はじめに

 王小雲(王小云、1966年~)山東大学教授は、暗号分野の研究で成果を挙げ、2019年に未来科学大賞数学・計算機科学賞を受賞している。

王小雲の写真
王小雲 百度HPより引用

生い立ち

 王小雲(王小云、Xiaoyun Wang)は、1966年に山東省諸城に生まれた。父は数学の先生であった。

 王小雲が生まれた年に文化大革命が始まり、一家の生活は困窮したため、何とか両親の助けになりたいと考えたが、小さかったこともあり助ける方法が分からなかった。
 ある日、いとこが事務員採用の面接を受けるため近くの町に出かけることになり、王小雲もいとこに同行した。2人で町に到着し、いとこが面接を受けていたのを、王小雲は隣の部屋で聞いていた。そして、面接官がいとこが小学校しか出ていないことを理由に採用を拒否し、いとこがなすすべもなく涙を流して部屋から出てきたのを見て、王小雲は知識を獲得し学歴を高めることの重要性を痛感した。そのことを両親に話すと、両親は学歴を高めたいという王小雲の決意に同意し、全力で応援すると言ってくれた。

 それ以来学校において、他の生徒は休み時間などに遊んだりおしゃべりしたりしていたが、王小雲は机に残って静かに自習していた。幸にも王小雲が10歳の頃に、教育がほとんど実施されなかった文化大革命が終了し、彼女は大学入学を目指して勉学に励むことができた。

山東大学数学科に入学

 王小雲は、1983年に山東大学数学科に優秀な成績で入学した。自らも数学を教えていた父は、娘の王小雲が数学科に入ったことを大変喜んだ。

 王小雲は入学以来、数学科のクラスで大変優秀であった。彼女の評判を聞いて、山東大学の副学長で著名な数学者であった潘承洞教授は王小雲に直接会って、数学の課題を書いた紙を手渡した。王小雲は翌日に、解答を記した紙を潘副学長に提出した。潘副学長は、想像より短期間での解答に驚くと共に、その解答内容にも才能を感じ、自分が直接彼女を指導することとした。
 ちなみに、潘承洞は1934年に江蘇省蘇州に生まれた数学者で、1956年に北京大学を卒業して1961年から山東大学の教官となり、1979年から数学科主任兼副学長を務めていた。王小雲の直接指導を始めて3年目の1986年に、潘承洞は山東大学の学長となっている。

王小雲を指導した潘承洞・山東大学元学長 
百度HPより引用

 師である潘承洞が、王小雲に専攻分野として勧めたのが暗号分野である。当時世界は、情報ネットワーク時代に入りつつあり、また中国では国防上の観点からも暗号分野の研究が重要になってくる、と考え勧めたのである。王小雲はこれに応え、以降暗号分野での研究に専念していった。

 王小雲は、1987年に山東大学数学科を卒業して学士となり、引き続き同大学の大学院に進学して1990年に修士の学位を、1993年に博士の学位を取得した。王小雲は、博士の学位を取得した後も山東大学の教官となり、暗号分野の研究を続行した。王小雲は、1995年に助教授、2001年に教授に昇進した。

暗号学の分野で大きな成果

 王小雲が暗号学で取り組んだのは、暗号学的ハッシュ関数の脆弱性である。ハッシュ関数とは、データのサイズにかかわらず決まった長さの文字列に変換する関数のことであり、データの受送信に用いられる。そして暗号学的ハッシュ関数とは、ハッシュ関数の中で暗号などの情報セキュリティの用途に適した数理的な性質を持つものである。
 当時世界では、MD5(message digest algorithm 5)という暗号学的ハッシュ関数が米国を中心に用いられていた。王小雲は、このMD5に注目し、研究した結果、MD5の脆弱性を発見した。

 2004年の夏に、IACR(International Association for Cryptologic Research、国際暗号学会)が主催する国際会議CRYPTO(International Cryptology Conference)が、米国カリフォルニア州サンタバーバラで開かれた。
 王小雲はこの国際会議に参加し、MD5の脆弱性について発表を行い、大きな注目を浴びた。

 続いて王小雲が取り組んだのが、MD5とは別の暗号学的なハッシュ関数であるSHA-1(Secure Hash Algorithm 1)の脆弱性である。王小雲は、台湾出身の著名な数学者アンドリュー・チーチー・ヤオ(姚期智)清華大学高等研究センター教授らと共に、このSHA-1の脆弱性を発見し、2005年夏に開催されたCRYPTで公表し、再び国際的な注目を集めた。

未来科学大賞を受賞

 王小雲は2005年7月に、アンドリュー・チーチー・ヤオ(姚期智)のいる清華大学高等研究センターの教授を兼務することになった。

 王小雲は2006年に、陳嘉庚科学賞(陈嘉庚科学奖)の情報技術科学賞(信息技术科学奖)を受賞した。
 陳嘉庚科学賞は、中国国内の優れた科学者を顕彰するため、中国科学院と中国銀行が共同で設置した基金が授与する科学賞で、数理、化学、地球科学、情報技術、技術科学の6部門がある。基金の設置は2003年で、授賞が開始されたのは2006年からで、王小雲は初めての受賞者の一人となった。

 王小雲は2017年に、中国科学院の院士に当選した。

 さらに王小雲は2019年に、未来科学大賞数学・計算機科学賞を受賞した。未来科学大賞は、香港を拠点とする未来科学賞財団が中国における優れた業績を表彰することを目的として2016年に創設した賞であり、生命科学、物質科学、数学・計算機科学の3分野がある。 

王小雲の未来科学大賞受賞写真
未来科学大賞を受賞した王小雲  百度HPより引用

 王小雲は現在も、山東大学や清華大学で暗号分野の研究を進めている。

参考資料

・山東大学HP 王小云 教授 https://infosec.sdu.edu.cn/info/1003/1068.htm
・清華大学HP 中国科学院院士王小云 https://www.tsinghua.edu.cn/info/1167/93827.htm
・百度HP 中国密码女神王小云:连破两项美国顶级密码,后获奖励711万
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1784334228363535049&wfr=spider&for=pc
・未来科学大賞HP 2019 数学与计算机科学奖 获奖人 王小云 Xiaoyun Wang  https://www.futureprize.org/cn/laureates/detail/33.html