はじめに
支志明(1957年~)香港大学教授は、金属錯体などの研究で成果を挙げ、国家自然科学賞一等賞などを受賞した。また教育者として、多くの化学者の育成にも当たった。
生い立ちと教育
支志明(Chi-ming Che)は1957年に、香港九龍半島のジョーダン(佐敦)地区に生まれた。父親は商売をし母親は専業主婦の家庭であったが、兄弟が6人もいて裕福ではなかった。貧しい家計を支えるため、子供達は内職的なこともやった。
中学生となった支志明は理科に興味を持ち、科学の書籍を図書館で借りて読んだ。中学四年の時、家庭教師のアルバイトを見つけ、これが家計や学費の助けとなった。
支志明は1975年に香港大学の化学科に入学し、1978年に優秀な成績で同大学を卒業した。引き続き香港大学の大学院に入学し、1982年に博士の学位を取得した。
支志明はその後米国に渡り、カリフォルニア工科大学(カルテック)でハリー・グレイ(Harry Barkus Gray)教授の研究室でポスドク研究員となり、生物無機化学の研究を行った。
香港大学教授
支志明は1983年に米国から香港に戻り、香港大学化学科の講師に採用された。
その後、1990年に准教授に、さらに1992年に教授に昇進した。支志明は、教授就任時に35歳であり、当時の香港大学でも最も若い教授の一人であった。
金属錯体の研究など成果
支志明は金属錯体を研究し、大きな成果を挙げていった。
金属錯体における多重結合の反応性の研究は現代化学の最前線分野であり、有機触媒、無機生化学、光化学の発展の基礎となっている。支志明は、活性ルテニウム-酸素、ルテニウム-窒素、ルテニウム-炭素多重結合錯体の化学を確立し、キラル反応を初めて確認した。
これにより支志明は、窒素カップリング反応、閉殻金属イオン励起状態錯体の形成、生体模倣有機酸化など、化学の分野における多くの古典的な問題を解決した。
支志明は2006年に、この金属錯体の研究により国家自然科学賞一等賞の栄誉に輝いた。なお、国家自然科学賞一等賞は研究チームで受賞することが多いが、支志明の場合には単独での受賞であった。
支志明は、医薬化学の面でも成果を挙げており、例えば白金、ルテニウム、パラジウムなどをベースとした抗腫瘍活性を有する金属化合物の開発などを進めている。
支志明は1995年に、香港出身の科学者として初めて中国科学院の院士に当選している。香港出身で中国科学院の院士となった科学者は、ラップチー・ツィ(徐立之)元香港大学学長などがいるが、支志明は中国籍での初めての院士であった。
研究者育成でも成果
支志明は、研究者だけでなく、後進を育てる教育者としても大きな成果を挙げている。彼は、香港大学化学科の教授を長く務める傍ら、中国大陸の吉林大学、中山大学、清華大学などの客員教授や客員講師を務め、2016年時点で160名以上の博士を育成している。
支志明の育てた科学者の一人に、任詠華(任詠华、Vivian Yam)香港大学教授がいる。任詠華は1963年に香港に生まれ、香港大学で支志明に師事し、1985年に学士の学位を、1988年に博士の学位を同大学から取得している。1995年から母港香港大学化学科の教授を務めている。
彼女も極めて優秀な化学者であり、2006年に38歳という当時最年少の中国科学院院士に当選している。
参考資料
・香港大学HP Department of Chemistry Academic Staff https://chemistry.hku.hk/people/academic_staff_research/
・捜狐HP 他是最年轻的院士,学生是最年轻女院士,能否获下一个诺贝尔奖? https://www.sohu.com/a/726765453_120677069
・新浪HP 支志明:从“寒门学子”到知名科学家 https://finance.sina.com.cn/roll/2016-09-30/doc-ifxwkvys2343732.shtml
・科学技術部HP 2006年度国家自然科学奖一等奖2 https://www.most.gov.cn/ztzl/gjkxjsjldh/jldh2007/jldh07gdtp/200712/t20071228_58102.html
・中国科学院HP 支志明 https://casad.cas.cn/ysxx2022/ysmd/hxb/200906/t20090624_1802031.html
・中国科学院HP 任詠华 https://casad.cas.cn/ysxx2022/ysmd/hxb/200906/t20090624_1802176.html