はじめに

 盧柯 (卢柯、Ke Lu、1965年~)は、華東工程学院を卒業し、中国科学院金属研究所の研究生となり、1990年に博士学位を取得して、同研究所の研究員となった。その後、ドイツのマックスプランク金属研究所に留学して帰国し、金属研究所でナノ金属材料を研究し、2020年に未来科学大賞物質科学賞を受賞した。
 盧柯は、政治家としても活躍し、中国の民主会派である九三学社の中央副主席や遼寧省人民政府副主席などを務めている。

盧柯の写真
盧柯 百度HPより引用

生い立ち

 盧柯(卢柯、Ke Lu)は、1965年に中国大陸の北西部にある甘粛省華池県に生まれた。盧柯の両親は、中学校の教師であった。中国全土を混乱に巻き込んだ文化大革命が開始されたのが盧柯が1歳となった1966年であり、11歳となった1976年暮れに4人組が逮捕されて文革が終了している。

 幼い頃から盧柯は好奇心旺盛な子供であり、両親はこの性格を活かそうと疑問を持ったことは本を読んで解決を図るように彼に勧めたので、盧柯は読書が大好きになった。中学生の頃には、物理や化学に強い興味を持った。 

大学で材料学を学ぶ

 16歳となった1981年に、盧柯は飛び級により大学共通入試である高考を受験し、見事合格した。

 入学したのは、江蘇省南京市にある華東工程学院(現在の南京理工大学)であり、専攻は金属材料・熱処理であった。
 ちなみに、華東工程学院は人民解放軍が1953年に黒竜江省ハルビン市に設置した軍事工程学院の一部局(砲兵系)が前身であり、1962年に南京に移動し、1966年に独立した。1993年には名称を南京理工大学とし、211工程などの対象大学として、中国国内で名門校の一つとなっている。南京理工大学の所管は国務院の工業情報化部であり、いわゆる国防七校の一つとなっている。 

中国科学院金属研究所で修士、博士の学位を取得

 盧柯は、学部在籍中に材料研究の醍醐味に魅せられ、大学院生として勉学の続行を考えるようになった。ところが、大学に入った際の高考の成績は余り芳しいものではないと入学後に知らされ、特に英語に難点があった。このため、英語力を強化して大学院入試に合格するため、英語の専門書の中国語訳を自らに課した。その甲斐あって、中国科学院全体でも優秀な成績で研究生となることができた。

 大学を1985年に卒業した盧柯は、遼寧省瀋陽にある金属研究所に研究生(日本の大学院生)として入所した。

金属研究所の写真
中国科学院金属研究所 同研究所HPより引用

 研究生となった盧柯は、材料の一分野であるアモルファス金属の研究を実施していく。1988年に修士の学位を取得するが、盧柯の優秀なことを知った金属研究所の幹部は、所として日本に留学させることを盧柯に提案した。盧柯は、今は自分自身の学問的なレベルを高める時期であるとの理由で、この日本留学を断った。

 博士課程に進んだ盧柯は、1989年に中国科学院院長奨学金特別賞を受賞した。1990年に金属研究所から博士の学位を取得した。

 博士の学位を取得し同研究所の職員(助理研究員)として研究を続行していた盧柯に、再び海外留学のチャンスが訪れる。今回はドイツであり、シュツットガルトにあるマックスプランク金属研究所であった。盧柯は1991年から1993年まで同研究所に訪問研究者として滞在し、その後再び中国科学院金属研究所に戻った。 

金属研究所で成果を挙げる

 帰国した盧柯は、大学院やドイツ留学時の研究テーマであるナノ構造材料、ナノ構造金属の研究を続行した。

 2000年に盧柯は、銅をベースとし高い塑性延性を有するナノ金属の創成に成功した。この手法は表面ナノテクノロジーと呼ばれ、国際的なナノテクノロジー研究者の大きな注目を集めた。
 さらに、この表面ナノテクノロジーの手法を用いてナノツイン材料、ナノラメラ材料、傾斜ナノ構造材料などの研究を進めた。

 これらの業績により、盧柯は金属研究所で異例な昇進を遂げていく。
 盧柯は1997年に、金属研究所内に設置された「快速凝固非平衡合金国家重点实验室」の主任に抜擢された。2001年には、金属研究所の所長となり、併せて「沈阳材料科学国家(联合)实验室」の主任となった。36歳という異例の若さでの所長就任であった。

 そして2003年には、中国の研究者にとっての最高権威となる中国科学院の院士に当選した。年齢は38歳であり、当時最年少の院士であった。 

未来科学大賞受賞

 これらの業績により、盧柯は2020年に、未来科学大賞物質科学賞を受賞した。受賞理由は、「銅金属の高強度、高靱性、高導電性を達成するためのナノツイン構造と勾配ナノ構造の画期的な発見とその応用(开创性的发现和利用纳米孪晶结构及梯度纳米结构以实现铜金属的高强度、高韧性和高导电性)」であった。
 未来科学大賞は、香港を拠点とする未来科学賞財団が中国における優れた業績を表彰することを目的として2016年に創設した賞であり、生命科学、物質科学、数学・計算機科学の3分野がある。 

盧柯未来科学大賞の写真
未来科学大賞受賞者・盧柯 上観HPより引用

政治家としても活躍

 盧柯は、未来科学大賞受賞後も、沈阳材料科学国家研究中心の主任として引き続きナノ金属材料の研究を進めている。

 これとは別に、盧柯は博士学位を取得した1990年に中国の民主会派である九三学社に加盟し、2012年から九三学社の副主席を務めるなど、中国の政治家としても活躍している。2018年には遼寧省人民政府副主席に就任している。現在は、遼寧省政協副主席を務めている。

参考資料

・中国科学院HP 卢柯:最年轻的中科院院士是如何炼成的 https://www.cas.cn/xzfc/201909/t20190925_4717114.shtml
・九三学社中央委員会HP 九三学社中央副主席 卢柯 https://www.93.gov.cn/bsjs-ldcy-zxfzx-lkfzx/index.html
・原創HP 30岁当博导,38岁当选中科院院士,最年轻院士卢柯的加速成长之路  https://baike.baidu.com/tashuo/browse/content?id=0c0eaf1e443cd14fb62e1c41
・上観新聞HP 副省长拿了个“中国诺贝尔”,这个“隐藏”多年的科学家暴露了 https://www.jfdaily.com/wx/detail.do?id=287931