Shenzhen Institute of Advanced Technology, CAS

はじめに

・深圳先進技術研究院は、広東省深圳市にある中国科学院の附属研究機関である。
・深圳市人民政府及び香港中文大学の協力を得て設立された、新しいタイプの附属研究機関である。
・大湾区の発展に貢献することを目的に、技術開発や産業振興を行っている。

深圳先進技術研究院の外観写真
深圳先進技術研究院  百度HPより引用

1. 名称

○中国語表記:深圳先进技术研究院  略称 深圳先进院
○日本語表記:深圳先進技術研究院
○英語表記:Shenzhen Institutes of Advanced Technology  略称 SIAT

2. 所在地

 深圳先進技術研究院本部の所在地は、深圳市南山区西丽深圳大学城学苑大道1068号である。

 深圳市は、中国広東省の南東部に位置する。深圳市の南に香港、北に東莞市が隣接し、海を隔てて広州市、中山市、珠海市、マカオが位置する。

 1980年に、時の最高指導者・鄧小平の改革開放政策の一環として、深圳、珠海、厦門、汕東の4地区を経済特区に指定したことにより、深圳市の発展が始まった。さらに1985年には、中国初のハイテク産業開発区が、中国科学院と深圳市により深圳市内に設けられた。

国家ハイテク産業開発区
国家ハイテク産業開発区の一つ 深圳市 百度HPより引用

 現在深圳の人口は約1,800万人、中国のシリコンバレーと呼ばれ技術開発が盛んな都市である。経済的にも、北京市、上海市、広州市と並び、中国で最も豊かな都市となっている。

 特記事項で詳述するが、深圳市を含むこの地域は「粤港澳大湾区(略して大湾区)」と呼ばれ、中国政府が国を挙げて経済発展を支援している。これにより、深圳市のさらなる発展が期待されている。 

3. 沿革

 深圳先進技術研究院は2006年に、中国科学院、深圳市人民政府、香港中文大学の三者による協力により設置された研究機関である。

 主管は中国科学院であるが、研究所の基本方針は中国科学院、深圳市人民政府、香港中文大学の代表などにより構成される理事会で決定される。

 香港中文大学(The Chinese University of Hong Kong)は、香港特別行政区の新界に位置する沙田区に本部がある公立大学である。第二次世界大戦後の1963年に設置された。香港の有名大学である香港大学が英語を主体として授業を行うのに対し、香港中文大学は授業は中国語と英語で行われる。中文は、中国語の意味のみならず、中華文化全体を意味している。
 学生数は約2万人であり、文学院、工商管理学院、教育学院、工学院、法学院、医学院、理学院、社会科学院の8学院(学部に相当)を有している。

香港中文大学の写真
香港中文大学 百度HPより引用

4. 組織の概要

(1)研究分野

 広東港澳大湾区産業と連携する新型科学研究機構の建設に力を入れ、広東港澳大湾区の製造業、健康産業、現代サービス業の自主革新能力を向上させ、自主知的財産権の新規産業の設立を推進し、率先して国際一流の科学研究機構を建設する。

 「第十四次五カ年計画」期間中に医学映像と科学機器、定量合成生物学、集積回路材料とカプセル、脳機械インタフェースと知能システム、脳解析と霊長類モデル、医療機器と医療装備、知能医薬と健康データ、先進材料と炭素中和などの分野で、ハイエンド医学映像、脳科学、先進電子カプセル材料、腫瘍精確治療技術、合成生物デバイスの重要技術が絶えず突破を実現し、重大な科学技術成果が絶えず現れている。 

(2)研究組織

・先端集積技術研究所
・生体医健康工学研究所
・先端情報デジタル工学研究所
・生物医工学研究所
・中国科学院広州先進技術研究所
・脳認知・脳疾患研究所
・フォワード科学技術センター
・合成生物学研究所
・先端材料科学研究所
・カーボンニュートラル技術研究所

(3)研究院の幹部

 深圳先進技術研究院の幹部は、院長、中国共産党委員会(党委)書記、副院長、副書記である。大学などでは、党委書記の方が学長より強い権限を有しているが、中国科学院の附属研究機関の場合には所長や院長が最高責任者の場合が多い。

①院長

 深圳先進技術研究院の院長のポストは、2024年6月現在空席となっている。
 2006年の設立当初から2023年8月まで院長を務めたのは、計算機科学者の樊建平である。樊建平は、1963年に内モンゴル自治区で生まれ、1984年に南開大学で学士の学位を、1990年に中国科学院計算技術研究所で博士の学位をそれぞれ取得し、引き続き大計算技術研究所で研究活動を行った。1998年に同研究所所長となり、2006年に深圳先進技術研究院院長となった。現在は首席科学者を務めている。

②呉創之・党委書記兼副院長

 呉創之(吴创之)・党委書記は、副院長も兼務しており、深圳先進技術研究院のナンバーツゥーである。呉創之は、1965年に広東省掲陽市で生まれ、南京工学院で学士と修士の学位を取得し、広州エネルギー研究所の研究員となった。その後、広州エネルギー研究所の副所長、所長を経て、2021年に中国科学院深圳先進技術研究院党委書記となった。専門分野は、バイオマス、コジェネなどのエネルギー工学である。 

5. 規模

(1)職員数

 深圳先進技術研究院の2021年現在の職員総数は1,453名で、中国科学院の中では第7位に位置する(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。1,453名の内訳は、研究職員が1,122名(77%)、技術職員(中国語で工員)が187名(13%)、事務職員が144名(10%)である。

(2)予算

 深圳先進技術研究院の2021年予算額は10億9,947万元で、中国科学院の中では第24位に位置する(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。10億9,947万元の内訳は、政府の交付金が3億0,253万元(27%)、NSFCや研究プロジェクト資金が6億3,936万元(58%)、技術収入が1億0,751万元(10%)、その他が5,007万元(5%)となっている。

(3)研究生

 深圳先進技術研究院の2021年現在の在所研究生総数は794名で、中国科学院の中では第17位に位置する(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。794名の内訳は、修士課程の学生が567名、博士課程の学生が227名である。

6. 研究開発力

(1)国家級実験室など

 中国政府は、国内にある大学や研究所を世界レベルの研究室とする施策を講じている。この施策の中で最も重要と考えられる国家研究センターと国家重点実験室であり、中国科学院の多くの研究機関に設置されている(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。

 深圳先進技術研究院は、国家重点実験室を有していない。

(2)大型研究開発施設

 中国科学院は、同院や他の研究機関の研究者の利用に供するため大型の研究開発施設を有している。大型共用施設は、専用研究施設、共用実験施設、公益科学技術施設の3つのカテゴリーがある(中国科学院内の設置状況詳細はこちら参照)。

 深圳先進技術研究院は、大型共用施設・共用実験施設を有していない。

(3)NSFC面上項目獲得額

 国家自然科学基金委員会(NSFC)の一般プログラム(面上項目、general program)は、日本の科研費に近く主として基礎研究分野に配分されており、中国の研究者にとって大変有用である。

 深圳先進技術研究院のNSFCの獲得資金額は、2021年1,292万元(件数は22件)であり、中国科学院の中では第18位に位置する(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。

7. 研究成果

(1)Nature Index

 科学雑誌のNatureは、自然科学系のトップランクの学術誌に掲載された論文を研究機関別にカウントしたNature Indexを公表している。Nature Index2022によれば、深圳先進技術研究院は中国科学院内第7位であり、論文数で52.66となっている(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。

 このNature Index に関し、中国の主要大学のそれと比べると高くない。中国の主要大学のNature Indexによるランキングは、こちらを参照されたい。

(2)SCI論文

 上記のNature Indexはトップレベルの論文での比較であり、より多くの論文での比較も重要である。しかし、中国科学院は各研究所ごとの論文数比較を出来るだけ避け、中国科学院全体での比較を推奨している。このため、SCI論文などで研究所ごとの比較一覧はない。

 ただ、研究所によっては自らがどの程度SCI論文を作成しているかを発表している。深圳先進技術研究院もその一つであり、同研究所HPによれば、2006 年から2023年までに合計1万件のSCI論文を発表した。

 なお、17年間で1万件という数字であるが、中国の主要大学である清華大学、北京大学、上海交通大学などは、10年間でSCI論文を約10万件前後発表している(主要大学のSCI論文数比較の詳細はこちら参照)。したがって中国の主要大学と比較すると、それほど大きなものではない。

(3)特許出願数

 深圳先進技術研究院の2021年の特許出願数は1,936件で、中国科学院内で第1位である(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。

(4)成果の移転収入

 深圳先進技術研究院は、2021年の研究成果移転収入ランキングに記載されておらず、ランク外である(他の研究機関の比較の詳細はこちら参照)。

(5)両院院士数

 中国の研究者にとって、中国科学院の院士あるいは中国工程院の院士となることは生涯をかけての夢となっている。2024年5月時点で深圳先進技術研究院に所属する両院の院士は、中国人研究者が2名、外国人研究者が1名である。中国科学院内でランキングではランク外である(他の研究機関との比較の詳細はこちら参照)。

○中国科学院院士・中国人(2名):郑海荣、成会明
○中国科学院院士・外国人(1名):约翰・罗杰・斯彼克曼(John Roger Speakman)

8. 特記事項

(1)粤港澳大湾区(大湾区)

 「粤港澳大湾区(Guangdong-Hong Kong-Macao Greater Bay Area、略称:大湾区)」は、2016年決定の第13次五か年計画(中华人民共和国国民经济和社会发展第十三个五年规划纲要)で提示された経済発展プロジェクト実施地域の名称であり、広東省(粤)内の珠江デルタ地域の9都市、香港(港)、マカオ(澳)を指す。広東省の9都市は、広州市、深圳市、東莞市、仏山市、
恵州市、江門市、肇慶市、清遠市、中山市、珠海市である。

大湾区を示す地図
大湾区の地図 百度HPより引用

 深圳先進技術研究院は、設立時に深圳市人民政府や香港科技大学の協力を得ており、大湾区プロジェクトを科学技術の面からバックアップする役割を担っている。

(2)優れた研究者の採用と厳しい評価

 現在、深圳先進技術研究院は多数の科学研究チームを設立しており、海外の有名大学から博士号を取得した多くの卒業生が研究チームに加わっている。同研究所の科学研究員の平均年齢は35歳未満で、ほとんどが修士号以上の学位を取得している。
 研究センターの所長のほとんどは、世界一流の大学、科学研究機関、または多国籍企業の大学教授や上級研究員を務めた経験があり、人材育成、科学研究チームの構築、科学技術分野の変革と産業化において豊富な経験を持っている。

 深圳先進技術研究院に所属する研究者を常にトップレベルに維持するため、厳しい評価システムが採用されている。数年前に、筆者である林が深圳先進技術研究院を訪問した際、同研究所の所長は次の様に述べていた。
 深圳先進技術研究院では、所属の研究者をABCの3ランクで評価し、Aは20%、Bは70%、Cは10%と枠を設定している。各年の評価でCの内の下半分の5%となった研究者は、強制的に退職してもらうことになる。毎年5%というと、単純計算で5年のうちに4分の1、10年で全研究者の半分が退職に追い込まれ、入れ替わる。 

参考資料

・中国科学院深圳先進技術研究院HP https://www.siat.ac.cn/
・中国科学院統計年鑑2022 中国科学院発展企画局編
・中国科学院年鑑2022 中国科学院科学伝播局編