「国家中長期科学技術発展計画綱要(2006年~2020年)」(2006年)

 中長期発展計画綱要(正式名称は「国家中長期科学技術発展計画綱要:国家中长期科学和技术发展规划纲要(2006年~2020年)」)は、中国を未来に向かって創新型国家に転換させるべく、今後15年間にわたる政策として2006年に策定された。

 中長期発展計画綱要は、半世紀以上にわたる中国の科学技術の経験を踏まえて策定され、未来に向かって中国を創新型国家に転換させる重要な政策である。この綱要の考え方は、その後策定された「国家イノベーション駆動型発展戦略綱要(2016年~2030年)」による追加的な変更を受けつつ、重要な指針となっている。

中長期発展計画綱要の策定経緯

 2003年10月に中国共産党中央委員会全体会議で公表された「社会主義市場経済体制の整備における若干の問題に関する決定」は、三農問題をはじめとする中国社会の格差是正、汚職の撲滅、環境問題を解決して「小康社会」の建設を進めるという胡錦濤政権の政策を示したものであり、その中で「科学技術・教育・文化・衛生体制の改革を深化させ、国家創新能力と国民全体の資質を高める」との方針が明示された。

 2004年12月に開催された中央経済工作会議で胡錦濤総書記は講話を行い、「自主創新能力を高めることは、構造調整を推進する重要な一環である。技術研究と開発システムを健全化し、先進的な技術の導入と消化、吸収、イノベーションとを結合させ、イノベーションを奨励する政策体系を充実させ、イノベーション能力に富んだ各種人材の育成に力を入れる必要がある」と述べるとともに、「中長期発展計画綱要の制定を急ぐ必要がある」と述べ、これがこの綱要策定につながった。

 中長期発展計画綱要の策定のため国務院内に臨時組織が設置され、座長・温家宝首相、副座長・陳至立国務委員(教育担当、前教育部長)の体制のもと、約1年間かけて複数のテーマ(製造業の発展、農業科学技術、運輸科学技術など)で議論が行われ、これら議論を踏まえて科学技術部が取りまとめた。

 2006年1月の全国科学技術大会での胡錦濤総書記の講話で、中国の科学技術・イノベーション政策の長期的な基本方針として、中長期発展計画綱要に言及した。

 2006年2月に国務院は、中長期発展計画綱要を公表した。

基本方針

 改革開放後中国は、海外の技術・設備を導入して産業技術を向上させ、経済を発展させた。しかし、技術導入のみでは世界の先進技術国との差を拡大させるだけであり、また経済の生命線や国家の安全に関係する領域では本当の重要技術を買うことはできない。中国が激烈な国際競争の中で主導権を持つには、自主創新能力を高めることが必須であり、重要な領域で技術を開発し、知的所有権を持ち、国際競争力を持つ企業を育成しなければならない。自主創新能力を高めることを国家戦略とし、それを近代化建設の全ての局面において徹底する。

目標

 2020年までの科学技術発展の目標は、次の通りである。
〇自主創新能力を高め、小康社会(いくらかゆとりのある社会)の全面的な建設における力強い支柱とする。
〇基礎科学と最先端技術の研究における総合力を高め、創新型国家の仲間入りを果たし、今世紀中葉に科学技術強国になるための基盤を固める。
〇具体的な数値目標として、国内総生産(GDP)に占める国全体の研究開発投資の割合を2.5%以上に引き上げ、科学技術進歩の貢献率を60%以上にし、対外技術依存度を30%以下に引き下げ、中国人の年間の特許取得件数と国際的な科学論文の被引用件数をいずれも世界5位以内にすることを目指す。

重点領域と優先的な課題

 本綱要では、中国の国情とニーズに立脚して重点分野を定め重大なコア技術を獲得するため、11の国民経済社会の発展にかかわる重点領域と、近い将来に技術のブレークスルー実現が可能な68の優先的な課題が掲げられている。
 11の重点領域とは、エネルギー、水資源および鉱物資源、環境、農業、製造業、交通運輸業、情報産業と近代的なサービス業、人口と健康、都市化および都市発展、公共の安全、国防である。68の優先的な課題は、11の重点領域のサブテーマとして挙げられており、例を示すとエネルギー領域では、工業における省エネルギー、石炭の高効率・クリーン利用、石油天然ガス資源の探査および開発利用、再生可能エネルギーの開発利用、大規模送配電および電力網の安全確保の5テーマが挙げられている。

重大特定プロジェクト

 重大特定プロジェクトとは、国家目標と重要技術のブレークスルーを達成するため、科学技術資源を重点的に投資して重要基盤技術を完成させるもので、いわゆる「ナショナルプロジェクト」である。本綱要では、情報やバイオテクノロジー等の戦略的産業分野、エネルギー資源・環境および国民衛生等の緊急課題分野、軍民両用技術分野、国防技術分野などで、重要電子部品、ハイエンド汎用チップおよび基礎ソフトウェアなど16項目を選定している。
 この綱要が公表された後、この重大特定プロジェクトは次項で述べる「国家科学技術発展11次五か年計画(2006年〜2010年)」でより具体的な内容が示され、「国家科学技術重大特定プロジェクト:国家科技重大专项」として実施されていった。

先端技術と基礎研究

 将来の課題に対応し経済と社会の発展を導く創新能力を高めるため、先端技術と基礎研究を強化することとし、8つの先端技術領域、3つのカテゴリーの基礎科学、4つの重大科学研究計画を選定する。
 8つの先端技術領域とはバイオテクノロジー、情報技術、新材料技術、先進製造技術、.先進エネルギー技術、海洋技術、レーザー技術、航空宇宙技術である。3つのカテゴリーの基礎研究とは、学術分野を発展に寄与する研究、先端的課題を究明する研究、国家の重大な戦略ニーズに対応する基礎研究である。4つの重大科学研究計画とは、タンパク質研究、量子制御研究、ナノテクノロジー研究、発育および生殖の研究である。

政府の措置

 選定されたプロジェクトや研究計画などを実施するため、本綱要は政府の取るべき措置として以下を列記している。
・科学技術体制改革を進め、国家創新体制を構築する。具体的には、企業の技術開発に対する財政税制上の優遇、政府調達、知財戦略、金融措置、ハイテク産業化措置、郡民転換措置などを強化する。
・研究開発資金を確保し、科学技術インフラを整備する。
・創新人材の育成を強化する。

参考資料

・中央人民政府HP 『国家中长期科学和技术发展规划纲要(2006—2020年)