はじめに
ホークァン・マオ(1941年~)は、台湾出身の鉱物学・高圧科学者であり、米国で活躍し、2005年にバルザン賞を受賞している。
生い立ち
ホークァン・マオ(Ho-kuwan Mao、毛河光)は、1941年に上海で生まれた。
父親の毛森は、1908年に浙江省で生まれた中華民国の警察官僚・軍人であり、マオが生まれた当時は上海の警察責任者であった。毛森は、当時日中の両軍が対峙していた上海で、国民党の立場から様々な工作を行ったことにより、2度も日本軍に逮捕されたが、2度とも出獄している。
第二次世界大戦の終了後、今度は国共内戦となり、毛森は中国共産党員に対して厳しい弾圧を行い、多くの共産党員を処刑した。このため、1949年に共産党により上海が解放されると、毛森は厦門経由で台湾に逃れた。その後、タイなどを経て米国に渡っている。軍では陸軍中将まで昇進している。
教育
ホークァン・マオは、1949年・7歳の時に台湾に家族と共に移り、そこで基礎教育を受けた。1959年に国立台湾大学の地質学科に入学し、1963年に同校を卒業した。
マオは、翌1964年に米国に渡り、ニューヨーク州にあるロチェスター大学大学院に入学し、1968年にPhDを取得した。
カーネギー研究所で地球物理学の研究者に
ホークァン・マオは、ワシントンのカーネギー研究所地球物理学研究所でポスドク研究を行った。その後1972年に正規の研究員に採用され、現在に至っている。
マオの研究分野は、高圧下での鉱物学研究である。彼の研究は、主としてダイヤモンドアンビルセル(Diamond anvil cell)を用いて高圧を作り出し、鉱物の挙動を観察するものである。
マオは1976年に、同僚のピーター・ベルと共にダイヤモンドアンビルセルで100GPaの圧力を作り出した。その際ダイヤモンドの塑性流動を初めて観察した。さらに1978年には、地球の起源とその変化過程を理解する上で非常に重要な地球の外核圧力である173GPaを達成した。さらに1986年には、地球の中心の圧力を超える550GPa を達成した。
またマオはピーター・ベルと共に、圧力を測定し較正する手法である「ルビー蛍光法」を考案した。これは、ルビーにレーザー光を照射することにより発生する蛍光の色が圧力により変化していくことを利用して圧力を測定し較正する手法である。この手法は、現在でも標準的な手法とされている。
さらにマオは、最も軽い元素である水素を高圧下に置くことで固体に転移させる研究も進めている。
多くの国際賞を受賞
以上の様な研究成果を踏まえ、ホークァン・マオは多くの国際賞を受賞していく。
1989年に、高圧科学の研究に対して国際高圧科学技術推進協会より与えられるブリッジマン賞(P. W. Bridgman Award)を受賞した。
1990年に、米国科学アカデミーが地球物理学者に授与するアーサー・L・デイ賞(Arthur L. Day Prize and Lectureship)を受賞した。
マオは2005年に、バルザン賞を受賞した。バルザン賞(The International Balzan Prize Foundation awards)は、バルザン財団が自然科学分野と人文科学分野の優れた研究者にを与えるものである。日本人では、2007年に飯島澄男博士、2010年には山中伸弥博士が受賞している。これにより毛河光は、ノーベル物理学賞の受賞が期待される科学者となった。
中国との関係
ホークァン・マオの父・毛森は、故郷である浙江省に父と二人の兄を残して台湾に渡ったが、文化大革命時代に毛森の国共内戦時の行動が問われ、毛森の父と兄二人は革命派によって迫害され死亡した。晩年毛森はパーキンソン病を患ったが、それでも文革後の1992年に浙江省に里帰りし、文革中に苦労した前妻の娘達との再会を果たし、その後サンフランシスコでがんで死去している。
マオ本人は、父・毛森の遺言もあって、浙江省の小学校の改修費用や若者の奨学金などを贈与するとともに、吉林大学や浙江大学で高圧物理学研究の指導に当たっている。
これらの業績により、1996年に中国科学院の外国籍院士に当選し、また2002年には中国政府友誼賞を受賞している。
参考資料
・Ho-Kwan Mao HP https://sites.google.com/carnegiescience.edu/ho-kwangmao
・H. K. Mao, P. M. Bell, J. W. Shaner, and D. J. Steinberg, J. Appl. Phys. 49, 3276 (1978).
・Calibration of the ruby pressure gauge to 800 kbar under quasi-hydrostatic conditions
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/JB091iB05p04673
・Bridgman Award recipients https://www.airapt.org/?q=node/5