1. 概要

 1949年に建国以来、中国は旧ソビエト連邦に倣って計画経済を基本としており、鄧小平の改革開放路線による社会主義市場経済となって以降も、中国共産党と国務院が立案し決定する諸計画に従っている。

 これらの諸計画のうち最も重要な計画は五か年計画であり、現在は2021年から2025年をカバーする「第14次五か年計画」の期間中である。通常は、長期的な計画が別途あって、それを踏まえてカバーする五か年計画が策定・決定される場合が多かったが、第14次五か年計画の場合、2035年までの目標が併せて掲げられている。

 これとは別に、科学技術や産業などの特定の分野に関し、10年から30年程度を見通して中長期計画が策定されることもあり、現在のライフサイエンス関係で重要なものとして、「国家イノベーション駆動型発展戦略綱要(2016年~2030年)」、「中国製造2025(Made in China 2025)」、「健康中国2030」がある。

2. 第14次五か年計画

 第14次五か年計画の正式名称は、「中国国民経済・社会発展第14次五か年計画および2035年までの長期目標綱要(中华人民共和国国民经济和社会发展第十四个五年规划和2035年远景目标纲要)」である。2021年3月、全国人民代表大会が北京で開催され、第14次五か年計画が決定された。本計画の詳細はこちらを参照されたい。

2021年開催の全国人民代表大会
2021年3月の全国人民代表大会 中新网HPより引用

 ライフサイエンス関連の主要目標として、以下が示されている。
・人口千人当たりの医師(医師助手)数:2.9人(2020年実績)→3.2人(2025年目標)
・平均寿命:77.3歳(2020年実績)→1歳延ばす(5年間の累計)
・食料総合生産力:ー(2020年実績)→>6.5億トン(2025年目標)

 重要な先端科学技術分野として7つの領域が示されているが、ライフサイエンスの分野では、脳科学と脳模倣型AI、遺伝子とバイオテクノロジー、臨床医学と健康、の3領域が挙げられている。

 現代産業体系の構築に係わる研究開発として8つの領域が示されているが、ライフサイエンスの分野では、ハイエンド医療機器と新創薬、農業機械・設備、の2領域が挙げられている。

 農業と農村に関しては、第7篇(全体19篇)が「農業・農村の重点発展を堅持し、農村活性化を総合的に推進する」となっている。その中で、農業機械の改良開発、作物の収穫改善、種子バンクの構築、スマート農業などが謳われている。

 国民の健康と医療に関しては、第13篇が「国民の資質の向上と総合的な人材育成の推進」として、教育と併せて記されている。その中で、高性能医療機器の開発や革新的な医薬品・ワクチンの開発などが謳われている。

3. 国家創新駆動発展戦略綱要

 2016年5 月、中国共産党中央と国務院は「国家創新駆動発展戦略綱要(国家创新驱动发展战略纲要)」を発表した。本綱要の詳細はこちらを参照されたい。

 本綱要では国際社会での競争力の優位性の確立するための重点領域として、次世代ICT技術、スマート・グリーン製造技術など10項目が挙げられており、この中では、先端農業技術とヘルスケア技術の2領域が、ライフサイエンス関係となっている。

4. 健康中国2030

 2016年8月、国民の健康増進を目的として「健康中国2030」計画綱要が公表された。経済の発展に伴い社会や市民の生活環境が変化し、運動不足、偏った食生活、ストレスの増大などに伴う生活習慣病が増加するとともに高齢化が問題になっており、これらを中長期的に解決していくのがこの計画の狙いとなる。併せて政府の全面的バックアップにより、医薬品・医療、スポーツ、食品、環境セクターなどヘルスケアを中心とした幅広い産業を振興しようとするものである。

 健康中国2030では、次の目標が掲げられている。
〇現在の平均寿命76.3歳から2020年に77.3歳、2030年に79.0歳に伸ばす。
〇健康サービス産業の規模を2020年に8兆元、2030年に16兆元まで拡大する。
〇生活習慣病などを減らすため、日常的に運動する人を2014年の3.6億人から2020年の4.4億人、2030年の5.3億人へと増やす。

 ライフサイエンス関係の施策として、次のものが挙げられている。
〇重大疾病や慢性疾患の検査と早期発見を強化する。
〇中国医学と西洋医学を結合させ難病や重病の治療効果を高める。中国医学の海外進出を後押しする。漢方薬の国際化を推進する。
〇食品と医薬品の安全基準の整備や審査基準の向上を進める。
〇各種健康医療データの体系化を通じてビッグデータ応用の新業種を創出する。

5. 中国製造2025

 2015年5月国務院は、強力な産業政策である「中国製造2025(Made in China 2025)」を公表した。本政策の詳細はこちらを参照されたい。

 中国製造2025では、次世代ICT技術、ロボット、航空産業、宇宙産業など10分野の産業を優先分野として列記しており、ライフサイエンス関係としては「生物医薬と高性能医療機器」を挙げている。
 生物医薬とは、重大疾患のための化学医薬品、漢方薬、生物製剤などの新しい製品を開発するものであり、新しい作用メカニズムと新しい標的に対応する化学医薬品、抗生物質、抗体薬物複合体(ADC)、構造タンパク質及びポリペプチド製剤、新型ワクチン、新型創製漢方薬、オーダーメイド治療用薬品などが含まれる。
 一方、高性能医療機器とは、画像装置、医療用ロボットなどの高性能診療設備、完全生分解性の血管内ステントなどの高額医用消耗品、装着可能医療機器、遠隔診療などに用いるモバイル医療製品などを重点的に開発するものであり、3Dバイオプリンティング、iPS細胞などの新しい技術の研究とその応用を併せて行う。

参考資料

・中国中央人民政府HP 中华人民共和国国民经济和社会发展第十四个五年规划和2035年远景目标纲要
https://www.gov.cn/xinwen/2021-03/13/content_5592681.htm
・中国人民網HP 「中共中央国务院印发《国家创新驱动发展战略纲要》
・中国中央人民政府HP 健康中国2030 https://www.gov.cn/zhengce/2016-10/25/content_5124174.htm?eqid=ac00b02f000027f90000000464586447 
・環球网HP 《中国制造2025》(全文) https://china.huanqiu.com/article/9CaKrnJLa1H