Method of Selection
ここでは、中国国内で評価の高い科学者の選定方法を述べる。選定の基準として用いたのは、中国政府が授与する国家自然科学賞一等賞と、香港の民間団体が授与する未来科学大賞である。
なお、香港生まれの人は中国以外の国籍を有している場合があるが、現在の香港と中国本土との関係に鑑み、中国本土並みに扱うこととする。一方、台湾は中国共産党が支配する中華人民共和国の管轄下にはないが、中華系の科学者であることは間違いないため、番外編として扱うこととしたい。
1. 国家自然科学賞一等賞 1st Prize of National Natural Science Award
国内的に高い評価の科学者を選定する際の基準の一つとして、中国政府が授与する国家自然科学賞一等賞に着目した。
中国国務院は、1999年に科学技術の進歩活動に貢献する科学技術者や組織を顕彰するため、国家科学技術奨励条例を制定した。この条例では、現在次の5つの国家科学技術賞が定められている。
① 国家最高科学技術賞
② 国家自然科学賞
③ 国家技術発明賞
④ 国家科学技術進歩賞
⑤ 中華人民共和国国際科学技術合作賞
①は、日本の学術関係の文化勲章に相当する最高賞であるが、過去の受賞者を調べるとほとんどが功成り名を遂げた高齢の引退している科学者が多く、また、宇宙、原子力などの軍事・安全保障関係が多い。
②の国家自然科学賞は一等賞と二等賞がある。一等賞は個人とともに複数の研究者よりなる研究チームにも授与され、その数は毎年1から2である。二等賞はかなりの人数となる。
③や④では、受賞者はかなりの人数である。⑤は主として外国人に対して授与される賞である。
そこで、中国国内で活躍する科学者を選定基準として、②の国家自然科学一等賞の単独受賞者および受賞チームの筆頭科学者を選定対象とした。なお、条例により定められたのは1999年であるが、それ以前にも国家自然科学賞一等賞は存在しており、それも確認して選定の対象とした。
国家自然科学賞一等賞を受賞した人達を見ると、1989年より前に受賞した研究チームの筆頭者や単独受賞者は、全て亡くなっている。1989年から2020年までの受賞者の数は11名である。詳しくはこちらを参照されたい。
2. 未来科学大賞 Future Science Award
もう一つ、国内的に評価の高い科学者選定の基準として、近年創設された未来科学大賞に着目した。
未来科学大賞は、香港を拠点とする未来科学賞財団が資金を提供し、北京懐柔未来フォーラムが協賛するもので、中国における優れた業績を表彰することを目的としている。
2016年に創設され、分野は、生命科学、物質科学、数学・計算機科学の三分野である。
受賞対象科学者は、中国本土、香港、マカオ、台湾の優れた科学技術的業績を有する科学者（国籍は問わない）である。
授与が開始された2016年から本年までの、未来科学大賞の受賞者を列記すると次の35名である。既に本HP野別のコーナーで取り上げた科学者、亡くなっている科学者、高齢で現役とはいえない科学者、外国人、ネットの情報が少ない科学者などを除くと、全体として25名となる。詳しくはこちらを参照されたい。
3. 選定リストの作成 Concrete Selection
国家自然科学賞一等賞の受賞者（チームの場合は筆頭受賞者）で、死亡者や高齢者を外すと合計11名であった。
一方、未来科学大賞の受賞者で、すでに国際的に評価の高い科学者として取り上げた人、死亡者、高齢者、外国人、ネットでの情報が不足している人を外すと、合計で25名となった。
これら二つの賞で重複して受賞している人は6名おり、この重複を除くと本コーナーで取り上げたい国内的に評価の高い科学者は次の30名である。
これら30名を、両賞で受賞年が早い順にリストアップしたものが下記のリストである。なお太字の人は、2つの賞を受賞した6名の科学者である。
なお、林本堅は台湾人であるため、番外編として扱うこととした。
・趙忠賢（赵忠贤、1941年～） 中国科学院物理研究所
1989年国家自然科学一等賞筆頭受賞者
2013年国家自然科学一等賞筆頭受賞者
2023年未来科学大賞（物質科学賞）
・支志明（1957年～） 香港大学
2006年国家自然科学一等賞筆頭受賞者
・張尭学（张尧学、1956年～） 中南大学
2014年国家自然科学一等賞筆頭受賞者
・潘建偉（潘建伟、1970年～） 中国科学技術大学
2015年国家自然科学一等賞筆頭受賞者
2017年未来科学大賞（物質科学賞）
・王貽芳（王贻芳、1963年～） 中国科学院高エネルギー物理研究所
2016年国家自然科学一等賞筆頭受賞者
2019年未来科学大賞（物質科学賞）
・薛其坤（1962年～） 清華大学
2016年未来科学大賞（物理科学賞）
2018年国家自然科学一等賞筆頭受賞者
・李家洋（1956年～） 中国科学院遺伝・発育生物学研究所
2017年国家自然科学一等賞筆頭受賞者
2018年未来科学大賞（生命科学賞）
・唐本忠（1957年～） 香港中文大学（深圳）
2017年国家自然科学一等賞
・施一公（1967年～） 清華大学
2017年未来科学大賞（生命科学賞）
・張啓発（张启发、1953年～） 華中農業大学
2018年未来科学大賞（生命科学賞）
・馬大為（马大为、1963年～） 中国科学院上海有機化学研究所
2018年未来科学大賞（物質科学賞）
・周其林（1957年～） 南開大学
2018年未来科学大賞（物質科学賞）
2019年国家自然科学一等賞筆頭受賞者
・馮小明（冯小明、1963年～）四川大学
2018年未来科学大賞（物質科学賞）
・邵峰（1973年～） 北京生命科学研究所
2019年未来科学大賞（生命科学賞）
・陸錦標（陆锦标、1953年～）香港科技大学
2019年未来科学大賞（物質科学賞）
・王小雲（王小云、1966年～） 山東大学
2019年未来科学大賞（数学・計算機科学賞）
・包信和（1959年～） 中国科学院大連化学物理研究所
2020年国家自然科学一等賞筆頭受賞者
・趙東元（赵东元、1963年～） 復旦大学
2020年国家自然科学一等賞筆頭受賞者
・盧柯（卢柯、1965年～） 中国科学院金属研究所
2020年未来科学大賞（物質科学賞）
・彭実戈（彭实戈、1947年～） 山東大学
2020年未来科学大賞（数学・計算機科学賞）
・袁国勇（1956年～） 香港大学
2021年未来科学大賞（生命科学賞）
・張傑（张杰、1958年～） 中国科学院物理研究所
2021年未来科学大賞（物質科学賞）
・李文輝（李文辉、1971年～） 清華大学
2022年未来科学大賞（生命科学賞）
・楊学明（杨学明、1962年～） 中国科学院大連化学物理研究所
2022年未来科学大賞（物質科学賞）
・莫毅明（1956年～） 香港大学
2022年未来科学大賞（数学・計算機科学賞）
・柴継傑（柴继杰、1966年）西湖大学
2023年未来科学大賞（生命科学賞）
・周倹民（周俭民、1967年頃～）中国科学院 遺伝・発育生物学研究所
2023年未来科学大賞（生命科学賞）
・陳仙輝（陈仙辉、1963年～）中国科学技術大学
2023年未来科学大賞（物質科学賞）
・何恺明（1984年～） フェースブック
2023年未来科学大賞（数学・計算機科学賞）
（番外編）
・林本堅（林本坚、1942年～）台湾国立清華大学
2018年未来科学大賞（数学・計算機科学賞）