中国のライフサイエンス関連の政策などを実質的に策定しているのが国務院の各部局である。国家衛生健康委員会、農業農村部、科学技術部などが重要である。

1. 国務院全体

 国務院は、中国の国家行政機関であり、諸外国の政府・内閣に相当する。

 中国では、中国共産党が国家を領導するとの憲法の規定があることや、主要幹部の実質的な人事権が中国共産党にあることなどのため、日本や米国など西側諸国の政府・内閣と大きく異なり、中国共産党が主体となって決定された政策を具体的に実施する執行機関的な色彩が強い。
 ただ、国務院の各部局は行政の最前面にいて政策立案のための知見や経験を多く有しており、ライフサイエンスを含めた個々の政策立案に際して中国共産党と情報提供などで協力し、必要に応じて共同で政策立案に当たっている。

 国務院の全体構成は次図の通りである。

国務院全体の組織図
国務院の全体像

 図の中で、組成部門と呼ぶ部・委員会(26部門)が日本でいう政府省庁であり、ライフサイエンス関係では、国家発展・改革委員会、国家衛生健康委員会(旧衛生部)、科学技術部、農業農村部が重要である。
 また、研究開発などを担当する中国科学院は直属事業単位、医薬品の審査を行う国家薬品監督管理局を管理する国家市場監督管理総局は直属機構である。
 さらに、部・委員会が管理するものの独立的な色彩の強い部局として、国家中医薬管理局、国家薬品監督管理局、国家林業・草原局がある。

国務院のライフサイエンス関連組織だけを取り出して図示したのが下図である。以下この組織図をもとに、それぞれの組織を説明していきたい。

国務院内のライフサイエンス関連組織   (出典)各種資料に基づき筆者作成

2. 国家発展・改革委員会

 1949年の建国以来、中国は旧ソビエト連邦に倣って計画経済を基本としており、鄧小平の改革開放路線による社会主義市場経済となって以降も、経済の枠組みは中国共産党と国務院を中心とする中央政府が立案し決定する諸計画に従っている。最も枢要な計画は五か年計画であり、この五か年計画を国務院側で主管しているのが国家発展・改革委員会である。同委員会は「発改委」と略称され、経済と社会の政策の研究、経済のマクロ調整などを行っている。
 前身は1952年に成立した国家計画委員会で、成立当初は国務院と並立する機関であったが、1954年に国務院の内部部門として国家計画委員会となり、1998年に国家発展計画委員会に、さらに2003年に現在の名称となった。

3. 国家衛生健康委員会

 国家衛生健康委員会は国務院に設置された行政部局で、国民の健康、医療、疾病対策などを業務としており、日本の旧厚生省に当たる。国家衛生健康委員会は、かつて衛生部と呼ばれていたが、2013年に国家健康・家族計画委員会となり、さらに2018年に現在の名称となった。 

4. 科学技術部

 科学技術部は国務院に属する部門であり、科学技術関連の行政を管轄している。日本の旧科学技術庁に当たる役所である。1956年に科学規格委員会と国家技術委員会の2部門が設立され、2年後の1958年に両委員会が合併して国家科学技術委員会、1970年に中国科学院と合併、1977年に分離して再び国家科学技術委員会と変遷を重ねてきたが、1998年に現名称である科学技術部となった。
 科学技術部は科学技術に関する基本的な政策の立案を行うほか、その政策に基づき科学技術関連のプロジェクトの資金を直接配分している。

5. 国家自然科学基金委員会

 国家自然科学基金委員会(NSFC)は、基礎研究と応用研究の一部を国の財政資金で助成する機関として、1986年2月に国務院に設立された。米国国立科学財団(NSF:National Science Foundation)をモデルとして設立されたこともあって、NSFC(National Natural Science Foundation of China)と略称される。NSFCは、中国の大学や中国科学院などの国の機関の研究を支える資金源として重要な役割を有している。従来は中国科学院と同格で国務院に直属する部局であったが、競争的な資金改革の一環で2018年に科学技術部の外局としての位置付けに変更された。NSFCの主任は科学技術部の副部長を兼務しているが、2019年現在ではまだ独立的に業務を行っている。

6. 農業農村部

 農業農村部は、国務院に属する行政部門であり、日本の農林水産省に概ね相当する。農業、畜産、漁業に係る行政、農水産企業や農産品の認可、技術の試験、農業科学の研究と応用、農機の鑑定、獣医・獣薬・飼料・肥料・種子、農薬の監理などを行う。

7. 自然資源部と国家林業・草原局

 自然資源部は、土地利用政策、資源政策を管轄する国務院の部局である。2018年に、従来の国土資源部・国家海洋局・国家測量地理情報局が統合され、自然資源部が新設された。
国家林業・草原局は国務院にある独立した機関であるが、他の部や委員会の監督を受ける機関の一つであり、自然資源部の監督を受ける。国家林業・草原局は林業に係る業務を所管する部局であり、日本の林野庁に相当する。

8. 中国科学院

 中国科学院(CAS : Chinese Academy of Sciences)は、第一章でも述べたように新中国の科学技術の中心組織として建国直後に設置された。国務院に直属し、研究開発実施機関としては世界最大級である。研究機能の詳細は第五章で述べる。
中国科学院は、顕著な業績を挙げた科学者を顕彰する「院士」という制度を有し、これら有力科学者の大所高所からの意見を集約する機関でもある。中国科学院院士は、1955年に「中国科学院学部委員」としてスタートしたが、1993年に現在の名称となった。院士は終身称号であり、2年おきに中国国内外のトップ研究者・科学者から選ばれる。
さらに中国科学院は、傘下に中国科学技術大学(安徽省合肥市)、中国科学院大学(北京)、上海科技大学(上海市と共管)の3大学を有している。

9. 国家中医薬管理局

 国家中医薬管理局は国務院にある独立した機関であるが、他の部や委員会の監督を受ける機関の一つであり、すでに述べた国家衛生健康委員会の監督を受ける。同局の具体的な任務は、中国医学や漢方薬の発展のための政策の策定、中国医学による治療・予防・健康管理・リハビリテーション・臨床治療の管理、中国医学と西洋医学の統合の調整、中国医学や漢方薬の科学的な解明などである。

10. 国家市場監督管理総局

 国家市場監督管理総局は、国務院の直属機構として2019年3月に設置された新しい役所である。中国政府の構造改革の一環で、会社の設立や商標の登録などを司っていた国家工商行政管理総局の業務や商務部などにあった独禁法関連の業務などに併せて、食品と医薬品の安全性管理を行う国家食品薬品監督管理総局の機能を国家市場監督管理総局へ移管している。
 ライフサイエンスに関係する業務としては、食品と医薬品の安全性管理があるが、このうち食品の安全業務はこの総局で直接実施しており、医薬品の安全業務については次項の国家薬品監督管理局で実施している。食品の安全業務は国民にとって関心の高い事項であり、国務院内の諮問機関として食品安全委員会が設置され、同総局が事務局を担っている。

(10)国家薬品監督管理局
 国家薬品監督管理局は国務院にある独立した機関であるが、他の部や委員会の監督を受ける機関の一つであり、前項の国家市場監督管理総局の監督を受ける。元々は「国家食品薬品監督管理総局」で、食品の安全性と医薬品の安全性の両方の業務を実施していたが、2019年の行政改革でこれらの業務が国家市場監督管理総局に移行し、そのうちでも医薬品については国家薬品監督管理局として半ば独立した組織となった。主要業務は、漢方薬を含む薬品、医療機器、化粧品などの安全確認である。薬剤師の管理登録も行っている。

12. 大学

 中国でも、ライフサイエンスの基礎研究や研究者の育成は大学が主体である。中国の主要な大学は国務院の旧文部省に相当する教育部所管が多いが、日本と違い教育部以外の部や委員会なども大学を所管している。またライフサイエンス関係では、大学そのものは教育部所管であるが、北京大学、復旦大学、吉林大学などのように附属病院が国家衛生健康委員会直属病院となっている例もある。研究面で有力な大学については第五章で述べる。