両弾一星政策の概要

 両弾一星政策は、毛沢東が主導し、原水爆とミサイル(両弾)と人工衛星(一星)を中国独自で開発したプロジェクトである。

両弾一星政策の経緯

 新中国建国直後の1950年6月に朝鮮戦争が始まり、同年12月中国は義勇軍を派遣して戦争に加わった。膠着状態に陥った戦線を打開するため、国連軍のマッカーサー総司令官が中国への核兵器を含む攻撃を主張したことを毛沢東らの中国共産党幹部は厳しく受け止め、第2次世界大戦の戦勝国としての立場を確保することをも念頭に、核兵器開発を決断することになった。
 一方、第2次世界大戦後の新たな軍事技術として注目されたのは、ミサイルとロケット技術である。ソ連は、1948年にミサイルを、1957年8月には大陸間弾道ミサイル(ICBM)であるR-7ロケットを、そして同年10月には人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功し、米国を圧倒した。中国はこれらの状況を見て、核兵器の開発だけでなくミサイルやロケットの開発を同時に行うこととした。
 これが両弾一星政策であり、「両弾」は核兵器(原爆・水爆)とミサイル、「一星」は人工衛星を指す。1958年に、両弾一星政策を推進するため国防科学技術委員会が設置され、聶栄臻が主任となり、同政策を先導した。

 最初に成果を挙げたのがミサイル開発であり、ソ連から供与されたR-2ミサイルをリバースエンジニアリングして複製することにより、1960年に初めてのミサイル「東風1号(DF-1)」を打ち上げ成功させた。しかし、フルシチョフがスターリン批判を開始すると、友好的であった中ソ関係は徐々に対立状態となり、1960年にはソ連の技術的援助は無くなった。
 以降中国は、ミサイル開発や原子爆弾の開発を独力で進め、1964年10月、新疆ウイグル自治区のロプノールで初の核実験に成功した。さらに同月には、核弾頭を装備した東風2号Aミサイルを酒泉衛星発射センターより打ち上げ、20キロトンの核弾頭が新疆ウイグル自治区ロプノール上空で爆発した。これによって、両弾一星の両弾の部分(核兵器とミサイル)の開発に成功した。さらに1967年6月には、同じく新疆ウイグル自治区のロプノールで、初の水爆実験に成功した。
 両弾一星の一星の部分、つまり人工衛星の打ち上げについても着実に進められた。中国は、ソ連からの技術をベースとして独自開発を加えたミサイル技術を発展させ、1970年4月に長征1号ロケットにより「東方紅1号」の打ち上げに成功した。これはソ連、米国、フランス、日本についで世界で5番目の人工衛星打ち上げ国であり、これにより両弾一星は完成した。

両弾一星の完成
東方紅1号 百度HPより引用

両弾一星政策に係わる功労勲賞受賞者

 1999年、新中国建国50周年を記念して、中国共産党中央、国務院、中央軍事委員会は、両弾一星政策に貢献した科学技術専門家23名に「両弾一星功労勲賞 (两弹一星功勋奖章) 」を授与した。
 23名のリストを、受賞決定の公表順に列記する。
○受賞時の生存者
于敏(1926年~2019年)核物理学、水爆開発
王大珩(1915年~2011年)光学、原爆および衛星開発
・王希季(1921年~)宇宙技術、ロケットおよび衛星開発
・朱光亜 (朱光亚、1924年~2011年) 核物理学、原爆および水爆開発
孫家棟 (孙家栋、1929年~) 航空工学、ミサイルおよび衛星開発
・任新民 (1915年~2017年) 航空工学、ロケット・ミサイルおよび衛星開発
・呉自良(吴自良、1917年~2008年)冶金学、原爆開発
・陳芳允 (陈芳允、1916年~2000年) 無線工学、衛星開発
・陳能寛(陈能宽、1923年~2016年) 金属物理、原爆および水爆開発
・楊嘉墀 (杨嘉墀、1919年~2006年) 自動制御工学、衛星開発
周光召(1929年~)理論物理学、原爆および水爆開発
銭学森(钱学森、1911年~2009年)航空工学、ミサイルおよび衛星開発  
・屠守鍔 (屠守锷、1917年~2012年) 航空工学、ミサイルおよびロケット開発
・黄緯禄(黄纬禄、1916年~2011年)自動制御工学、ミサイル開発
・程開甲(程开甲、1918年~2018年)核物理学、原爆および水爆開発
・彭桓武 (1915年~2007年) 理論物理学、原爆および水爆開発
○死亡者への追叙
王淦昌 (1907年~1998年) 核物理学、原爆および水爆開発
鄧稼先(邓稼先、1924年~1986年)核物理学、原爆および水爆開発
趙九章(赵九章、1907年~1968年)気象学・地球物理学、 衛星開発
・姚桐斌 (1922年~1968年) 航空宇宙材料学、ミサイルおよびロケット開発
・銭驥 (钱骥、1917年~1983年) 地球物理学・宇宙空間物理学、衛星開発
銭三強(钱三强、1913年~1992年)核物理学、原爆および水爆開発
・郭永懐 (郭永怀、1909年~1968年) 空気力学、ミサイル開発

本HPで取り上げる科学者

 この中から、筆者の独断により次の9名を、生年順に取り上げる。

趙九章(1907年~1968年)

王淦昌(1907年~1998年)

銭三強(1910年~1992年)

銭学森(1911年~2009年)

王大珩(1915年~2011年)

鄧稼先(1924年~1986年)

参考資料

・百度HP 两弹一星 https://baike.baidu.com/item/%E4%B8%A4%E5%BC%B9%E4%B8%80%E6%98%9F