科学技術部

 国務院において科学技術全般を担当しているのが、科学技術部(科学技术部、Ministry of Science and Technology)である。

 新中国建国以来、優れた科学者を多数擁する中国科学院が科学技術の基本的な方向を示してきたが、1954年の国務院改革により中国科学院は政策担当機関ではなく研究実施機関と位置づけられた。1956年3月に国務院は科学技術政策の担当機関の不在を埋めるため、陳毅副首相を主任とする科学計画委員会(科学规划委員会)と国家技術委員会を設置し、前者に科学技術分野で最初の中長期計画である「科学技術発展遠景計画綱要(1956年~1967年)」の策定を担当させた。1958年に国務院は、科学計画委員会と国家技術委員会を統合して国家科学技術委員会を設置し、聂荣臻(じょうえいしん)副首相を主任に兼務させた。これが現在の科学技術部の前身である。
 文化大革命勃発後、国家科学技術委員会の業務はほとんど停止し、1970年には中国科学院に吸収された。文革後の1977年9月に、中国科学院から国家科学技術委員会が再び分離され、方毅副首相兼中国科学院副院長(後に院長に昇格)が主任を兼務した。同委員会は1998年に、現在の科学技術部に名称が変更された。

 科学技術部の最大の使命は、中国全体の科学技術振興を計画的に実施するための方向性を策定することである。このため、中国共産党や国の社会経済全般の計画立案に当たる国家発展・改革委員会と連携を取りつつ、科学技術やイノベーションのための五か年計画や長期的な計画の企画立案に当たっている。2021年には、第14次五か年計画が公表された。
 科学技術部のもう一つの重要な使命は、五か年計画などで設定された政策に基づき科学技術関連のプロジェクトの資金の配分を行うことである。文化大革命が終了した後、鄧小平最高指導者の決断により、科学技術も一律的な資金配分から意欲のある優秀な研究者に傾斜配分することとし、そのための様々な競争的な資金プロジェクトがスタートしたが、科学技術部はこの中で比較的大規模で応用研究・開発的なプロジェクトの資金配分を自ら行ってきた。一方、基礎研究を助成する機関として下記の「国家自然科学基金委員会」が設置されていたが、2018年に国務院の機構改革の一環として科学技術部の外局となった。このため現在は、科学技術部は研究開発資金配分の中心的な機関となっている。
 科学技術部は、このように政策の企画・立案と研究資金配分が中心であり、傘下にシンクタンク的な機関を除いて研究開発を実施する部門や大学などは有していない。

 なお、2023年現在、共産党中央の指示により、科学技術部の組織・権限の見直しが行われている。

・科学技術部HP  http://www.most.gov.cn/

国家自然科学基金委員会

 中国共産党中央は、1985年3月に発出した「科学技術体制の改革に関する決定」において、「基礎研究および一部の応用研究事業に対し、科学基金制を徐々に試行する」との方針を記載した。この決定を受けて1986年2月に、国務院は中国科学院と同格となる直属事業単位として、国家自然科学基金委員会を設立した。米国の国立科学財団(NSF:National Science Foundation)をモデルとして設立されたこともあり、同委員会は「NSFC:National Natural Science Foundation of China」と略称されている。

 国家自然科学基金委員会は、国の科学技術発展の方針・政策に基づき基礎研究および一部の応用研究を国の資金で助成する組織である。その予算総額は、2005年は26.95億元(約364億円)から、2018年の295億元(約5千億円)と、急激に増加している。主な業務は次の通りである。
・基礎研究と科学技術人材育成の助成計画の策定と実施、プロジェクト申請の受理と審査、助成プロジェクトの管理、適切な科学研究資源配置の促進、イ ノベーションの環境整備
・国家発展基礎研究の政策方針と計画の策定、国家の科学技術発展問題のコンサルティング
・外国の科学技術管理部門、資金助成機関および学術組織との国際協力
・国内における他の科学基金のサポート。

  国家自然科学基金委員会は、2018年の競争的資金改革の一環で科学技術部の傘下の組織として再編された。ただし、現在進められている科学技術部の組織・権限の見直しにより、国家自然科学基金委員会も体制などが変化する可能性がある。

(参考資料)
・国家自然科学基金委員会HP  http://www.nsfc.gov.cn/

(この項目 了)