中国の個別のライフサイエンス政策は、第14次五か年計画などを基本とし、農業、バイオテクノロジー、国民の健康、基礎研究など個別の政策が策定されている。

1. 農業

 新中国建国以来、政府の重要な政策課題の一つが国民の食糧の確保であった。このため農業技術の改良改革は科学技術上の極めて大きな課題であり、現在でもその重要性は維持されている。

 従来であれば、国家全体の五か年計画が策定されると、その方針に従って個別の分野の五か年計画が策定されることが多いが、今回の第14次五か年計画の場合、農業分野の5か年計画は2024年5月時点で公表されていない。

 そこでここでは、直近の「農業農村科学技術イノベーション第13次五か年計画:“十三五”农业农村科技创新专项规划」の内容を、以下に紹介する。

 農業は小康社会の建設と近代化実現の基礎と認識し、科学技術イノベーションの強化により農業の主要技術及び共通技術に関する研究を進め、農業の近代化、食料安全保障、農家の収入増を目指す。
 また、家畜や作物の繁殖のための重要な技術を開発し、優良品種を育成し、種子産業を強化する。
 さらに、農業バイオ技術、インテリジェント農業生産、インテリジェント農業機械などの開発に取り組み、節水農業・循環型農業・農業公害防止などの技術を開発して農業のグリーン開発を達成する。

 具体的なテーマとして、①農産物や家畜の繁殖技術、②穀物の生産効率の向上、③高収量の農産物の開発、④海水・淡水水産科学技術、⑤安全かつ効率的な畜産技術、⑥森林資源の効率的な利用、⑦農地の汚染防止技術、⑧森林資源の持続的利用技術、⑨アルカリ土壌改良技術、⑩農薬・飼料などに係るバイオ技術、⑪農業機械のインテリジェント化、⑫効率的な植物バイオマス、⑬インテリジェント農業技術を挙げている。 

2. バイオテクノロジー

 バイオテクノロジーの政策についても農業分野と同様であり、同分野の5か年計画は2024年5月時点で公表されていない。
 そこで直近の「バイオ技術イノベーション第13次五か年特別計画:“十三五”生物技术创新专项规划」、「バイオ産業発展第13次五か年計画:“十三五”生物产业发展规划」の内容を、以下に紹介する。

 現在、バイオテクノロジーは世界の製造産業の分野において革命的な変革を起こしているとの認識から、中国もその潮流に乗り、先進的なバイオテクノロジーを開発する。

 具体的な施策の1つ目は最先端のバイオテクノロジーの開発である。ゲノミクス、合成バイオテクノロジー、生物学的ビッグデータ、3D バイオプリンティング技術、脳科学と人工知能、遺伝子編集技術、構造生物学など、ライフサイエンス研究におけるキーテクノロジーの技術開発を強化し、国際的なバイオテクノロジー競争に伍していく。

 2つ目は新しい生物医学技術の開発である。新型ワクチン・抗体開発、免疫療法、遺伝子治療、細胞療法、幹細胞と再生医療、ヒトの遺伝子分析と規制、革新的な医薬品・生物薬剤などの研究開発を行い、先進バイオ産業を強化する。

 3つ目はバイオ医療材料の開発である。3D バイオプリンティング、材料表面のバイオ機能化と修正、新世代のバイオ素材などの開発を加速することにより、組織の置き換えや機能の修復などのキーテクノロジーの進歩を加速する。また、埋め込み型医療機器や人工臓器などの医療製品を開発し、バイオ医療材料産業の競争力を高める。

 4つ目はグリーンバイオ製造技術である。主要化学製品のバイオ製造、新しいバイオエネルギーの開発、有機性廃棄物とガス状炭素酸化物資源のバイオ変換、汚染産業におけるバイオプロセスの置換などに関する研究を行い、バイオプロセス効率、バイオ製造コストなどの技術を開発する。

 5つ目は生物資源の利用技術である。戦略的な生物資源プール及び情報サービスプラットフォームを構築し、バイオ産業の持続可能な開発のための資源を提供する。

 6つ目はバイオセキュリティ技術である。バイオハザードのリスク評価、監視と早期警戒、検出とトレーサビリティ、緊急対応などの関連技術開発を行い、高度に統合されたバイオセーフティ防衛システムを構築する。

3. 国民の健康

 国民の健康についての研究開発の基本的な考え方は、第14次五か年計画や健康中国2030などをベースとして、「衛生・健康科学技術イノベーション第14次五か年特別計画:“十四五”卫生与健康科技创新专项规划」に述べられている。

 同計画では、衛生と健康に係わる科学技術の重要性について、以下のように述べている。
○中国が科学技術強国となるための重要な活動である。
○中国人民の健康を保障する切実なニーズである。
○健康産業の発展を促進する革新的な活動である。
○中国が人類全体の健康に貢献しうる重要な道である。

 次に目標として、次の4つを挙げている。
○遺伝子治療、免疫治療、再生医療などの重要な技術開発で突破を図り、予防、診断、リハビリなどの新技術を開発する。
○臨床医療センター、疾病情報センター、遺伝子バンクなど、ライフサイエンスのプラットフォームを建設・強化する。
○新薬、試薬、高度医療機器の開発・国産化を進め、早期診断、個別化医療などのサービスを発展させる。
○国際レベルの医学健康研究リーダーを育成し、ライフサイエンス人材の強化を進める。

 その上で、重点任務として、次の5つを挙げている。
○応用基礎研究の強化応用基礎研究を強化する。
○最先端技術開発で突破を図る。
○慢性疾患など多発的な疾患の発症を予防し、制御能力を向上させる。
○重大な伝染病についての予防・制御能力を高める。
○医薬品、生物医療材料、情報システム、リハビリ器具などの研究開発を促進する。

4. 基礎研究

 ライフサイエンスの基礎研究の政策については、農業やバイオテクノロジーと同様であり、5か年計画は2024年5月時点で公表されていない。そこで直近の「国家基礎研究第13次五か年特別計画:“十三五”国家基础研究专项规划」の内容を以下に紹介する。基礎研究全般の強化については、次の3つのカテゴリーが示されている。

(1)科学技術プロジェクト

 国の主要な戦略的ニーズに合わせた基礎研究として、「量子通信と量子コンピューター」と「脳科学と脳研究」が挙げられ、ライフサイエンス研究に関係する「脳科学と脳研究」では、脳と認知、脳の知能、脳の健康という3つの課題が挙げられている。具体的には、ヒトの脳の巨視的神経回路網、モデル動物の神経回路網の構造と機能、計算理論、脳知能システム(脳シミュレーション)、ネットワーク構造と脳認知機能、高度な知能機械と情報処理技術研究、知的発達の促進、脳疾患と外傷の予防(脳の保護)、重度の脳疾患メカニズムなどの研究が挙げられている。

(2)社会ニーズを踏まえた戦略的基礎研究

 戦略的基礎研究では、エネルギーのグリーン利用、モノのインターネットなど6つの重点領域を挙げており、その中にライフサイエンス関係として「近代農業」と「国民の健康増進」の2つの領域が挙げられている。

 近代農業としては、高収量の食料生産、インテリジェント農業機械設備、林業資源耕作及び効率的利用、高品質・高収量作物、化学肥料及び農薬削減、農業害虫の防除、精密栽培の展開、分子遺伝的変異、優良形質の形成、種間相互作用及び指向性栽培基礎研究などの実施が挙げられている。

 国民の健康増進としては、非感染性疾患、精密医療、生物学的製剤及び生物学的治療、漢方薬の近代化、リプロダクティブヘルス及び主要な先天性欠損症、高齢化対応、バイオセーフティ、移動医療、生物医学的材料及び組織・臓器修復代替品、食品及び薬品の安全性、デジタル診断・治療装置、個別化医療などが挙げられている。

(3)国家のイノベーション基盤を構築する先端的基礎研究

 最後に先端的な基礎研究であるが、全分野での基礎研究として量子制御と量子情報、ナノテクノロジーなど13の重点領域が挙げられており、この中にライフサイエンス関係として、タンパク質複合体と生命過程の制御、幹細胞とトランスレーショナル研究、合成生物学、発達における遺伝と環境の相互作用、微生物学の5つの領域が挙げられている。

 まず1つ目のタンパク質複合体と生命過程の制御であるが、タンパク質機構の複雑な構造と機能を明らかにし、ネットワークの調節、動的変化の制御、オルガネラ(細胞小器官:細胞の内部で特に分化した形態や機能を持つ構造の総称)やバイオフィルム関連タンパク質機械、高解像度低温電子顕微鏡、磁気共鳴技術などの技術的方法の開発が挙げられている。
 2つ目の幹細胞とトランスレーショナル研究であるが、組織幹細胞の獲得、機能と制御、幹細胞の分化と細胞の分化転換、幹細胞移植後のイン・ビボ機能の確立と制御、幹細胞ベースの組織と臓器機能の再構築、幹細胞リソースバンク、動物モデルを用いた幹細胞の前臨床評価、幹細胞の臨床研究などが挙げてられいる。
 3つ目の合成生物学であるが、人工遺伝子系、人工生物系デバイス、人工細胞などの創出、病気の診断と治療、人工的な生物学的炭素固定、薬物の高効率規模合成、化学物質の構築に対する科学的支援などが挙げられている。
 4つ目の発達における遺伝と環境の相互作用であるが、生命体の発達と代謝メカニズム、胚と組織と器官の発達、成体の組織と器官の可塑性、老化と胚と組織発達の代謝調節、識別の発達、大型動物の遺伝的に改変された株の作製などが挙げられている。
 5つ目の微生物学であるが、微生物形成、遺伝的安定性及び環境との相互作用メカニズム、農業微生物群と作物の成長及び発達との関係、環境ストレス及び害虫に抵抗するメカニズム、生態環境汚染モニタリング、中国人集団における微生物群と健康関連機能に関する研究科学などが挙げられている

参考資料

・中国中央人民政府HP 中华人民共和国国民经济和社会发展第十四个五年规划和2035年远景目标纲要
https://www.gov.cn/xinwen/2021-03/13/content_5592681.htm
・科学技術部HP 关于印发《“十三五”农业农村科技创新专项规划》的通知 https://www.most.gov.cn/xxgk/xinxifenlei/fdzdgknr/fgzc/gfxwj/gfxwj2017/201706/t20170627_133760.html
・科学技術部HP 科技部关于印发《“十三五”生物技术创新专项规划》的通知 https://www.most.gov.cn/xxgk/xinxifenlei/fdzdgknr/fgzc/gfxwj/gfxwj2017/201705/t20170517_132857.html
・国家発展改革委員会HP “十三五”生物产业发展规划 https://www.ndrc.gov.cn/fggz/fzzlgh/gjjzxgh/201706/t20170605_1196775.html
・科学技術部HP 科技部 国家卫生健康委关于印发《“十四五”卫生与健康科技创新专项规划》的通知  https://www.most.gov.cn/xxgk/xinxifenlei/fdzdgknr/fgzc/gfxwj/gfxwj2022/202301/t20230116_184248.html
・科学技術部HP 关于印发“十三五”国家基础研究专项规划的通知 https://www.most.gov.cn/xxgk/xinxifenlei/fdzdgknr/qtwj/qtwj2017/201706/t20170608_133409.html