はじめに

 李亜棟(李亚栋、1964年~)安徽師範大学学長は、単原子触媒の研究で成果を挙げた化学者であり、やはり触媒科学者である張涛とともに、2024年の未来科学大賞物質科学賞を受賞した。

李亜棟の写真
李亜棟  安徽師範大学HPより引用

生い立ちと教育

 李亜棟(李亚栋、Yadong Li)は、1964年に安徽省安慶市宿松に生まれた。李亜棟が2歳となった1966年に文化大革命が始まり、12歳となった1976年に文革が終了しているので、教育制度が機能しなかった文革期間の影響はそれほど受けていない世代である。

 李亜棟は1981年に地元の宿松中学を卒業して、同じ安徽省蕪湖市にある安徽師範大学に入学した。李亜棟は同大学で化学を専攻し、1986年に卒業した。

兄弟のために教師となる

 李亜棟は長男として生まれ下に弟や妹がいたが、二人の成績は平均的であり大学進学が出来ない可能性もあったたため、自らの大学卒業後に故郷に戻り、中学で教師として働いて弟と妹の学習を助けることにした。

 その後、弟や妹の進学に目途がたったため、李亜棟は大学院への進学を目指し、2年後の1988年に同じく安徽省合肥市にある名門大学・中国科学技術大学大学院に入った。

清華大学教授に就任

 李亜棟は、中国科学技術大学で応用化学を専攻し、1991年に修士学位を取得した。卒業後同大学の教員となったが、1993年に大学の人事方針が変更され、博士学位の取得者でなければ教授に昇進できないこととなった。そこで李亜棟は、働きながら博士学士取得を目指した。1996年に中国科学技術大学副教授となったが、引き続き博士取得を目指し、1998年にようやく博士学位を取得した。

 李亜棟は、翌1999年に清華大学に移り、同大学化学科の教授に就任した。

単原子触媒を研究

 李亜棟が取り組んだ化学のテーマは、単原子触媒の研究である。無機ナノ材料の合成において、ナノ結晶のサイズと形態を制御することにより、単分散ナノ結晶の制御合成や3次元メソポーラス材料合成などの手法を確立した。この手法は、さまざまな機能を持つ触媒の合成に広く使用され、化学工業、材料、エネルギー、環境の分野で、単原子触媒の発展と広範な利用を促進した。

未来科学大賞受賞

 李亜棟は、単原子触媒などの研究業績により、2011年に中国科学院の院士に当選した。

 李亜棟は、2024年に未来科学大賞物質科学賞に輝いた。それぞれ独立して同じ金属触媒を研究して成果を挙げた、張涛・前中国科学院副院長と同時受賞であった。

 未来科学大賞の選考理由として、「張涛と李亜東の先駆的な研究は、不均一金属触媒の活性部位を理解するための扉を開き、原子レベルの精度で固相触媒を制御する効果的な方法を提供した。彼らが主導した単原子触媒研究は、不均一触媒における最先端の分野となっている。彼らの研究成果は、塩化ビニル、酢酸、プロパノールなどのバルク化学物質のグリーンで環境に優しく、効率的で省エネな工業生産を促進し、単一原子触媒が人類社会の持続可能な発展に貢献する可能性を実証した」と述べられている。

李亜棟の受賞写真
李亜棟の未来科学大賞受賞

教育者としての考え

 李亜棟は2023年に、母校である安徽師範大学の学長となった。

李亜棟の学長としての写真
李亜棟・安徽師範大学学長 

 研究者・教育者としての李亜棟のモットーは、333ルールである。彼は、与えられた時間の 3 分の 1 を文献の閲覧、読書、学習に充て、次の 3 分の 1 は、思考、研究計画の立案に費やし、最後の 3 分の 1を実験に費やすという。そして、最も重要なのは考えることであり、創造的なプロセスにおいて独立した思考に代わる重要なものはないという。

参考資料

・安徽師範大学HP https://ahnu.edu.cn/index.htm
・李亚栋 教授 博导 https://www.x-mol.com/university/faculty/12007
・未来科学大賞HP 2024 物质科学奖 获奖人 李亚栋 Yadong Li
https://www.futureprize.org/cn/laureates/detail/82.html
・清華大学HP 未来科学大奖得主李亚栋:我的工作并非“从0到1
https://www.tsinghua.edu.cn/info/1182/113364.htm