ここでは、2023年の分野別科学技術力の比較と各分野の経年変化を示し、その結果についての簡単な考察を記す。これらのデータの作成の方法については、こちらを参照されたい。
1.分野別の比較(2023年)
以下の記述の見方であるが、「~」の左の国・地域が右の国・地域と同等であるか若干強いと言うことであり、「>」の左の国・地域が右の国・地域と顕著な差があると言うことである。
(1)環境・エネルギー分野
全体 欧州~米国>中国~日本>韓国
基礎 欧州~米国>日本~中国>韓国
応用・開発 欧州>米国~中国>日本>韓国
なお、2023年の環境・エネルギー分野の国際比較の詳細は、こちらを参照されたい。
(2)システム・情報科学技術分野
全体 米国>欧州~中国~日本>韓国
基礎 米国>欧州>中国~日本>韓国
応用・開発 米国>中国~欧州>日本~韓国
なお、2023年のシステム・情報科学技術分野の国際比較の詳細は、こちらを参照されたい。
(3)ナノテクノロジー・材料分野
全体 米国>欧州>日本~中国>韓国
基礎 米国>欧州~日本>中国>韓国
応用・開発 米国>欧州>日本~中国>韓国
なお、2023年のナノテクノロジー・材料分野の国際比較の詳細は、こちらを参照されたい。
(4)ライフサイエンス・臨床医学分野
全体 米国>欧州>日本~中国>韓国
基礎 米国>欧州>日本~中国>韓国
応用・開発 米国>欧州>中国~日本>韓国
なお、2023年のライフサイエンス・臨床医学分野の国際比較の詳細は、こちらを参照されたい。
2.各分野の経年変化
ここでは、各分野の経年変化を示すため、それぞれの年の各分野全体の評価を数値化してグラフとしている。
(1)環境・エネルギー分野の経年変化
(2)システム・情報科学技術分野の経年変化
(3) ナノテクノロジー・材料分野の経年変化
(4)ライフサイエンス・臨床医学分野の経年変化
2008年調査では臨床医学の分野の調査が行われていないため、2008年調査の結果は外してある。
3.簡単な考察
上記の結果を踏まえ、筆者の簡単な考察を以下に記す。
(1)米国:圧倒的な科学技術力を維持
米国の科学技術力の強さは、論文、特許、企業の競争力等の観点から十分に把握できるが、今回の分析においても確認された。特に、システム・情報科学分野およびライフサイエンス・臨床医学分野では、他国の追随を許さない状況が続いている。
環境・エネルギーの分野では欧州より下位にあるものの、ほぼ同等と見られる状況にある。ナノテクノロジー・材料の分野では、欧州、日本、中国との差を広げている。
(2)欧州:米国に追随して科学技術力を強化
欧州は、環境・エネルギーの分野で米国より上位にある状況が続いていることが確認された。他のシステム・情報科学技術分野、ナノテクノロジー・材料分野、ライフサイエンス・臨床分野では米国より下位にあるものの、日本や中国より優位に立っている。
(3)日本:相対的な地位が劣化
従来から欧米と距離があると考えられるシステム・情報科学技術分野やライフサイエンス・臨床医学分野は依然として差が縮まらず、欧米と熾烈なトップ争いをしていると考えられてきた環境・エネルギー分野やナノテクノロジー・材料分野においても、徐々に差を広げられつつあり、力負けしてきているように見える。
日本の当面のライバルは中国と考えられるが、中国には環境・エネルギー分野とシステム・情報科学技術分野で前回逆転されており、今回も差はそれほどないが、引き続き中国より下位にあった。また、ナノテクノロジー・材料分野、ライフサイエンス・臨床分野では日本はまだ中国の上位にあるが、徐々に差が詰まってきている状況にある。
(4)中国:科学技術力の伸長が著しい
今回の分析では中国の科学技術力が向上し、ほとんどの分野で日本と同等か、あるいは一部優位に立っていることが示された。
この点に関しては、科学論文、特許等のデータで見る中国の科学技術力の進展は急激であり、例えばウェブオブサイエンスのデータでは、引用数を考慮したトップ1%の論文数で米国をも凌駕している点を考慮すれば、むしろ当然である。
近年ようやく日本と互角になったのは、俯瞰調査を担当した日本人研究者がこれまで中国の状況を重視してフォローしてこなかった結果もある、と考えられる。今後中国の科学技術力はさらに伸張すれば、俯瞰調査に当たる日本人研究者もこれまで以上に中国に関心を払うこととなり、結果として日本との位置関係が逆転したり、差が広がったりする可能性がある。
(5)韓国:主要国から離されつつある
これまでの国際比較において韓国の科学技術力は、米国、欧州、日本とは距離があるものの、中国とは互角で一部優位の状況にあった。しかし、2017年以降の分析において全ての分野で中国が優勢となり、今回の分析では大きく水が空いている結果となった。中国と韓国の研究開発資金力、研究者数、企業競争力などを比較すれば、当然の結果と考えられる。
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