州>日本~中国>韓国
            基礎     米国>欧州>日本~中国>韓国
            応用・開発  米国>欧州>中国~日本>韓国
(註)「~」は「~」の左の国・地域が右の国・地域と同等であるか若干強いと言うことであり、「>」は「>」の左の国・地域が右の国・地域と顕著な差があると言うことである。

 つまり、米国が圧倒的で世界をリードし、若干遅れて欧州がそれを追い、さらに日本と中国が並んで欧州を追っているとの結果となった。日本と中国との関係で言えば、日本は基礎分野が中国に比して強く、逆に応用分野は中国が日本に勝っている。

(2)ライフサイエンス・臨床医学分野の経年変化

 ライフサイエンス・臨床医学分野の経年変化を示したのが下のグラフである。

ライフサイエンス・医学分野の経年変化
ライフサイエンス・臨床医学分野の経年変化

参考資料

・文部科学省科学技術・学術政策研究所 「科学研究のベンチマーキング2023-論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況-」 2023年8月
・Nature IndexHP  https://www.nature.com/nature-index/
・科学出版社 『2018中国生命科学・生物技術発展報告』
・JST/CRDSのHP 「研究開発の俯瞰報告書(2023年)」https://www.jst.go.jp/crds/report/CRDS-FY2022-TOP.html