概要
東南大学(东南大学、Southeast University)は、南京大学と源を同じくする兄弟校であり、1952年の院系調整で分離独立した南京工学院が直接の前身である。その後、東南大学と名称を変更して現在は総合大学となっている。

1. 名称と所管
(1)名称
・中国語表記 东南大学 略称 东大
・日本語表記 東南大学
・英語表記 Southeast University 略称 SEU
(2)所管
国務院教育部の直轄大学である。
2. 本部の所在地
東南大学の本部は、江蘇省南京市江寧開発区東南大学路2号の九龍湖キャンパスにある。
江蘇省は、北を山東省、西を安徽省、南を浙江省および上海市と接し、東は黄海に面する。南部では長江下流デルタ地帯を形成し、中国で三番目に大きな淡水湖である太湖がある。
経済規模は大きく、2021年のGDPは約11.6兆元で、広東省に続き中国第2位である。人口は2021年で約8,500万人である。
大学本部のある南京市は、江蘇省の南西部にある省都で、上海市から西北西に約200キロメートルの位置にある。西と北は安徽省と接している。長江は、南京市街地の西から東の鎮江市方面へ流れ、秦淮河および滁河が合流する。
南京の歴史は古く、春秋時代の呉がこの地に城を築いたことに始まる。辛亥革命で清の滅亡後、軍閥支配などの混乱を経て国民政府が成立すると、国民党の蒋介石は1927年に南京を首都とした。
南京市の人口は、2020年で約930万人である。南京の郊外に紫金山があり、孫文の墓所である中山陵、明の朱元璋の墓所である明孝陵などがある。

3. 沿革
東南大学は南京大学と兄弟校であり、1952年の新中国政府による院系調整で分離された。
(1)三江師範学堂から国立中央大学へ
1902年、かつての国子監の跡地に三江師範学堂が設立されたが、これが東南大学や南京大学の源である。国子監は、中国古代より存在した高等教育機関であり、明代には北京と南京に置かれたと言う。
1906年に兩江師範学堂と改名した。その後、1915年南京高等師範学校が開学、1921年に国立東南大学となる。1927年には河海工科・上海商科・江蘇医科など8大学を統合し、国立第四中山大学と改称した。南京が中華民国の首都となると、1928年に国立中央大学と改称した。
(2)新中国建国後に南京大学へ
1937年に日中戦争が始まり年末に南京が占領されると、国立中央大学は戦火を避けて西部重慶市沙慈区に疎開した。
日本に勝利した後、1946年に国立中央大学は南京に戻った。この時の国立中央大学は、文学、法学、理科、農学、工学、医学、教育の 7 つの学部があり、1,266 人の教員と 4,066 人の学生がいて、「中華民国の最高の高等教育機関」として知られていた。
その後の国共内戦に勝利した中国共産党は、1949年に国立中央大学を接収して国立南京大学とした。新中国建国後の1950年には、南京大学となった。
(3)院系調整で南京工学院が設立
1952年7月、大規模な学部・学科の再編成である院系調整が行われ、南京大学にあった工学、農学、教育の各学部が独立し、新たに南京工学院、南京農業学院(現在の南京農業大学)、南京師範学院(現在の南京師範大学)が設立された。
現在の東南大学の前身は、この時に南京大学から分離独立した南京工学院である。分離独立の際、南京工学院は、金陵大学、復旦大学、交通大学、浙江大学、武漢大学などの関連学科を併合した。

(4)文革後に東南大学となり、総合大学に
文化大革命の終了後の1988年に、校名を東南大学に改め、院系調整で失った学部や学科を再構築して、総合大学を目指すこととなった。
2000年には、南京鉄道医学院、南京交通高等専門学校、南京地質学校と合併し、新たな東南大学となった。
4. 規模
(1)規模のデータ
東南大学の規模について、具体的な数値で見たのが下表である。
東南大学 | 中国第1位の大学 | ||
学部学生数 | 16,521名(79位) | 鄭州大学 47,000名 | 詳細データ |
大学院生数 | 20,107名(23位) | 中国科学院大学 57,375名 | 詳細データ |
専任教師数 | 3,211名(16位) | 吉林大学 6,506名 | 詳細データ |
総予算 | 119.03億元(14位) | 清華大学 362.11億元 | 詳細データ |
留学生数 | 2,255名(12位) | 北京大学 6,857名 | 詳細データ |
(2)キャンパス
東南大学は、本部のある九龍湖キャンパスに加え、四牌楼、丁家橋、無錫、蘇州の4つのキャンパスを有している。
(3)学部
東南大学は、政府の教育部が定めている12の大分類(日本の大学の学部に相当)について、工学、理学、医学、管理学、哲学、文学、法学、教育学、芸術を有する総合大学である。
(4)附属医院
東南大学医学院は、東南大学附属中大医院を有している。この医院は、元々南京鉄道医学院付属医院であった。
5. 研究開発力
東南大学は、中国の主要大学において15位から20位前後の研究開発力を有すると考えられる。
(1)研究開発力のデータ表
東南大学の研究開発力を、データとして示したのが下表である。
このうち、SCI論文数とはラリベートアナリティックス社のデータによる論文数、Nature Indexとは世界トップクラスの科学誌・学会誌掲載の論文数による指標、NSFCの面上項目予算の獲得額である。国家重点実験室は下記(2)、双一流学科建設数は下記(3)を参照されたい。
東南大学 | 中国第1位の大学 | ||
SCI論文数 | 16位 | 中国科学院大学 | 詳細データ |
Nature Index | 31位 | 中国科学技術大学 | 詳細データ |
国家重点実験室数 | 3か所(16位) | 清華大学 13か所 | 詳細データ |
双一流学科建設数 | 12学科(8位) | 北京大学 | 詳細データ |
NSFC面上項目予算 | 22位 | 上海交通大学 | 詳細データ |
(2)国家重点実験室
東南大学にある3か所の国家重点実験室は、次の通りである。
・ミリ波国家重点実験室
・携帯通信国家重点実験室
・生物電子学国家重点実験室
(3)双一流学科建設
中国は2017年に、国内の大学とその学科を21世紀半ばまでに世界一流とすることを目標とする政策(双一流政策)を開始した。2022年に改訂された双一流学科建設において、東南大学は全体で以下の12学科が選定されている。旧南京大学の工学部が独立して設置された南京工学院が直接の前身であるため、工学系の学科が非常に強い。
○工学系(11)機械工学、材料科学・工学、電子科学・技術、情報・通信工学、制御科学・工学、計算機科学・技術、建築学、土木工学、交通運輸工学、生物医学工学、風景園林学
○芸術系(1)芸術学理論
(4)NSFC面上項目予算獲得
日本の科研費に近い予算として、国家自然科学基金委員会(NSFC)が所管する面上項目予算がある。この予算をどの程度獲得するかで、当該大学の研究能力を判定しうる。2019年で東南大学は中国全体で22位である。
6. 国内および国際的な評価
中国の国内と国際的な評価を示したのが下表である。国内では国務院教育部と中国校友会、国際では英国のQS(Quacquarelli Symonds Limited)とTHE(Times Higher Education)のランキングを示した。また、卒業生の中での傑出科学技術人材数の校友会ランキングも、併せて示した。
これで見ると東南大学は、中国主要大学の中で20位前後にある。
東南大学 | 中国第1位の大学 | ||
軟科ランキング | 16位 | 清華大学 | 詳細データ |
校友会ランキング | 21位 | 北京大学 | 詳細データ |
QSランキング | 世界428位 中国23位 | 北京大学 | 詳細データ |
THEランキング | 世界301-350位 中国25位 | 清華大学 | 詳細データ |
校友会傑出人材 | 23位 | 北京大学 | 詳細データ |
7. 前学長は女性科学者
中国では、日本と比較して女性が様々な分野で活躍しているが、主要大学の学長となると非常に珍しく、1983年に復旦大学学長に就任した固体物理学者・謝希徳がほぼ唯一の例である。
東南大学では、2022年に情報科学を専攻する女性科学者・黄如(Huang Ru、1969年~)が学長に選任され、2024年まで務めており、今後、本HPで取り上げる予定である。

参考資料
・東南大学HP https://www.seu.edu.cn/