はじめに

 華西医院 (West China Hospital) は、四川大学の華西医学中心に属し、中国でも最大級の医院である。18世紀後半から医療活動を行ってきた実績と、優れた科学学術研究力を有している。

華西医院の写真
華西医院の建物  百度HPより引用

1. 名称

○中国語表記:四川大学华西医院  略称 华西医院
○日本語表記:四川大学華西医院  略称 華西医院
○英語表記:West China Hospital of Sichuan University 略称 WCH

2. 所管

 華西医院のある華西医学中心は、四川大学に属している。ただし、沿革で述べるとおり元々別組織であったものが2000年に合併したこともあって、他の学院(日本の学部)と違い、華西医学中心は半独立的な運用となっている。

 華西医院は、華西医学中心の臨床病院である。華西医学中心では、高等医学教育機関と臨床病院が対等の形で運営されている。 

3. メインの所在地

 華西医院の所在地は、四川省成都市武侯区国学巷37号である。

 四川省は、北西に青海省、北に甘粛省及び陝西省、東に重慶市、南に貴州省及び雲南省、西にチベット自治区と接する。北部や西部に急峻な山脈が連なり、東部に広大な四川盆地が位置する。現在の四川省の人口は約8,300万人(中国第4位)、経済規模はGDPで約53,850億元(中国第4位)である。

 華西医院のある成都市は、四川省の省都である。三国時代に劉備がここを本拠地としたが、魏に滅ぼされている。現在でも成都市には、名軍師・諸葛孔明やその主君・劉備を祀る武侯祠がある。また日本人には、麻婆豆腐、担々麺などの四川料理の中心的な都市として有名である。

諸葛孔明と劉備を祀る武功廟
成都市内にある武功廟 百度HPより引用

4. 沿革

(1)欧米キリスト教団体による医院の設立

 華西医院の歴史は、19世紀後半に米国、カナダ、英国などのキリスト教団体によって、四川省成都市に設置された3つの病院である「仁済医院(仁济医院、1892年)」、「存仁医院(1894年)」、「仁済女医院(仁济女医院、1896年)」から始まっている。

(2)華西協合大学の設立に伴い、高等教育機関の臨床病院に

 1905年に、やはり米国、カナダ、英国の5つのキリスト教団体は、中国西部全体の教育レベル向上のため、四川省成都市に高等教育機関を設立することを決定した。
 1910年にこの構想が実現し、華西協合大学(华西协合大学、West China Union University)が、文、理、教育の3つの学部で開学した。
 1914年に華西協合大学は医科を設置し、仁済医院、存仁医院、仁済女医院の3つの医院を統合して同大学医科の臨床医院とした。
 1917年には、口腔医学(歯学)を教えることになり、中国で初めて口腔科を設置した。華西医院の口腔科は、現在でも中国トップレベルである。
 1920年には、米国ニューヨーク市立大学と連携し、華西協合大学の優秀な卒業生は医学博士号を取得できるようになった。

(3)日中戦争により他の大学の医学院も吸収

 日中戦争が1937年に始まると、日本軍が大陸の東部を占領したため、多くの大学がより安全な大陸西部に疎開した。このうち中央大学(南京市)、燕京大学(北京市)、斉魯大学(山東省済南市)、金陵大学(南京市)は四川省成都市に移転し、医科も移転してきたことにより、華西協合大学はこれらを吸収した。

(4)華西医院へ

 第二次世界大戦で日本が敗北し、四川省成都市に疎開していた大学は本来の地に戻った。国共内戦で共産党が勝利し、中国共産党は華西協合大学を接収して華西大学とし、華西協合大学附属医院も華西大学の附属医院となった。

 中華人民共和国設立後に行われた大規模な大学・学部調整政策である「院系調整」により、華西大学は1953年に、医学系(歯学、衛生、薬学を含む)中心の大学である四川医学院となり、他の学部は別の大学に吸収された。附属医院は、四川医学院附属医院となった。

 1985年には、四川医学院は華西医科大学(华西医科大学)となり、附属医院は華西医科大学附属第一医院となった。

 2000年に、華西医科大学と旧四川大学が合併し、新生の四川大学となった。華西医科大学は、四川大学華西医学中心として再スタートすることになり、附属医院は華西医学中心の下での臨床医院として四川大学華西医院となった。

四川大学正門の写真
華西医院が属する四川大学の正門  四川大学HPより引用

5. 規模など

(1)規模

 華西医院のHPなどの情報によれば、同医院の規模は次の通りである。
○病床数:約4,900床
○スタッフ:約1万人
○その他のデータ:2023年の外来患者数は878万人、手術数は25万件、退院患者数35万人であった。

(註)病床数を日本と比較すると、2021年7月時点で日本最大のベッド数を有するのは愛知県豊明市にある藤田医科大学病院の1,435床であり、東京では東京大学附属病院が1,226床を有し日本第3位である。したがって、華西医院の病床数約4,900床は極めて大きな数字である。
 東京大学付属病院の職員数を見ると、全体で4,273人(2023年4月現在、短時間有期雇用職員等を含む)となっている。
 東京大学付属病院の外来患者数は、2023年一年間で64.1万人、救急患者数1.2万人、手術件数は1.2万件、新入院患者数は2.7万人である。

(2)科学研究施設

 華西医院は、次の国家的な施設を有している。
○生物治療国家重点実験室(生物治疗国家重点实验室)
○老人病国家臨床医学研究中心(老年疾病国家临床医学研究中心)

(3)評価

 復旦大学の医院管理研究所による中国医院ランキング(2022年)での評価は次の通りである。ランキング全体は、こちらを参照されたい。
○総合順位:満点が100点のところ、93.055点で全国2位  1位は北京協和医院で95.301点   
○医療評価:満点が80点のところ、73.055点で北京協和医院(80点)に次いで全国2位
○学術評価:満点が20点のところ、20点で全国1位

参考資料

・四川大学華西医院HP https://www.wchscu.cn/public/index.html 
・四川大学HP https://www.scu.edu.cn/index.htm
・東京大学付属病院HP https://www.h.u-tokyo.ac.jp/