概要

 厦門大学(厦门大学、Xiamen University)は、中国南部・福建省厦門市にある総合大学であり、シンガポールで財を成した福建省出身の華僑である陳嘉庚が設立した。

厦門大学の写真
厦門大学

1. 名称と所管

(1)名称

・中国語表記 厦门大学   略称 厦大
・日本語表記 厦門大学  
・英語表記 Xiamen University 略称 XMU
 現在の標準中国語では、厦門はシャーメンと発音され、これが英語表記のXiamenとなっている。一方、福建省南部の方言である閩南語では、厦門はエームイと発言され、これがかつて国際的に流布したため、日本でも厦門はエームイのなまったアモイとして定着した。

(2)所管

 国務院教育部の直轄大学である。

2. 本部の所在地

 厦門大学の本部は、福建省厦門市思明南路422号にあり、思明キャンパスと呼ばれている。

 厦門市は、中国福建省南東部の沿海にある港湾商工業都市である。厦門島、鼓浪嶼(ころうしよ)などからなる。宋代より外国貿易港として繁栄し、鄭成功がこの地を拠点として明の再興を目指した。アヘン戦争終了後の南京条約で、1842年に五港の一つとして開港された。
 厦門港は福州港に並ぶ省の重要港湾で、省内の内陸部より農産物、工業製品を集め、さらに各地より陸揚げされる生産物もあり、輸出入の中心地となっている。

 厦門港は華僑の出入りの門戸で、その多くは東南アジアに移住していった。この結果、華僑資本による投資が厦門でおこなわれ、教育機関などの公共事業が運営された。

 台湾が実効支配していて、過去に中国軍と戦火を交えたことのある金門島は、厦門市のすぐ近くにある。

厦門大学のある厦門市風景
厦門市の風景  百度HPより引用

3. 沿革

(1)私立厦門大学

 華僑として成功した陳嘉庚は、1921年に厦門で厦門大学を設立した。設立当初の学部は、文、理、法、商、教育の5つであった。陳嘉庚については、下記7.の特記事項を参照されたい。

 1929年の世界的な不況のあおりを受けて、陳嘉庚の事業は大きな損失をこうむり、厦門大学を運営できなくなり、陳嘉庚は中央政府に同大学を寄贈した。 

(2)日中戦争を避けて疎開

 1937年7月、盧溝橋事件をきっかけとして日中戦争が勃発し、同年9月には厦門は日本軍に占領された。このため厦門大学は、当初厦門市のコロンス島に、その後厦門市から約100キロメートル北西に位置する長汀に疎開し、そこで教学を継続した。 

(3)院系調整で文理大学に

 第二次世界大戦で日本が敗北し、日本軍が中国大陸から撤退すると、厦門大学は厦門市に戻った。

 1949年に中国共産党が厦門市に進駐し、厦門大学を接収した。

 1952年に、中国全土で大学の学部調整政策である院系調整が実施された。厦門大学の工学系の学科は、北京航空学院(現在の北京航空航天大学)、浙江大学、南京工学院(現在の東南大学)、同済大学などに、農学部は福建農学院(現在の福建農林大学)に、政治・法律は華東政法学院(現在の華東政法大学)に編入され、文と理学を中心とした大学になった。

(4)総合大学へ

 1962年に、厦門大学は全国重点大学となった。

 文化大革命で教育や研究面で大きなダメージを受けたが、終了後の1978年に再度全国重点大学に指定された。
 厦門大学はこれ以降、総合大学化への道を歩むことになり、1982年に経済学部を、1983年に芸術教育学部、政法学院を設置した。
 厦門大学は、厦門市政府の協力を得て、1994年に工学部を、1996年に医学部を設置した。

4. 規模

(1)規模のデータ

 厦門大学の規模に関して、具体的な数値で見たのが下表である。学部学生数を別として、それ以外の規模では中国国内で20位前後にある大学である。

 厦門大学中国第1位の大学 
学部学生数20,651名(49位)鄭州大学 47,000名詳細データ
大学院生数21,449名(19位)中国科学院大学 57,375名詳細データ
専任教師数2,777名(25位)吉林大学 6,506名詳細データ
総予算107.70億元(18位)清華大学 362.11億元詳細データ
留学生数1,208名(29位)北京大学 6,857名詳細データ

(2)キャンパス

 厦門大学は、本部のある思明キャンパスに加え、翔安(厦門市翔安区)、漳州(福建省漳州市)の2つのキャンパスを有している。

(3)学部

 厦門大学のHPによると、同大学は人文・芸術学部、社会科学学部、自然科学学部、工学技術学部、医学・生命科学学部、地球化学・技術学部を有しているとある。
 政府の教育部が定めている12の大分類(日本の大学の学部に相当)でみると、哲学、経済学、法学、教育学、文学、歴史学、理学、工学、医学、管理学、芸術を有する総合大学である。農学部はない。

(4)附属医院

 厦門大学のHPによれば、11の附属医院を有し、うち一つが直属医院である。

厦門大学附属翔安医院(直属)
厦門大学附属中山医院
厦門大学附属厦門眼科中心
厦門大学附属東南医院
厦門大学附属東方医院
厦門大学附属第一医院
厦門大学附属成功医院
厦門大学附属福州第二医院
厦門大学附属心血管病医院
厦門大学附属婦女児童医院
厦門大学附属竜岩中医院

5. 研究開発力

 厦門大学は、中国の主要大学において20位前後の研究開発力を有すると考えられる。

(1)研究開発力のデータ表

 大学の研究開発力を、データとして示したのが下表である。
 このうち、SCI論文数とはラリベートアナリティックス社のデータによる論文数、Nature Indexとは世界トップクラスの科学誌・学会誌掲載の論文数による指標、NSFCの面上項目予算の獲得額である。国家重点実験室は下記(2)、双一流学科建設数は下記(3)を参照されたい。

 厦門大学中国第1位の大学 
SCI論文数33位中国科学院大学詳細データ
Nature Index18位中国科学技術大学詳細データ
国家重点実験室数4か所(19位)清華大学 13か所詳細データ
双一流学科建設数6学科(19位)北京大学詳細データ
NSFC面上項目予算17位上海交通大学詳細データ

(2)国家重点実験室

 厦門大学にある4か所の国家重点実験室は、次の通りである。

・固体表面物理化学国家重点実験室
・近海海洋環境科学国家重点実験室
・細胞刺激反応国家重点実験室
・分子ワクチン学・分子診断学国家重点実験室

(3)双一流学科建設

 中国は2017年に、国内の大学とその学科を21世紀半ばまでに世界一流とすることを目標とする政策(双一流政策)を開始した。2022年に改訂された双一流学科建設において、厦門大学は全体で以下の6学科が選定されている。理学系が強い。

 ○人文社会科学系(1) 教育学
 ○理学系(5) 化学、海洋科学、生物学、生態学、統計学

(4)NSFC面上項目予算獲得

 日本の科研費に近い予算として、国家自然科学基金委員会(NSFC)が所管する面上項目予算がある。この予算をどの程度獲得するかで、当該大学の研究能力を判定しうる。2019年で厦門大学は中国全体で17位である。

6. 国内および国際的な評価

 中国の国内と国際的な評価を示したのが下表である。国内では国務院教育部と中国校友会、国際では英国のQS(Quacquarelli Symonds Limited)とTHE(Times Higher Education)のランキングを示した。また、卒業生の中での傑出科学技術人材数の校友会ランキングも、併せて示した。
 これで見ると厦門大学は、主要大学の中で20位前後にある。

 厦門大学中国第1位の大学 
軟科ランキング24位清華大学詳細データ
校友会ランキング20位北京大学詳細データ
QSランキング世界362位  中国20位北京大学詳細データ
THEランキング世界301-350位 中国25位清華大学詳細データ
校友会傑出人材26位北京大学詳細データ

 7. 特記事項

(1)創設者・陳嘉庚(1874年~1961年)

 厦門大学を創設した陳嘉庚(陈嘉庚、Tan Kah Kee)は、1974年に現在の福建省厦門市集美区に生まれた。16歳でシンガポールに渡り、ゴム農園の経営やゴム製品の生産を行う実業家として成功を収めた。

 陳嘉庚は孫文とも交流があり、1911年に辛亥革命が起きると福建革命軍政府を支援して、シンガポールにおける福建省出身華人の代表的存在となった。その後、故郷の福建省で教育事業を支援し、小学校、師範学校、水産学校などの創立に尽力し、1921年に厦門大学を設立した。

厦門大学を創設した陳嘉庚の写真
陳嘉庚 百度HPより引用

(2)陳嘉庚科学賞

 陳嘉庚科学賞は、中国国内の優れた科学者を顕彰する科学賞で、数理科学(数学、物理学、力学、天文学を含む)、化学科学、生命科学(生物学、医学、農学を含む)、地球科学、情報技術科学、技術科学の6部門がある。西暦の偶数年に授与され、受賞者には、賞金100万元とメダルが授与される。

陳嘉庚科学賞メダルの写真
陳嘉庚科学賞メダル 百度HPより引用

 歴史的には、陳嘉庚の遺族と中国科学院が設置した陳嘉庚基金会が、1988年から授与を開始した陳嘉庚賞が前身である。1998年に発生したアジア通貨危機の影響により同基金会が経営難に陥り、1999年で同賞の授与が中断された。
 その後、この陳嘉庚賞の授与を再開する動きが出て、中国政府の了承のもと中国科学院と中国銀行が共同で3,000万元を出資して、2003年に陳嘉庚科学賞基金会が設置された。そして、新たな名称となった陳嘉庚科学賞の授賞が開始されたのは2006年からである。2008年には中国銀行が基金会に対して、1,000万元を追加出資している。

 この陳嘉庚科学賞を受賞した人には高いレベルにある科学者が多く、当HPで取り上げた同賞受賞科学者は次のとおりである。青の科学者名をクリックすると、当該の記事が開く。
 王小雲(2006年、情報技術科学賞)、楊学明(2010年、化学科学賞)、薛其坤 (2012年、数理科学賞)、包信和(2018年、化学科学賞)、李家洋(2018年、生命科学賞)、馮小明(2020年、化学科学賞)、施一公(2020年、生命科学賞)、莫毅明(2022年、数理科学賞)、邵峰(2022年、生命科学賞)、方忠(2024年、数理科学賞)、趙東元 (2024年、化学科学賞)。

 2012年には、40歳未満の若手研究者を対象とした陳嘉庚青年科学賞の授与も開始されている。同賞は上記陳嘉庚科学賞と同様に、数理科学(数学、物理学、力学、天文学を含む)、化学科学、生命科学(生物学、医学、農学を含む)、地球科学、情報技術科学、技術科学の6部門があり、西暦の偶数年に授与される。受賞者には、賞金20万元が授与される。 

(3)集美学村

 集美学村は、厦門市集美半島の集美村に位置し、1913年に陳嘉庚によって設立された。

 学村の総建築面積は3,000エーカーを超え、教師と生徒は10万人を超え、就学前教育、小学校、中学校、高校、大学の学部・大学院が設置されている。

 集美学村の建築物は、福建省南部の華僑の故郷の建築スタイルと西洋のスタイルを融合させたものである。休日には、学村内にある池を用いてドラゴンボートレースが開催され、厦門の観光スポットとして人気を博している。

参考資料

・厦門大学HP https://www.xmu.edu.cn/
・陳嘉庚科学賞基金会 https://tsaf.cas.cn/