はじめに

 シー・チェン(1982年~)は、計算機科学における制約充足問題に取り組み、同じく中国系のジンイ-・カイととともに、2021年にゲーデル賞とファルカーソン賞を共同受賞した。

シー・チェンの写真
シー・チェン コロンビア大学HPより引用

生まれと教育

 シー・チェン(Xi Chen、陈汐、陳汐)は1982年生まれであるが、HP上の情報では出生地の記述はない。

 チェンは名門の清華大学に入学し、2003年に物理と数学の学士号を取得した。引き続き清華大学の大学院に進み、2007年に同大学から計算機科学の博士号を取得した。大学院時代には、姚期智(アンドリュー・チーチー・ヤオ)の教えも受けている。

 なお、これまで取り上げてきた国際的に評価の高い中国系の研究者は、学部生の時は中国の大学で学んだ例が多いが、大学院となるとほとんど米国などで学んだ例が多い。チェンは、博士号の取得まで清華大学に在籍している。もちろん清華大学が名門であることも事実であるが、改革開放以来の経済的な発展を受けて、中国の大学院のレベルが格段に向上した証であろう。

ポスドク研究を経て、コロンビア大学へ

 博士号を取得したシー・チェンは2007年に、ポスドク研究者として米国に渡った。プリンストン高等研究所、プリンストン大学、南カリフォルニア大学、コロンビア大学で、それぞれ1年間ポスドク研究を行った。

 チェンは2011年に、コロンビア大学計算機学科の助教授(Assistant Professor)として採用された。2015年には、同大学の准教授(Associate Professor)に昇任し、2016年にテニュアを獲得している。

 チェンは、米国に渡った頃から中国系の数学者などと積極的に交流し、共同で論文を発表していった。例えば、既に取り上げた滕尚華(Shang-Hua Teng)と連名で、2006年から2008年にかけて数編の論文を発表している。そして、やはり中国系の数学者であるジンイ-・カイ(蔡進一、Jin-Yi Cai)とも協力を開始した。

ゲーデル賞を受賞

 シー・チェンとジンイ-・カイは、2017年に' Complexity of Counting CSP with Complex Weights’と題する論文をJ.ACM(米国計算機学会誌)に発表する。
 CSPは、Constraint satisfaction problemを略したもので、日本語では制約充足問題と訳されており、複数の制約条件を満たすオブジェクトや状態を見つけるという数学の問題を指す。CSPは特に人工知能やオペレーションズ・リサーチで研究されている。

 この共著論文が、関係者に広く認められた結果、シー・チェンとジンイ-・カイは2021年にゲーデル賞を共同で受賞した。
 ゲーデル賞 (Gödel Prize) は、理論計算機科学で優れた業績を挙げた研究者に対し贈られる賞であり、完全性定理、不完全性定理などを発表して数学基礎論や論理学で多大な功績を残したクルト・ゲーデル(Kurt Gödel、1906年~1978年)にちなむ。中国系では姚期智が1999年に、さらに滕尚華が2008年と2015年に受賞している。

 シー・チェンとジンイ-・カイは、2021年にファルカーソン賞を、同じ論文で共同で受賞した。
 ファルカーソン賞 (The Fulkerson Prize) は、離散数学の分野で優れた論文に対し、数理計画学会 (MPS) とアメリカ数学会 (AMS) が共催し、贈られる賞である。 3年に一度開催されるMPSの国際シンポジウムで最大3組までに授与される。
 中国系では滕尚華が2009年にスピールマンと共同で受賞している。また、これまでに岩田覚(東京大学教授、2003年)、藤重悟(京都大学名誉教授、2003年)、Yoshiharu Kohayakawa(小早川美晴、日系ブラジル人、サンパウロ大学教授、2018年)、河原林健一(国立情報学研究所教授、2021年)が受賞している。

参考資料

・EATCS HP The EATCS bestows the Presburger Award 2015 on Xi Chen (Columbia University)
・Columbia University HP Xi Chen https://www.engineering.columbia.edu/faculty/xichen
・Columbia University HP XI CHEN’S HOME PAGE 
・Columbia University HP Xi Chen Wins Both 2021 Gödel Prize and Fulkerson Prize
・AMS HP Delbert Ray Fulkerson Prize (AMS-MOS)