はじめに

 北京大学生命科学系 には、医学部、理学部生命科学学院、現代農業学院、化学生物学・生物技術学院(深圳)がある。

 医学部は、北京協和医学院と並び中国の最高峰の医学院である。

 理学部の生命科学学院は、古い伝統を有し、戦後院系調整で清華大学などの関連部局を吸収してより充実した。

 かつての農学部は戦後独立して中国農業大学となったが、国の農業政策の充実の一環として、新たに現代農業学院を設置した。

 さらに、北京大学は新たな研究生教育キャンパスを広東省深圳に立ち上げ、その中に化学生物学・生物技術学院を設置した。

北京大学の写真
北京大学の正門

1. 北京大学全体

 北京大学 (Peking University) は、中国で最も伝統と権威がある大学であり、様々な面で中国の頂点に君臨している。世界的にもトップレベルの大学となっている。北京大学の本部は、北京の中心である故宮から西北に少し離れた場所にある。
 伝統的に人文社会系の学部学科が強く、理学や医学もトップレベルにある。

 北京大学の全体像については、こちらを参照されたい。  

2. 医学系

 生命科学系の学部として高いレベルを誇るのは医学部 (Peking University Health Science Center)である。

 北京大学医学部は、中国国内でトップクラスの歴史と実績を有している。設立当初は北京大学に属していたが、時の政府の方針で単科大学として独立した時期を有している。近年の総合大学化の流れで、2000年に再び北京大学の一部となった。

 北京大学医学部の詳しい情報は、こちらを参照されたい。   

3. 理学系

 北京大学には理学部(Faculty of Science)があり、理学部の中に8つの学院(School)があって、その中に生命科学学院(School of Life Sciences)がある。これも生命科学系の重要な組織である。

(1)歴史

 北京大学理学部は、同大学の前身で1898年に設置された京師大学堂に遡る。設立当初、理学部には物理や化学があったが、生物学は無かった。

 辛亥革命後に京師大学堂は北京大学となり、1918年に当時の北京大学学長・蔡元培が、在野の生物学者・鐘観光を植物学担当の副教授として招聘し、生物関係の標本館の設置準備を委嘱した。これが北京大学における生物学研究・教育の発端である。
 この標本館の設置がきっかけとなり、1925年に北京大学理学部の中に生物学系(生物学科)が設置された。

 1920年代から30年代にかけての中国の生物学は、この北京大学生物学系と清華大学、燕京大学が牽引し、動物学、植物学、遺伝学などの分野で活発な研究が行われた。1937年に日中戦争が始まると、北京大学、清華大学、南開大学(天津)は西部に疎開し、国立西南連合大学の下で生物学系を構成した。

 1945年に日本が第二次世界大戦で敗北したため、国立西南連合大学の一部として活動していた旧北京大学の関係者は翌1946年に北京に戻り、北京大学理学部生物学系を再建した。

 中華人民共和国建国後の1952年に、中国全土において大学の学部調整政策・院系調整が行われ、北京大学は清華大学や燕京大学の理学部を吸収した。生物学系も北京大学に一元化して北京大学理学部生物学系となり、これ以降、一貫して中国の生物学を牽引している。

 北京大学理学部生物学系は、1993年に理学部生命科学学院と名称を変更した。

(2)規模

 北京大学理学部のHPによれば、理学部の8つの学院全体で、専任教師数は759人、うち教授は333人、副教授は260人である。
 また同じHPによれば2015年時点で、理学部全体で学部学生(本科生)は3,569人、学術型研究生(HPに説明がないが大学院生が中心と思われる)が4,485人である。

 上記の理学部全体の規模に対し生命科学学院がどの程度かであるが、同学院のHPによれば、全教職員数は168人、うち教授は74人である。従って、理学部全体の5分の1程度の規模と考えられる。生命科学学院のHPには学生数の記述はない。

(3)双一流学科

 中国は2017年に、国内の大学とその学科を21世紀半ばまでに世界一流とすることを目標とする政策(双一流政策)を開始した。2022年に改訂された双一流学科建設において、北京大学理学部生命科学学院では、「生物学」が双一流学科に選定されている。

(4)国家重点実験室

 北京大学理学部生命科学学院には、次の2つの所の国家重点実験室がある。

・タンパク質・植物ゲノム研究国家重点実験室(蛋白质与植物基因研究国家重点实验室)
・膜生物学国家重点実験室(膜生物学国家重点实验室、清華大学と共同)

4. 農学系

(1)かつての農学院は現在の中国農業大学に

 北京大学における農学研究の歴史は古く、1898年に設置された北京大学の前身・京師大学堂に遡る。京師大学堂の設立当初は農学部を有していなかったが、1905年に農科学部が設置された。
 以降、農学は北京大学の枢要な学部であり、また中国の農学研究の牽引役でもあった。

 辛亥革命後の時代になると、中国の他の有力大学でも農学部学科の設置が進められ、1921年に清華学堂(現清華大学)に農学科が、1939年に延安自然科学院(後の華北大学)に生物学科がそれぞれ設置された。両学科は、その後農学部に発展していった。中華人民共和国建国直前の1949年9月に、北京大学農学部、清華大学農学部、華北大学農学部の3学部が合併し、北京農業大学が設置された。現在の中国農業大学の前身である。

(2)新たに現代農学院を設置

 これ以降、北京大学には農学部が無くなったが、生物技術・応用微生物、毒物学、医薬化学などの分野は関係の学部で教育・研究が継続された。
 文化大革命が終了した後、復活した鄧小平は「4つの近代化」を唱え、その一つに農業の近代化を中国の中心政策とした。こういった流れを受けて、北京大学では農業の近代化政策ニーズに応えるため、新たな学部の設置を準備し、2017年に「現代農学院(现代农学院)」を設置した。

(3)現代農学院の専門分野

 北京大学の現代農学院には、分子農学、農業・発展経済学、AI農業学、食物安全・健康学の専門分野が設置されている。

5. その他

 北京大学は、広東省深圳市に北京大学深圳研究生院を有しており、この中に生命科学系である「化学生物・生物技術学院(化学生物学与生物技术学院)」が設置されている。

 北京大学は広東省深圳市人民政府と共同で、2001年に北京大学深圳研究生院を立ち上げた。
 同院の内部には、化学生物学・生物技術学院の他、情報工学院(信息工程学院)、環境・エネルギー学院(环境与能源学院)、都市計画・設計学院(城市规划与设计学院)、新材料学院、HSBC商学院(汇丰商学院)、国際法学院、人文社会科学学院が設置されている。
 同院は本科生のいない大学院生のみの大学であり、現在は全体で博士学生が467人、修士学生が3,256人、全体で3,723人の学生を擁している。また、教職員数は821人、うち教師数は289人である。

 北京大学化学生物学・生物技術学院は2003年に設置され、有機合成化学、薬物化学、生物学、計算・生物情報学、転科医学などの専門分野を有している。現在の在籍研究生は約200人である。

生物化学・生物技術学院のある北京大学深圳研究生院
生物化学・生物技術学院のある北京大学深圳研究生院  同研究生院のHPより引用

参考資料

・北京大学HP https://www.pku.edu.cn/
・北京大学理学部HP https://fs.pku.edu.cn/index.htm
・北京大学理学部生命科学学院HP https://www.bio.pku.edu.cn/
・北京大学現代農学院HP https://www.saas.pku.edu.cn/index.htm
・北京大学深圳研究生院HP https://www.pkusz.edu.cn/bygk/byjs.htm
・北京大学化学生物学・生物技術学院(深圳)HP https://scbb.pkusz.edu.cn/index.htm