西安交通大学の概要

○西安交通大学は、中国の西部にある陝西省西安市内にある。

○西安交通大学は、中華人民共和国建国後の西部開発の一環として、上海にあった交通大学の一部が西安に移転することで出来た大学である。したがって、上海交通大学と同じく、清朝末期の1896年に設立された「南洋公学」が起源であり、交通部や鉄道部が所管したことで工学系が強い大学である。

○上海交通大学が上海市の経済発展に支えられて、北京大学や清華大学と研究力などを競う大学として成長した。一方、西安交通大学は国による西部開発強化策を受けて手厚い援助を受けてきているが、陝西省や西安市は上海と比較して改革開放後の経済発展は緩やかであり、現在のところトップ大学にはなっていない。

西安交通大学の正門
西安交通大学の正門 百度百科HPより引用

1. 名称と所管

(1)名称

・日本語表記 西安交通大学 
・中国語表記 西安交通大学  略称 西安交大
・英語表記 Xi’an Jiaotong University
 「交通」の中国語での意味は日本語より広く、陸海空の運輸全般と通信を含む。

(2)所管

 国務院教育部の直轄大学である。

2. 本部の所在地

 西安交通大学の本部は、陝西省西安市にある。 

 地図で見ると陝西省は中国大陸のほぼ中央に位置するが、同省の西にあるのは新疆ウイグル自治区、青海省、甘粛省、チベット自治区など人口希薄な省であり、人口が多く経済発展している沿岸部からはかなり西に寄った地である。北は内モンゴル自治区で砂漠が多く、南は四川省で高い山脈が連なる。陝西省省内には黄河が流れ、黄土高原が広がる。南部を秦嶺山脈が東西に走る。北部の冬は乾燥し寒く、夏は非常に暑い。

 西安市は陝西省の省都であり、西安の古称は長安である。周代に黄河支流である渭水流域に都城が建設され、漢代に長安と命名された。唐代には大帝国の首都として世界最大の都市に成長し、シルクロードの起点とされた。しかし、宋代に大運河が通じる東の開封に政治・経済の中心が移り、長安が首都に戻ることはなかった。
 西安市の平野部は温暖な季節風気候であり、四季が明瞭である。緯度的には日本の鹿児島と同じであるが、冬は寒く夏は暑くて湿度が高い。1月の平均気温は0.2℃であり、7月の平均気温は27.3℃である。
 西安市の中心部にあるのが鐘楼である。明の洪武帝時代に建てられた、中国最大のものである。周りはロータリーとなっている。

西安市の中心にある鐘楼
西安市中心部の鐘楼 百度HPより引用

 大学の雁塔キャンパスは、観光地として有名な大雁塔の近くにある。大雁塔は、西遊記・三蔵法師のモデルである唐の高僧玄奘三蔵が、インドから持ち帰った経典や仏像などを保存するために建立された塔である。大慈恩寺の境内に建っている7層64メートルの仏塔である。

大雁塔
西安交通大学雁塔キャンパスの近くにある大雁塔

3. 沿革

 1955年に西安と上海の2つの地域に分離するまでは、上海交通大学と同じ沿革である。一部を再掲する。

(1)南洋公学の設立

 西安交通大学の礎は、日清戦争の敗北に危機感を抱いた清朝高官・盛宣怀の提唱で、1896年に設置された「南洋公学」である。1911年に辛亥革命が起こり、翌1912年に新政府により接収されて交通部の所管となったため、「交通部上海交通専門学校」と改名された。主な学科は、土木、電気、機械であった。

南洋公学の正門
1896年に設立された南洋公学の校門 百度HPより引用

(2)交通大学へ発展、西部へ疎開

 辛亥革命後の政治的な混乱から数度名称が変更されるが、南京国民政府が樹立されて政治的な安定がもたらされると鉄道部に移管され、1928年に上海だけでなく唐山や北平(北京)にあった専門学校を併合して「鉄道部交通大学」となった。1937年には、所管が鉄道部から教育部に代わり「国立交通大学」となった。なお、この年には日中戦争が勃発し上海が日本軍により占領されるが、交通大学は治外法権であった上海のフランス租界内で教育・研究を継続した。
 1941年に太平洋戦争が始まり、日本軍はフランス租界も占領したため、交通大学は重慶に疎開を余儀なくされた。

(3)院系調整で工学部中心の大学へ

 1945年の日本敗戦に伴い、交通大学は上海に戻った。交通大学は1949年1月時点で、理学、工学、管理学の3学部を有していた。1949年5月に人民解放軍が上海を制圧し、翌6月に交通大学は共産党の管理下に置かれた。

 1952年には、大学の学部再編政策である院系調整が新中国政府により実施され、理学関係の物理、化学、数学は復旦大学へ、管理学は復旦大学と華東師範大学へ、工学のうち土木建築は同済大学へなど、大幅に他校に移管された。結果として交通大学に残ったのは、工学のうち機械、電機、造船の3分野だけとなった。 

(4)大学の一部を西部へ移転、文化大革命

 1955年、大陸西部の開発発展を支える人材養成を進めるため、中央政府は交通大学に対し、陝西省西安への移転を提案した。しかし、大学の学生や教員は不便であった大陸西部への移転に反対したため、一種の妥協として大学と教員の一部(約6割)を西安に移転させ、上海に一部を残すこととなった。

 当初は上海と西安は一つの大学として運営されたが、1959年に分離し2つの大学として中央政府に認められ、それぞれの名称が上海交通大学と西安交通大学となった。

(5)西安医科大学および陝西財経学院との合併

 2000年に、西安医科大学および陝西財経学院との合併して、新たな西安交通大学がスタートした。

 西安医科大学は、1912年に設立された北京医学専門学校が母体である。国立西医学校、国立北平大学医学院と名称変更して北京で西洋医学教育を行っていたが、1937年に起こった日中戦争により西安に疎開して西安臨時大学医学院となった。戦後もそのまま西安に残り、1950年に西北医学院、1956年に西安医学院、1985年に西安医科大学となった。

 もう一つの陝西財経学院は、1928年に設立された国立北平大学商学院が母体である。日中戦争により陝西省に疎開したが、戦後の1949年に陕西省立商業専門学校と合併して西北大学財経学院となった。その後、1978年に陕西財経学院となった。

新西安交通大学の合併大会
西安交通大学、西安医科大学、陝西財経学院の合併式 百度HPより引用

4. 現在の指導部

(1)学長

 王樹国(王树国)現学長は1958年河北省生まれで、ハルビン工業大学で機械工学を専攻し、1987年に工学博士を取得した。卒業後、2年間パリのエコールポリテクニークに留学した後、母校の教授となり、同大学の副学長を経て、2002年に同校の学長となった。2014年には、西安交通大学の学長兼党委員会副書記に就任した。ロボット制御工学が専門である。

(2)共産党委員会書記

 盧建軍(卢建军)現共産党委員会書記は1962年山東省生まれで、北京郵電学院で商工管理学を学び、同校の教授、西安鉱業学院主任、西安科技学院副院長、西安科技大学副学長、西安郵電大学学長、同大学党委書記、陝西省科技庁庁長などを経て、2020年に西安交通大学の党書記に就任した。

5. 規模

(1)規模のデータ表

 いくつかの指標で、西安交通大学の規模を示したのが下表である。学部学生数は小さいが、大学院生数、留学生数、専任教師数、総予算では中国主要大学で7位から10位にある。

 西安交通大学中国第1位の大学 
学部学生数21,141名(48位)鄭州大学 47,000名詳細データ
大学院生数26,941名(7位)清華大学 38,783名詳細データ
留学生数2,659名(7位)北京大学 6,857名詳細データ
専任教師数3,729名(9位)吉林大学 6,506名詳細データ
総予算133.72億元(10位)清華大学 362.11億元詳細データ

(2)キャンパス

 西安交通大学の本部は、興慶キャンパスにある。興慶キャンパスは西安市碑林区の東部にあり、中心部の鐘楼から東南約3キロに位置している。雁塔キャンパスは大雁塔に隣接し、医学部と経済・金融学院がある。それ以外に、曲江キャンパスと西部科技創新港キャンパスがあり、全体で4つのキャンパスを有している。

(3)学部

 西安交通大学は、政府の教育部が定めている12の大分類(日本の大学の学部に相当)のうち、哲学、経済学、法学、文学、理学、工学、医学、管理学、芸術の9大分類を有しており、歴史学、教育学、農学はない。

(4)双一流学科建設

 中国は2017年に、国内の大学とその学科を21世紀半ばまでに世界一流とすることを目標とする政策(双一流政策)を開始した。2022年に改訂された双一流学科建設において、西安交通大学では全体で以下の8の学科を選定されている。
○理学系(1)   力学
○工学系(5)   機械工学、材料科学・工学、動力工学・工程熱物理、電気工学、制御科学・工学
○管理学系(2)  管理科学・工学、商工管理

(5)附属医院

 西安交通大学は、次の3つの直属医院を有する。
○第一附属医院 
○第二附属医院
○口腔医院

6. 研究開発力

 西安交通大学は、工学に秀でた大学である。以下に、具体的な指標で見たい。

(1)研究開発力のデータ表

 上海交通大学の研究開発力を、データとして示したのが下表である。このうち、SCI論文数とはラリベートアナリティックス社のデータによる論文数、Nature Indexとは世界トップクラスの科学誌・学会誌掲載の論文数による指標、NSFCの面上項目予算の獲得額である。国家重点実験室は下記(2)を参照。

 西安交通大学中国第1位の大学 
SCI論文数15位中国科学院大学詳細データ
Nature Index26位中国科学院大学詳細データ
国家重点実験室数5か所(6位)清華大学詳細データ
NSFC面上項目予算14位詳細データ

(2)国家重点実験室

 西安交通大学には、以下の5か所の国家重点実験室がある。これで見ても、工学系が強い。
・動力工学多相流国家重点実験室
・金属材料強度国家重点実験室
・電力設備電気絶縁国家重点実験室
・機械製国家重点実験室国家重点実験室
・機械構造強度・振動国家重点実験室

7. 国内および国際的な評価

(1)国内および国際的な評価のデータ表

 中国の国内と国際的な評価を示したのが下表である。国内では国務院教育部と中国校友会、国際では英国のQS(Quacquarelli Symonds Limited)とTHE(Times Higher Education)のランキングを示した。また、卒業生の中での傑出科学技術人材数の校友会ランキングも、併せて示した。
 これで見ると西安交通大学は、国内で10位から20位にある大学である。

 西安交通大学中国第1位の大学 
教育部ランキング17位清華大学詳細データ
校友会ランキング7位北京大学詳細データ
QSランキング世界302位  中国14位北京大学 世界12位詳細データ
THEランキング世界401-500位 中国18位北京大学と清華大学 世界16位詳細データ
校友会傑出人材11位北京大学詳細データ

(2)九校連盟

 2009年10月に西安交通大学は、他の北京大学、清華大学、浙江大学、上海交通大学、復旦大学、南京大学、中国科学技術大学、ハルビン工業大学の8校とともに、相互協力・交流の強化、教育資源の相互補完、ハイレベル人材の育成等を図るため、「一流大学人材育成協力・交流協議書」を締結した。これは「九校連盟」と呼ばれ、中国版の「アイビーリーグ」とされている。

8. 国際性

(1)他国の大学等との協力

 2019年5月現在、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、シンガポール、韓国など44の国と地域の300以上の大学やと研究機関と協力関係を有している。また、西安交通大学が主導して設立された「シルクロード大学連盟(丝绸之路大学联盟)」では、37の国と地域の160余りの大学と多元的な協力を展開している。

 日本の大学では、愛媛大学、愛知大学、北海道大学、北九州市立大学、沖縄大学、大阪産業大学、大阪大学、徳島大学、東北大学、東京工業大学、東京理科大学、獨協医科大学、法政大学、豊橋科技大学、広島大学、和歌山大学、京都大学、九州大学、名古屋大学、名古屋工業大学、奈良女子大学、埼玉大学、千葉大学、慶應技術大学、群馬大学、共立女子大学、山口大学、山梨学院大学、神户大学、同志社大学、武庫川女子大学、広島県立大学、新潟大学、早稲田大学、筑波大学などと協力協定を結んでいる。

(2)西交リバプール大学(西交利物浦大学、Xi’an Jiaotong-Liverpool University)

 西安交通大学と英国リバプール大学は2006年に西交リバプール大学を共同設立した。設置場所は、江蘇省東南部に位置する蘇州市にある蘇州工業パーク内である。学生数が約1.3万人の合大学で、授業はリバプール大学のカリキュラムをベースとしており、すべて英語で行われている。

参考資料

・西安交通大学HP  https://www.sjtu.edu.cn/
・西安交通大学医学院HP http://www.med.xjtu.edu.cn/
・百度HP
・中国版Wiki
・西交リバプール大学HP https://www.xjtlu.edu.cn/zh