はじめに

高エネルギー物理研究所 (Institute of High Energy Physics) は、北京市にある中国科学院の附属研究機関である。

 高エネルギー物理、加速器物理、宇宙線などの研究を行っている。

 規模はそれほど大きくないが、研究開発力、研究成果などで、中国科学院内でトップレベルとなっている。

高エネルギー物理研究所の正面の写真
高エネルギー物理研究所の正面  百度HPより引用

1. 名称

○中国語表記:高能物理研究所  略称 高能所
○日本語表記:高エネルギー物理研究所
○英語表記:Institute of High Energy Physics 略称 IHEP

2. 所在地

 高エネルギー物理研究所の所在地は、北京市石景山区玉泉路19号乙である。石景山区は、北京市内から西に離れた郊外で、玉泉路は紫禁城の西約10キロメートルのところに位置する。
 この地には、元々中国科学院傘下の大学である中国科学技術大学が1958年以降設置されていた。ところが1966年に開始された文化大革命の影響を受け、教育研究施設や人材などで多大な損失をこうむりながらも、1971年に安徽省合肥市に移転した。
 高エネルギー物理研究所は、その後1973年にこの地に設置された。

3. 沿革

(1)母体は近代物理所

 中華人民共和国の建国とともに中国科学院が1949年に設置され、翌1950年5月に附属研究機関の一つとして、近代物理所が設置された。初代所長は呉有訓、副所長は銭三強であった。

 中国科学院の本部は、1953年に近代物理所を物理研究所と改名した。ただし、これは現在の物理研究所とは別組織であり、現在の物理研究所はその当時「応用物理研究所」と称していた。

 1958年に中国科学院内の物理関係部門の改編が行われ、応用物理研究所は物理研究所に、物理研究所は原子能研究所となった。

(2)張文裕らによる加速器建設提案

 文化大革命中の1972年8月、当時原子能研究所の副所長であった張文裕は、他の物理学者らと共同(全体18名)で周恩来国務院総理に書簡を送り、中国の素粒子物理学や高エネルギー物理学研究のために新しい加速器の建設が不可欠であると提案した。

 周恩来総理は翌9月に書簡を発出し、「この問題はこれ以上遅らせてはならない。中国科学院は高エネルギーの基礎研究と理論研究を行うとともに、理論を実験で確認する必要がある。高エネルギー加速器建設の準備研究は、中国科学院主要プロジェクトの一つとすべきである」と張文裕らに指示した。

周恩来総理の加速器建設指示の文書
張文裕への周恩来総理の指示書簡  高エネルギー物理研究所HPより引用

(3)高エネルギー物理研究所設置

 張文裕らは、この周恩来総理の指示を受けて、関係者と共に欧米を視察し加速器建設の準備を進めた。
 そして中国科学院は、翌1973年に中国科学院原子能研究所から分離・独立させる形で「高エネルギー物理研究所(高能物理研究所)」を設置し、初代の所長に張文裕を充てた。
 なお、原子能研究院はその後中国科学院を離れ、国務院核工業部(現在は核工業集団有限公司:CNCC)傘下の「中国原子能科学研究院(China Institute of Atomic Energy:CIAE)」となった。

 1973年に高エネルギー物理研究所が設立されたものの、当時は文化大革命の最中であり四人組の影響力が大きかったため、加速器の建設はほとんど進展がなかった。

(4)加速器BEPCの建設

 1976年末に文革が終了し鄧小平が復活すると、この加速器プロジェクトは動き始めた。1979年の鄧小平訪米に同行した方毅中国科学院院長は、シュレジンジャー・エネルギー省長官と間で、加速器建設の米中協力を合意した。

 中国科学院本部と高エネルギー物理研究所で準備作業が行われ、新型の加速器を北京郊外の玉泉路に設置することとした。加速器は、「BEPC(Beijing Electron Positron Collider:北京電子・陽電子衝突型加速器)」と命名された。
 1982年6月に、21名の科学者からなるチームが米国スタンフォード大学線形加速器センターを訪問し、意見交換を行ってBEPCの予備設計や建設のためのパラメータなどを決定した。

 1984年10 月、鄧小平・最高指導者が出席して、BEPCの着工式が行われた。

加速器の起工式の鄧小平の写真
BEPC起工式での鄧小平  高エネルギー物理研究所HPより引用

 4年後の1988年10月にBEPCが完成すると、鄧小平は直ちに同加速器を視察し、「中国は世界のハイテク分野で地位を占めなければならない(中国必须在高科技领域占有一席之地)」と演説を行った。この装置の完成は、中国における加速器研究の幕開けとなった。

(5)新しい装置を次々に建設

 BEPC建設に成功した高エネルギー物理研究所は、それ以降新しい加速器や装置の建設を次々の進めている。

 高エネルギー物理研究所は1990年に、チベットの羊八井に宇宙船観測装置である「超高エネルギーγ天文観測空気クラスターアレイ」を設置した。この装置は、日中間での協力プロジェクトとなり、翌1994年には「中日協力羊八井実験ステーション」が完成し、国際四大γ天文宇宙線研究アレイの一つとなった。

 高エネルギー物理研究所は、BEPCに付置する形で自由電子レーザー装置の開発を進め、1993年に完成させた。

 高エネルギー物理研究所は、2000年代に入ってから、BEPCを改修するプロジェクトの検討を開始した。
 2005 年にはBEPCが17年間の運用を正式に終了し、同じ敷地を利用して新たな「北京電子陽電子衝突型加速器 (BEPCII)」の二重エネルギー貯蔵リングの建設を始めた。2006年末にはBEPCⅡを完成させ、初ビームを発出した。

 高エネルギー物理研究所は、広東省深圳市で「大亜湾原子炉ニュートリノ実験(大亚湾反应堆中微子实验、Daya Bay Reactor Neutrino Experiment)」を実施することとし、2007年に同実験のための装置の建設を開始し、2012年に運用を開始した。国際協力グループは同年3月、この実験装置を用いて新しいニュートリノ振動モードを発見した。これはニュートリノ研究分野における画期的な成果であり、国際的にも大きな反響を呼んだ。

 高エネルギー物理研究所は、広東省の協力を得て、世界で4番目となる「核破砕中性子源(中国散裂中子源、China Spallation Neutron Source、CSNS)」の建設を2011年に開始し、2018年に完成させて運用を開始した。

 高エネルギー物理研究所は、宇宙線観測を通じてダークマターなどの研究を行うため、四川省稲城県海子山に高高度宇宙線観測所「高海拔宇宙线观测站(Large High Altitude Air Shower Observatory:LHAASO)」を設置することとし、2018年に建設を開始し、2023年に完成させた。

2017 年 12 月 15 日、国家発展改革委員会は、高エネルギー放射光源 (HEPS) 国家主要科学インフラ プロジェクトの提案を承認しました。

    2018年12月28日、国家発展改革委員会は、国家の主要な科学インフラである高エネルギー放射光源(HEPS)の実現可能性調査報告書を承認した。

    2019年6月29日、懐柔学研都市で高エネルギー放射光光源の建設が開始された。

4. 組織の概要

(1)研究分野

 高エネルギー物理研究所は、中国の素粒子物理、天体物理、粒子加速器、放射光などの研究開発を先駆的に推進している。

(2)研究組織

 高エネルギー物理研究所の組織は、研究部門、管理部門、技術サポート部門の3部門制を取っている。研究部門には、次の7組織がある。
・実験物理センター(实验物理中心、Experimental Physics Division)
・加速器センター(加速器中心、Accelerator Division)
・粒子天体物理センター(粒子天体物理中心、Particle Astrophysics Division)
・理論物理研究室(理论物理研究室、Theoretical Physics Division)
・学際研究センター(多学科研究中心、Multi-disciplinary Research Division)
・計算センター(计算中心、Computing Center)
・原子力技術応用研究センター(核技术应用研究中心、Division of Nuclear Technology and Applications)

(3)研究所の幹部

 高エネルギー研究所の幹部は、所長、中国共産党委員会(党委)書記、副所長、副書記である。大学などでは、党委書記の方が学長より強い権限を有しているが、中国科学院の付属研究所の場合には所長が最高責任者の場合が多い。

①王貽芳・所長

 高エネルギー物理研究所の現所長である王貽芳(王贻芳、Yifang Wang)は、中国の高エネルギー物理を牽引する科学者で、広東省にある大亜湾ニュートリノ実験などを主導している。ブレークスルー賞や日経アジア賞などの国際賞も受賞している。より詳しくは、こちらを参照されたい。

②魏龍・党委書記兼副所長

 魏龍(魏龙)・党委書記は、高エネルギー物理研究所のナンバーツゥーである。魏龍は、1965年に山東省済南で生まれ、1985年に蘭州大学物理学科で学士の学位を取得、1987年に同大学で修士の学位を取得した。その後1988年に日本の筑波大学に留学し、同大学から工学修士号と博士号を取得した。1994年に帰国し、高エネルギー物理研究所に入所した。専門分野は、表面および界面の電子構造と微視的欠陥の研究である。

5. 研究所の規模

(1)職員数

 2021年現在の職員総数は1,505名で、中国科学院の中では第6位に位置する(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。1,505名の内訳は、研究職員が1,347名(89%)、技術職員(中国語で工員)が58名(4%)、事務職員が100名(7%)である。

(2)予算

 2021年予算額は14億3,827万元で、中国科学院の中では第12位に位置する(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。14億3,827万元の内訳は、政府の交付金が11億6,632万元(81%)、NSFCや研究プロジェクト資金が1億6,453万元(11%)、技術収入が4,795万元(3%)、その他が5,947万元(4%)となっている。

(3)研究生

2021年現在の在所研究生総数は702名で、中国科学院の中では第22位に位置する(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。702名の内訳は、修士課程の学生が304名、博士課程の学生が398名である。

6. 研究開発力

(1)国家級実験室など

 中国政府は、国内にある大学や研究所を世界レベルの研究室とする施策を講じている。この施策の中で最も重要と考えられる国家研究センター、国家実験室、国家重点実験室であり、中国科学院の多くの研究機関に設置されている(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。高エネルギー物理研究所は次の国家重点実験室を有している。

粒子検出・電子国家重点実験室(核探测与核电子学国家重点实验室、State Key Laboratory of Particle Detection and Electronics:高エネルギー物理研究所と中国科学技術大学との共同運用による国家重点実験室である。2008年に国の認可を受け、2011年から研究を開始した。極限条件下での放射線検出とエレクトロニクスの原理と方法に新たなブレークスルーを達成し、新世代の放射線検出とエレクトロニクスの主要なコア技術を獲得することを目標としている。2021年現在で、正規研究員が175名、客員研究員が71名、研究生としてポスドク15名、博士学生43名、修士学生66名である。

(2)大型研究開発施設

 中国科学院は、同院や他の研究機関の研究者の利用に供するため大型の研究開発施設を有している。大型共用施設は、専用研究施設、共用実験施設、公益科学技術施設の3つのカテゴリーがある(中国科学院内の設置状況詳細はこちら参照)。

 高エネルギー物理研究所は、この大型共用施設・共用実験施設として「北京電子・陽電子衝突型加速器(BEPC、BEPCⅡ)」、「大亜湾原子炉ニュートリノ実験装置」、「高高度宇宙線観測所(LHAASO)」、「中国核破砕中性子源(CSNS)」、「高エネルギー放射光源(HEPS)」の5つの設備を設置・運営している。

①北京電子・陽電子衝突型加速器(BEPC、BEPCⅡ)

 北京電子・陽電子衝突型加速器(北京正负电子对撞机、Beijing Electron Positron Collider、BEPC)は、高エネルギー物理学実験のための重要な加速器である。設置場所は、北京市石景山区の高エネルギー物理研究所の本部内である。
 沿革でも述べたように、BEPCは1988年10 月に建設が完了し運用を開始した。
 その後、2004年に大改修プロジェクトが開始され、2009年7月にBEPCIIの設置が完了した。BEPCIIは世界有数の衝突型加速器で、放射光光源としても利用でき、「一台二役」を実現している。

高エネルギー物理研究所BEPCの写真
北京電子陽電子衝突型加速器 (BEPCⅡ)  中国科学院HPより引用

②大亜湾原子炉ニュートリノ実験装置

 「大亜湾原子炉ニュートリノ実験(大亚湾反应堆中微子实验、Daya Bay Reactor Neutrino Experiment)」装置は、大亜湾原子力発電所と嶺澳原子力発電所の原子炉で生成される反ニュートリノを用いて、ニュートリノ振動を研究し、混合角θ13を測定することを目的としている。2007年に建設を開始し、2012年に運用を開始した。
 この実験は、中国、米国、ロシアなどが参加する国際プロジェクトであり、米国はエネルギー省高エネルギー物理学局が資金提供している。
 国際協力グループは2012年3月、この実験装置を用いて新しいニュートリノ振動モードを発見した。これはニュートリノ研究分野における画期的な成果であり、国際的にも大きな反響を呼んだ。

大亜湾ニュートリノ実験装置の写真
大亜湾ニュートリノ実験装置 中国科学院HPより引用

③高高度宇宙線観測所(LHAASO)

  「高高度宇宙線観測所(高海拔宇宙线观测站、Large High Altitude Air Shower Observatory:LHAASO)」)は、中国大陸西部の四川省稲城県の平均高度4,410メートルのところに設置されている。
 高エネルギー放射線源粒子と宇宙線の加速・伝播メカニズムを研究している。
 装置としては、5,216台のシンチレーション検出器、地下2.5メートルに埋められた1,188台の水チェレンコフミュオン検出器、3,120台の検出ユニットと18台の大気チェレンコフ望遠鏡による検出器アレイで構成される地下水チェレンコフ検出器がある。

高高度宇宙線観測所の写真
高高度宇宙線観測所  中国科学院HPより引用

④中国核破砕中性子源(CSNS)

 「中国核破砕中性子源(中国散裂中子源、China Spallation Neutron Source:CSNS)」は、大陸南部の広東省東莞市に設置されている。
 世界で4番目で、中国初となる核破砕中性子源である。材料科学技術、生命科学、化学・化学工学、物理学、資源・環境、新技術等の分野における基礎研究と技術開発に用いられる。
 線形加速器、高速サイクルシンクロトロン、3 台の中性子散乱分光計などにより構成されており、2018年8月に建設を完了し、運用を開始している。

中国核破砕中性子源の写真
中国核破砕中性子源  中国科学院HPより引用

⑤高エネルギー放射光源(HEPS)

 高エネルギー放射光源(高能同步辐射光源、High Energy Photon Source、HEPS)は、中国科学院と北京市が共同で、北京市郊外の懐柔区に建設している放射光源である。2021年に建設を開始し、現在建設中であり、2025年に完成する予定である。
 この放射光源は、世界で最も放射効率のよい、また輝度が最も高い、第4世代放射光光源となる予定である。資源、エネルギー、環境の問題を解決し、人口や健康など多くの分野が直面する課題に知見を与えることが出来るようになる。

高エネルギー放射光源の写真
高エネルギー放射光源 中国科学院HPより引用


(3)NSFC面上項目獲得額

 国家自然科学基金委員会(NSFC)の一般プログラム(面上項目、general program)は、日本の科研費に近く主として基礎研究分野に配分されており、中国の研究者にとって大変有用である。高エネルギー物理研究所のNSFCの獲得資金額は、2021年1,831万元(件数は29件)であり、中国科学院の中では第14位に位置する(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。

7. 研究成果

(1)Nature Index

 科学雑誌のNatureは、自然科学系のトップランクの学術誌に掲載された論文を研究機関別にカウントしたNature Indexを公表している。Nature Index2022によれば、高エネルギー物理研究所は中国科学院内第4位であり、論文数で85.31となっている(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。
 このNature Index に関し、中国の主要大学のそれと比べると高くない。中国の主要大学のNature Indexによるランキングは、こちらを参照されたい。

(2)SCI論文

 上記のNature Indexはトップレベルの論文での比較であり、より多くの論文での比較も重要である。しかし、中国科学院は各研究所ごとの論文数比較を出来るだけ避け、中国科学院全体での比較を推奨している。このため、SCI論文などで研究所ごとの比較一覧はない。

 ただ、研究所によっては自らがどの程度SCI論文を作成しているかを発表している。高エネルギー物理研究所もその一つであり、2021年に合計1,424件のSCI論文を発表している。

 なお、年間で1,424件という数字を中国の主要大学のそれと比較すると、清華大学、北京大学、上海交通大学などが、年間でSCI論文を約10,000件前後発表している(主要大学のSCI論文数比較の詳細はこちら参照)。したがって中国の主要大学と比較すると、それほど大きなものではない。

(3)特許出願数

 高エネルギー物理研究所の2021年特許出願数は120件で、中国科学院内の20位までを示した比較(こちら参照)で、ランキング外である。基礎科学を中心とする機関であり、特許取得になじまないのであろう。

(4)成果の移転収入

 高エネルギー物理研究所の2021年研究成果移転収入は、中国科学院内の10位までを示した比較(こちら参照)で、ランキング外である。

(5)両院院士数

 中国の研究者にとって、中国科学院の院士あるいは中国工程院の院士となることは生涯をかけての夢となっている。高エネルギー物理研究所に所属する両院の院士は、2024年2月時点で10名であり、中国科学院内で第9位である(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。

○中国科学院院士(8名):唐孝威、李惕碚、张宗烨、陈和生、柴之芳、王贻芳(現所長)、赵宇亮(後述)、曹臻。
○中国工程院院士(2名):叶铭汉、陈森玉。

8. 特記事項

(1)張文裕

 張文裕(张文裕)は、高エネルギー物理研究所設立の端緒となった加速器建設を周恩来に提案し、その建設運営のため同研究所が設立されると初代の所長を務めた。詳細はこちらを参照されたい。

(2)何沢慧

 何沢慧(何泽慧)は、ドイツやパリで研究を行った後、夫・銭三強と共に帰国し、高エネルギー物理研究所などので宇宙線研究を行った女性科学者である。詳細はこちらを参照されたい。

(3)彭桓武

 彭桓武は、両弾一星プロジェクトに貢献した科学者で、高エネルギー物理研究所が発足したとき、副所長を務めた。詳細はこちらを参照されたい。

(4)謝家麟(谢家麟)

 高エネルギー研究所において、加速器研究で成果を挙げた科学者に謝家麟(谢家麟)がいる。

 謝家麟は、1920年に吉林省浜江県(現在の黒竜江省ハルビン市)に生まれた。謝家麟は日中戦争中の1943年に、四川省に疎開していた燕京大学の物理学科を卒業して学士となった。卒業後は、桂林で無線機器の工場に勤務した

 戦後の1947年に、米国のカリフォルニア工科大学(カルテック)に留学し、1948年同大学より修士の学位を得た。謝家麟はスタンフォード大学に移り、1951年にスタンフォード大学て博士の学位を取得し、同校の職員となった。その後、1952年にイリノイ州シカゴの医療センターに移り、当時世界最先端となるがん治療用の粒子加速器の建設を指揮した。

 謝家麟は1955年に帰国し、中国科学院原子能研究所研究員となった。1973年に高エネルギー物理研究所が設立されると研究員となり、同研究所の主要なプロジェクト「BEPC(Beijing Electron Positron Collider:北京電子・陽電子衝突型加速器)」の設計責任者となった。

 謝家麟は、2011年度の国家最高科学技術賞(日本の文化勲章に相当)を受賞している。2016年北京市で病気のため死去した。享年は95歳であった。

謝家麟(右)の国家最高科学技術賞受賞 南方日報より引用

参考資料

・中国科学院高エネルギー物理研究所HP https://ihep.cas.cn/
・中国科学院HP https://www.cas.cn/ 
・中国科学院統計年鑑2022 中国科学院発展企画局編
・中国科学院年鑑2022 中国科学院科学伝播局編